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引きこもり魔女さんとスローライフ始めました!  作者: らぴんらん
第三章: 小さな体の大冒険
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そして桜の木の中へ


「い、いたいいたいいたいぃいいい!」


 ネコさんが珍しく失態を犯してから三十秒。

 どうしようもないので無理やりにでも入ってしまおうということになったのですが。


「ちょっと、押しても引いても抜けないんですけどおお!」


――足首を何とか通した時点で、すでに詰まってしまいました。

いや、分かっていましたけどね?


「案の定、だな」


「つまった! つまった!」


「なにそんなこと言っているんですか! ちょっと、本当にぬ、抜けない……」


「まあ、そもそも現実的に考えて、な?」


「……分かっていましたけど、言ったのネコさんじゃないですか!」


「そうだが……ふむ」


「ふむ……じゃないですよ! ――もーどうするんですかこれええええ!」


そうは言ってもどうしようもないのもまた事実。

こんなとき、どうすればいいの?

場所が場所ですから助けも呼べませんし、ましてやネコさんと小人さんの細腕ではわたしを引っこ抜くことは出来ないし。はぁ、わたしってほんとばか。

そもそもここ、下から見るのでしょうか。

はしごには気付いても、上ってくる命知らずは居ないでしょうから。


「はーあ。ネコさんのばか」


「……はいはい、悪かった悪かった」


「分かればいいんですよ、もう」


「…………」


そんな露骨にめんどくさそうな顔しなくてもいいじゃないですか。

とまあそんな感じでして、木の上で道草を食っているのでした。

木の上で道草。


「……ふっ」


「どうしたいきなり」


「どうした! どうした!」


「いいえ、なんでも」


「変なやつだな」


「へんなの! へんなの!」


「きっとあなたたちには分かりますまい」


高度なものほど、人には理解されにくいのです。

作者の死後評価される……みたいな。


「――で、どうするんですか? これ」


「うーん、そうだなぁ」


「このまま! このまま!」


「……このままって、一生ですか?」


「そう! そう!」


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと考えてくださいよ~」


「そういわれてもなぁ」


うーんとうなだれるネコさん。

その気持ちも分からないでもありません。わたしかてどうすればいいか分かりませんから。でも、そんなことを言っていたら何も始まらないのもまた事実。

とりあえずはゆっくりでも、打開策を思案するしかないのでした。


「――とはいっても、どうしましょうか」


高さにして、おおよそ一五メートルくらいでしょうか。

いかに大きな桜の木といいましても、さすがにこんなところを見る人もいないでしょう。そもそも、人影なんてもの一つもありませんでしたしね。

話は変わりますが、こんなとき『ご都合主義』という言葉があります。

たとえるならば、絶体絶命の主人公。

 どんなピンチの状況においても、絶体絶命の場合においても、主人公だけがありえない力を持ってして抜け出すという、あれです。

 ……まあ、あくまで創作上の話ですが。


「そういえば、お前が猫になったときだけどさ」


「はい?」


「煙がいくつかどこかに飛んでいった……というか換気して逃がしたじゃないか」


「はい。でもそれがなにか?」


「その煙って、本来全てお前に吸収されるものだったするならば、お前が見つけて吸い込めばもう少し猫に近づけるんじゃないか?」


「なるほど」


やっぱりネコさんは的を居たことを言いますね。

しばらく黙り込んでいたのですが、そういうことを考えていたみたいです。


「でも、一度どこかへ行った煙なんて見つけるの無理ですよ」


「そうなんだよなぁ……」


「困った? 困った?」


「ええ、だいぶ困っています」


冷ややかな視線を小人さんに向けるため振り向いたわたし。

すると、桜の花の中になにか……ほかと違うものがあるではありませんか。

確か煙って紫かピンク色のどちらかだった気がします。


「――あれってもしかして……」


「ん? どうかしたか」


「あれみてください……あの、木の枝が分かれるあそこらへん」


言い表しづらいのは確かなのですが、必死に指をさして伝えます。


「なんかほかの花びらと違うな」


「違う! 違う!」


「ですよね。それで、あれってもしかして――わたしを変身させた煙なんじゃないかと」


「なにいってるんだお前は。煙が都合よく引っかかっていたとでも?」


「いやでも、あれってそうとしか……」


じーっと煙をみていたわたしたち。

すると、勢いよく風が吹き抜けていきました。


「……うわっ」


「……おっと」


「風! 風!」


落ちたらひとたまりも無いので、はしごに両手をかけていたのですが。

まあもうお察しの方も居るでしょう。

そうです、煙がわたしのところにふわふわと飛んできて、

――わたしの体に吸収されていったのです。


「う、うわわわわわ! 体が小さくなってく!」


「お、お前落ちるなよ……!」


「落ちる? 落ちる?」


「落ちません――――っうわあああああああ!」


「お、おい!」


「落ちた! 落ちた!」


 地面にまっさかさまだと思ったそこのあなた。

 残念、わたしが落ちたのは穴です。あの足が挟まっていたやつ。

 とまれかくまれ、ご都合主義最高。

 どんな状況も一瞬でひっくり返してしまうのが、ご都合主義と言うもの。どうやらわたしはどこかの物語の主人公だったようです。助かりました。


「――ってそんなことより、誰かたすけてえええええええ!」


長い滑り台のようなものをひたすらに落ちていきます。


「落ちる! 落ちる!」


真っ暗で何も見えないですが、落ちているのだけは分かりました。小人さんも肩に乗っているので、一緒に落ちています。


「なんでそんなのんきなんですか小人さんはいつもおおおお!」


ていうか、全然止まらない。

そして、浮遊感を感じなくなったのはそれから少しのことです。


「――いたっ」


どんっとお尻を地面にぶつけまして、やっと止まったのでした。


「止まった! 止まった!」


いや、止まったには止まったんですけど――


「――なんか、雰囲気やばくないですか……?」


薄暗く、少し手狭な木をくりぬいたような空間。

その空間には、いまにでも襲い掛かってきそうな目をしたたくさんのリスたちがこちらをみつめ――どんぐりが先に付いた小さなハンマーのようなものを構えていました。


「ご都合主義も、アフターケアまではしてくれないみたい……ですね」


あはは、と笑う小人さんとわたし。

どうやら絶体絶命のようです


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