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引きこもり魔女さんとスローライフ始めました!  作者: らぴんらん
第三章: 小さな体の大冒険
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「穴……入れなくないですか?」

「わあ、かわいい!」


「おしゃれ! おしゃれ!」


「ありがとうございます。はしご持ってきますから、お店の中みていってください」


「じゃあお言葉に甘えさせていただいて……」


「甘える! 甘える!」


彼女が店の奥に行くのを見計らって、商品にがっつきます。

こういうハンドメイドの雑貨屋さん好きなんですよね。

少しばかり値は張りますけど、断然こっちを選びます。それを差し引いても好きなんです。ええ、好きなんです。好きなんです……。


「このどんぐりなんだろう、かわいいけど――おお!」


手に取ったのは、大き目のどんぐり。

縦にばっさりと半分に切られていて、開けることができます。どんぐりのふたを開けるとあらびっくり、中身は懐中時計でした。


「……これはやばいですね。やばいやばい」


そうです。置いてあるものなんでもかわいいんです。

このどんぐりの懐中時計にしたって、今手に持っている小人さんの形をしたペンたてにしたって、なにからなにまでお洒落の塊。

何か買って帰りましょうか。


「魔女さんに何か買っていってあげよう」


「かってく! かってく!」


「――あら、何か気に入ったものでもありましたか?」


「そりゃあもう、たくさん。特にこのどんぐりの懐中時計なんて……最高です」


「最高! 最高!」


「ふふ、ありがとうございます。買って行ってもいいんですからね」


「あ、ではこのかんざしっていうんですか? これ買います」


「はーい。どうぞ」


「ありがとうございます……割と安いんですね」


「そうですね。そのかんざしはわたしが作ったものなので、まだ見習いといいますかバイトの作品って事で少し値段が安いんです」 


「え! これ、あなたが作ったんですか?」


「そうですよ」


「……すごい。普通に尊敬します」


「ありがとうございます」


 にこやかにいった彼女は、小人さんの模様の入った小さめの紙袋にかんざしを包んでくれました。……袋までお洒落とは、なかなかやりおるな。

ふんふんと感心していると、雑貨屋の女の子が話し始めました。


「――これ、はしごです」


「お、ありがとうございます!」


「いえいえ」


「感謝! 感謝!」


「ふふっ」


それは、仕組んだのではないかとおもうほど長さも何もちょうどいいもの。

二本の長いロープの間に、何本かの木の棒が結び付けられています。

これなら重くないし、持ち運びやすくて楽チンですね。


「では借りて言っちゃいますけど、早めに返したほうが良いとかありますか?」


「いえ、いつでも大丈夫ですよ。どうせ使うものでもありませんから」


「……なにからなにまでありがとうございます」


「困ったときは、お互い様ですからね。でも、――今度また遊びに来てください」


「はい、ぜひ!」


「ぜひ! ぜひ!」


ぴょんぴょん跳ね回っている小人さんを軽く撫でた彼女。

わたしはそれを少しばかり眺めてから別れを告げます。


「――それでは、そろそろいきますね」


「あ、っはい。行ってらっしゃい」


「では、また」


「はい、お待ちしています」


「またー! またー!」


軽くお辞儀をして、わたしと小人さんは雑貨屋さんを後にします。

そして、また来た道を折り返すのでした。







「――小人さん、いいお店でしたね」


「よかった! よかった!」


「でも、今後はさっきみたいに人前で話しちゃだめですよ? 彼女が優しい人だから何にもありませんが、普通だったら大騒ぎなんですから」


肩に乗った小人さんは、よっぽどうれしかったのか足をぱたぱたしています。

かわいいから、怒るに怒れませんで、


「まぁ、今回だけですからね」


と、軽い注意だけをするのでした。

しばらくまったりと歩いていたわけですが、やがて桜の木が見えてきました。

相変わらず大きいと関心。

あそこの中がどうなっているか分かりませんが、確かに魔女さんはいるのですよね。

一体中で何をしているのでしょうか。

仮にも魔女ですから、大怪我を追っているとかはないでしょうけど……やっぱり心配してしまいます。まだ無事なのでしょうか。


「まぁ、大丈夫でしょう」


はしごは意外と簡単に借りることが出来ましたし、今日中には探しにいけそうです。

そして、仲間の一人、ねこさんが今何をしているのかはわかりません。

