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魔女さんとお祭り

 あれから時間が経ち、夜を迎えました。


 夜を迎えた魔女さんの家の周りの空は、満点の星空が広がります。


 家をでて既に5分が経ったといったところでしょうか。


 数百メートル離れたところに、賑わっているお祭り会場の光が微かに見えます。


 「ところで魔女さん。飛べたりしないんですか?」


 「飛ぶ!飛ぶ!」


 「飛べたらわざわざ歩きませんよ…」


 「デスヨネー。ところで、魔女さんは有名な魔女の絵本知ってますか?」


 「魔女の絵本…ああ、あの里を守ったとか言う」


 「それです。魔女さんは魔法とか使えないんですか?」


 「残念ながら使えないんですよ」


 「あらそうでしたか」


 「情けない!情けない!」


 「うるさい小人ですね…捻り潰しますよ」


 「怖い!怖い!」


 「はいはい二人とも落ち着いて、もうじき見えてきますよ」


 そういってわたしは目の前を指差します。

 最初はかすかに見えていた会場の光は、もう視界一杯になるほど大きくなっていました。

 あんなに嫌がっていた魔女さんでしたが、外に出るときは出るようです。


 「ついたら何しましょうか。まずは屋台でも巡りませんか?」


 「巡る!巡る!」


 「えー…座って花火待ちましょうよ」


 「いいから屋台巡りましょうね」


 「はぁ…分かりましたよ…」


 「魔女、弱い!弱い!」


 「うるっさいですよこの小人!いい加減にしないと…」


 ぴぎーーーーーっと小人さんは走り回ります。

 仲が良いんだか悪いんだか、あまり関係性は分かりません。


 「ーーおや、みんなも来たのかね」


 わたしたちは突然何者かに話しかけられます。おじ様のようです。


 「魔女さんが家を出るなんて珍しいな。小人と遊んでるのを見ると、あながち嫌でも無いのかな?」


 「嫌に決まってるじゃないですか!騙されたんですよ私は!」


 「騙されたって人聞きの悪い…」


 …間違ってはいないですけどね。


 「今回の花火祭りは豪華だから十二分に期待したまえ」


 「は、はぁ…そうなんですか」


 「ああそうだとも、何て言ったって、わたしが主催だからな」


 「すごい!すこい!」


 「小人さんか、凄いだろう凄いだろう」


 「あまり小人さんで遊ばないでくださいよ、素直なんですから」


 「はっは、すまなかったね。では私は失礼するとする。運営があるのでな」


 そういっておじ様は後ろ手に戻っていかれました。

 一週間ぶりに会いましたが、相変わらずテンション高めのようです。

 それはそうと、掲示板の位置取りだったり祭りの運営だったり。

 おじ様結構すごい人なのでは無いでしょうか…。


 「なんでもいいから、行くならとっとと行きましょうよ」


 魔女さんはどこかイライラしている様子でそう言いました。


 「分かってますよ。いきましょうか」


 「屋台!屋台!」


 「小人は呑気でいいわね」


 結構空気が悪くなっていました。

 足早に屋台の方へいきます。


 ”リンゴ飴”

 ”金魚すくい”

 ”かたぬき”

 ”わたがし”

