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昼下がりのティータイム

 ちょろろろ……


 透明なガラスのティーポッドの中にお湯が注がれます。

 ゆらりと揺れる綺麗なハーブの葉。

 やがてじんわりとハーブの色が染みだして、無色透明だったお湯は透き通る金色のお茶になります。


 とても芳しい匂いがしてきました。

 小鳥たちもちゅんちゅんと可愛らしく囀ずっています。

 小鳥の囀ずりが聴こえる昼過ぎのテラスでお茶を啜る。

 なんと優雅なことでしょうか。


 「はぁ、美味しいですね……」


 思わず声が漏れました。環境もあるのでしょうが、心に染み渡る美味しさがありました。


 「お気に召したなら良かったです!」


 そういって目の前に腰かけるのは魔女さんです。

 出会いこそなんだか不思議な感じになりましたが、今ではすっかり打ち解けました。


 「そういえば魔女さん、普段は何をしているんですか?」


 わたしは魔女さんに質問をします。

 昔からの憧れである魔女さんが何をして過ごしているのか気になったのです。

 やはり魔法の練習とか、ポーション作ったりとかして過ごしているのでしょう。


 「普段ですか。あ、ゲームしてますよ」


 「げ、ゲームですか。他には何かしてないんですか?」


 「何もしてないです!」

 

 魔女さんはキッパリといい放ちました。


 「あ、そうなんですね」


 思っていたより現実は残酷だったようです。


 いつだかゲーム機なるものが発明され、すっかりのめり込んでしまう人も増えたと聞きます。

 魔女さんもその例に漏れず、ゲームに興じる日々を送っているみたいでした。


 「でもキチンとお掃除とかもしているんですね。お部屋もとても綺麗ですし」


 わたしは思ったことをそのままお伝えします。

 とてもゲームばかりしている引きこもりさんには似合わないお部屋なのです。


 「お掃除?私はしていないですよ」


 「……へ?では誰がやっているのですか。お手伝いさんとかですか?」


 「お手伝いさんですか。あながち間違ってはいない答えですね」


 ニコッと微笑んだ魔女さんは、手をパンパンと二回ほど叩きました。


 するとあら不思議。

 本棚やソファーの溝の間、水道の蛇口など様々な場所からねこのような生き物がぞろぞろ出てきました。

 何故か全員二足歩行をしていて、それぞれにカラフルな帽子とお洋服を着ています。


 「ね、ねこが歩いてる!」


 駆け足でわたしの足元によってきました。


 「はい、みんなご挨拶してね。魔女交流センターからいらした私の友人よ」


 魔女さんがそう促すと、興味深そうに私の顔を覗き込んでいたねこさんたちは一列に並びます。

 いち、に、さん、し……。

 どうやら全部で10匹いらっしゃるようです。


 「はい、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げて挨拶をしてきます。

 魔女さんがアフレコしていました。


 「これは」


 本当に可愛いです。一匹連れ帰ってもバレないでしょうか。

 可愛らしいと伝えると、みんな照れ臭そうに尻尾をいじり出しました。


 「あら、あなたは」


 「どうしましたか?」


 「行きの馬車で目があった子が」


 一匹の見覚えのあるねこさんを見つけます。

 行きの馬車の中で目があったあのねこさんでした。

 わたしはそのねこさんを気がすむまでぷにぷにします。柔らかくて、お人形さんみたいです。


ぷにぷに。

     ぷにぷに。


 どこかあったかくて、それでいてよく手に馴染む。

 なんだか不思議なねこでした。

 それに加え、温厚な性格のようでより可愛い。


               ぷにぷに。

                     ぷにぷに……。


 「――そろそろやめねぇか、嬢さん。俺も出るとこ出るんだぜ」


 「ひっ」


 先程まで無言だったねこさんは、突然険悪そうな顔をしてこちらを睨んできます。

 というより、声に驚きました。


 その可愛らしいフォルムからは想像がつかないほどに野太かったのです。そもそもねこって喋るんですね。


 「すみませんでした」


 ぺこぺこ、とわたしは何度も頭を下げます。

 そのねこさんは依然として険悪そうな顔のまま、頭を下げるわたしを手を組んで見ていました。


 「まあ、もう仲良くなったのですね。」


 あら、と手を合わせて喜びをあらわす魔女さん。

 どこをどうみても恐喝現場とか借金の取り立てとか、その手の行為にしか見えませんでした。


 「この子たち、名前とかあるんですか?」


 「名前ですか。あまり考えたこと無かったです」


 「折角ですし、お名前付けましょうよ。沢山いらっしゃいますし」


 「皆さんお名前欲しいですか?」


 魔女さんは悩んだあげくに、ねこさんたちに質問を投げ掛けます。

 ねこさんたちは身振り手振りで何かを伝えていて、ぴょんぴょんと跳ねている子もいます。

 どうやら皆さんお名前が欲しいみたいです。それにしても、色々な子がいるんですね。


 「分かりました。では、貴女がお名前をつけてあげてくださいませんか?」


 「わたしですか。いいんですか?」


 「はい!わたしども大歓迎ですよ。ねーみんな」


 そう言われたねこさんたちはうんうんと頷いていました。


 そうして、お名前を決めるのはわたしになりました。

 ねこさんは全部で10人。

 折角ですからいいお名前をあげたいものです。


 「明日には皆さんのお名前を発表しますので待っていてくださいね」


 にゃーん。と返事をしていただきました。


 それにしても不思議です。

 なぜねこがたっているのでしょうか。


 「魔女さん、なんでこの子たち立ってるんですか?」


 「それは、おまじないをかけたからですね。わたし、実は色々出来るんですよ」


 「でもゲームしかやっていないんですよね?」


 「うっそれは…」


 どうやら早速弱味を握ったようです。

 いつの間にかねこたちも散り散りになって、それぞれの持ち場に戻っているようです。

 あるものは花に水をやり、またあるものは雑巾をかけています。


 この子たちが掃除していたんですね。

 可愛らしいねこさん達の仕事ぶりを見ながら、美味しいハーブティーを口に運びます。

 ねこさんにお名前をあげる、という初めてのお仕事をいただくことが出来ました。


 吹き抜ける涼しい風。

 香るハーブティーの芳しい香り。

 魔女さんとそのねこさん達との今後を考えると心が踊ります。

 わたしの新たなお仕事、魔女さんとの交流。どうやら天職だったみたいです。


 天職に転職…なんちって。












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