わたしと小人さんをはしご探しに追いやって、桜の木下に一匹で居るはずです。彼にも考えはあるのでしょうけど、あんまり人に話すタイプではありませんから。


「――そっちも考えても無駄ですね」


わたしが呟くと、小人さんが賛同してきます。

「無駄! 無駄!」


「あら、小人さんもそう思います?」


「……なにが? なにが?」


「知らないのに言っていたのですね……」


「言ってた! 言ってた!」


やっぱり、小人さんかわいいですね。

変な状況に巻き込まれていますが、心が和みます――。






「――――小人さん、着きましたよ」


見えていた桜の木。

大きすぎて近いと錯覚していたのですが、結構な距離があったみたい。

着いたのは、あれから時間にして十分ほどのことです。

 

「ついた? ついた?」


小人さんはすっかり眠っていたようで目をこすって力なく言いました。


「ええ、着きましたよ」


「お疲れ様! お疲れ様!」


「はいはい――ところでネコさんはどこに?」


あたりを少し見渡すと、少し離れたところからネコさんが顔を出しました。


「――おお、帰ってきたのか。はしご、借りられたか?」


「ええ、無事に借りられましたよ」


「……思ったより早くて驚いた」


「出来る女ですから、わたし」


「どの口が言っているのだか……」


「うっさい」


「――――で、ネコさん、はしご持ってきましたけど」


「ああ、ちょっと貸してくれ」


わたしはネコさんに借りたはしごを手渡します。

するとネコさんは軽く触って、自分の背中にはしごを乗せてくれといいました。


「え? 乗せるんですか?」


「ああ、お前らが行っている間にいろいろ見ておいたんだ」


「それならいいんですけど」


ネコさんが催促してくるので、ふんわりと背中に乗せます。

一体どうするのでしょう。

俺ごと力いっぱい投げてくれ! みたいな感じ? ……ないか。


「じゃあ、ちょっと上ってくるから。少し待っていてくれ」


「……ん?」


今、なんていいましたかこの子。

ちょっと上って……なに?


「あ、危ないですよネコさん!」


さすがにネコさんを止めに入るわたし。ですが、その甲斐虚しく、ネコさんはわたしを無視して勢いよく登り始めてしまいました。


「行っちゃった……」


「たかーい! たかーい!」


「あ、はぁ。はぁ」


いまにでも落ちて大怪我をしてしまうのではないかと、とても焦っています。

そうこうしていると、上からネコさんが大きな声で、


「――よーしいいぞー! はしごがそっちまで下りたら上ってこい」


と言いました。

そして、はしごが遥か上からしゅるしゅると降りてきます。

結構不安ですが、おとなしく一歩目の足をかけて上り始めるわたし。最初に上ったときこそ落ちましたが、まあ大丈夫でしょう。

……落ちても怪我しませんし。

そういう感じでありまして、あまりためらいはありませんでした。


「小人さん間違っても落ちないでくださいね」


「大丈夫! 大丈夫!」


「言いましたからね」


「言われた! 言われた!」


「――おーい、早く上がってこいー!」


話しながらゆっくりと上がっていると、ネコさんからのお叱りの声が飛んできました。


「すみません、ちょっと急ぎますね」


「急ぐ! 急ぐ!」


「小人さんはなにもしてないでしょう?」


「そうだった! そうだった!」


あはは、うふふとわたしと小人さん。


「――だから早く上がってこいよ!」


またネコさんに怒られてしまいました。







「――――やっと上がってきたか」


「だって、結構高さありますからね。しょうがないです」


「しょうがない! しょうがない!」


ねこさんは穴の少し上。木の幹が分かれているところに腰掛けて待っていました。

はしごの一番上の段は、固定するためにか飛び出た木の幹のようなものに引っ掛けてあります。

さすがネコさん、頼りになります。


「じゃあ、さっそく入るか」


「そうですね――――あれ」


「……どうした? 入らないのか?」


「いや、はしりたいのは山々なのですが……」


「…………じれったいな。どうした?」


「――――これ、そもそも穴……入れなくないですか?」


リスの通り穴ほどの大きさの穴。

ネコさんや小人さんは通れるくらいのサイズですが、いくら半分猫のわたしといえども、サイズは人間のそれです。

よくよく考えれば、そもそも入れなくない?


「…………盲点だった」


 珍しくネコさんが、失態を犯しました。




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