 など、目移りしてしまうほどたくさんの屋台が出ていました。


 「すごいですね!たっくさん出てますよ!」


 「すごい!すごい!」


 「わぁ…」


 魔女さんは人一倍目を輝かせていました。

 行きたくないと言い張ってるけど、行ってみたら楽しかった、みたいな感じでしょうか。


 「魔女さん、どれか行きたい屋台ありますか?」


 「う、うん。あれ…いきたい」


 「金魚すくいですか、いいですね」


 「すくう!すくう!」


 魔女さんは金魚すくいを指差しました。

 始めてくる訳でも無いのでしょうに、子供のように興奮しています。


 「いらっしゃい、やってくかい?」


 「はい、わたしと魔女さんと小人さん…3回分お願いします」


 「はいよ、300円ね」


 「ありがとうございます」


  わたしたちは金魚すくいをやるための道具を頂きました。


 「魔女さん、やりかた分かりますか?」


 「うん…なんとなく」


 「それはよかった、ではやってみてください」


 「先に…」


 「なんですか?」


 「先にやっていただいてもいいですか…」


 「え、いいですけど…わかりましたよ」


 そう言った魔女さんはわたしのことを曇りのない眼で見つめてきました。

 恐らくやり方が分からないのでしょう。

 わたしに先にやってほしいけど、分からないのは言いたくないようです。


 「みててくださいね」


 すっと入水させます。 

 紙は水に浸かると些細な重さがかかるだけで破れてしまいます。

 並べく小さい金魚さんを端のプラスチック部分にかけるようにすくいとります。


 「ほいっと」


 そうしてわたしは無事に一匹の金魚さんをすくうことができました。


 「わぁ、すごい…」 


 「つぎ、魔女さんの番ですよ」


 「分かった、やってみる」


 魔女さんはわたしがやった通りにゆっくりと入水させます。

 すくいとる金魚は決まっているのか、迷いなく一匹の金魚のもとに向かいます。

 それは一番大きい金魚。

 わたしがとった金魚の数倍はあるであろう巨体の持ち主でした。


 「魔女さん!それは無理ですよ、破れちゃいますよ~」


 「だ、大丈夫。出来るから」


 「ならいいんですけど、慎重にお願いしますね」


 ゆっくりと巨大金魚のもとへ向かう魔女さんをよそに、小人さんはすごい勢いで金魚をすくっていました。

 金魚を入れるためのお椀のようなものに入っているその姿は、まるで一寸法師のようです。


 「小人さん、金魚すくいお上手なんですね」


 「上手!上手!」


 「ーーあ!あぁ…」


 そんなことを話していると、魔女さんが落胆し始めました。

 手元を見ると、紙が破れてしまっていました。

 やはり巨大金魚の捕獲には失敗してしまったようです。


 「ダメでしたか~」


 「一匹も取れなかった…ぐすん」


 魔女さんは目にうっすら涙を浮かべています。


 「魔女さん、良かったら」


 「…なんですか?」


 「わたしがとった金魚、差し上げますよ」


 「いいの…?」


 「はい、大丈夫ですよ。お家で一緒に面倒みましょう」


 そういうと、魔女さんの顔から翳りは消え去り、ヒマワリのような笑顔が咲きました。


 「うん!ありがとう!」


 その時、

 バンッと一発の花火が夜空に咲きました。


 そのカラフルで大きな花は、夜空に一気に咲き誇ります。

 一発目が放たれたのに続くように、何発も何発も放たれては花を咲かせます。


 緑や赤、青。

 様々な色が混ざりあっているその花火はわたしたちを照らします。


 「魔女さん!花火ですよ花火!」


 「え、花火?」


 「上です上!みてください」


 「上!上!」


 「わぁ…!!」


 上を見上げて花火を見ている魔女さんの顔は、花火の色にあわせて色が変わります。

 その光景が、自分が花火を見ているのだと言うことをより一層引き立てます。


 魔女さんは腕を目一杯広げて花火を見ています。


 「すごい!すごいよ花火!わたしこんなの始めて!!」


 すごいすごい!と何度も言っては跳び跳ねていました。


 「魔女さん、花火満足していただけましたか?」


 「満足?満足?」


 すると魔女さんは、くるりとわたしの方に振り替えってこう言いました。


 「こういうのも、たまにはいいかもね」


 魔女さんは組んだ手を胸に付けてそう言いました。


 「…あらそうですか。では、これからはもっといろんなことしましょうね」


 「やろう!やろう!」


 魔女さんはわたしと小人さんにそう言うと、花火の方へ視線を戻しました。


 「(ーー小人さん。このためにわたしに花火行きたいっていったんですか?)」


 「(ひみつ、ひみつ)」


 「(あら、あなた、意外とやるんですね)」


 「(誉めて!誉めて!)」


 「(よしよし)」




 夜空に咲き誇る花火。


 魔女さんの暗雲とした気持ちも晴らすほどの綺麗なそれは、何発も、何発も咲きました。


 花火が終わると、興奮しすぎた魔女さんと小人さんは眠ってしまいました。

 花火を終えた祭り会場を、小人さんと魔女さんを背負ってわたしはあとにします。


 「ふふっ」


 魔女さんは満足したように、微笑みながら小人さんと鼻をくっ付けて眠っていました。

 騙してでも連れてきて良かった…そうおもったわたしでした。


 家まではあと10分ほどですが、言いたいことがあります。

 それは何か…簡単なことです


 「ちょっと重いんですけどおおお!!」


 魔女さんと小人さんを背負ったわたしの叫びが、夜空に木霊します。


 祭りのあとの夜空は、満点の星空へもどっています。


 儚くおぼろ気な月明かりが、わたしたちを優しく照らすのでした。


 



 







 


 




 


 


 



 

次回から新章突入します!!!

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