リスたちの住処情報
「さてと、いきますか」
自分の着替えを負えたわたしはネコさんと小人さんに呼びかけます。
最低限しっぽだけでも隠そうと、ふんわりしたスカートを身に着けました。
耳を隠すために白い帽子を被っています。
ひげはどうしようもないのでそのまま。
「お、おう」
「出発! 出発!」
ネコさんと小人さんを引き連れて、わたしたちは町を目指します。
* *
「知らないですか? こんな感じのヘンテコな帽子を被ったリスなんですけど」
手で魔女さんの被っていた帽子の形をなんとなく表現します。
八百屋さんは首をかしげて言いました。
「いやーわからないな」
「そうですか。呼び止めてすみませんでした」
「いいんだいいんだ。こっちこそ力に慣れなくてごめんな」
愛想笑いをして頭を下げるわたし。
引き止めていた八百屋さんを見送ります。
「ご協力ありがとうございました……はぁ」
無意識に大きなため息が零れ落ちます。
それもこれも、同じやり取りをもう何回と繰り返してきたせい。
聞き込みを始めて三時間ほど立ちます。
ですが、魔女さんの足取りをつかむどころか目撃情報すら得られていないのが現状という始末。
さすがに意気も消沈しまして――
「……帰りたい」
同じことばかりを口にする壊れた機械と化していました。
そんなわたしにあきれたように、ネコさんが話しかけてきます。
「まあそういうな。疲れてるのはお前だけじゃないんだ」
「分かってますけど、ねぇ?」
「……そもそも変身を止められなかったお前も原因なんだぞ?」
「それ卑怯ですよ」
お互いに苛立ちを隠しきれず、軽い口論に発展します。
「仮にですよ。ネコさんがわたしの立場だったら止められてますか?」
「お前と違って鈍くさくないからな。そもそもこんなことになってなかったかもな」
「まあ、そんな憎まれ口叩けるようになったんですね」
「ああ、おかげさまでな」
口に手を当ててお互いに作り笑いを浮かべます。
こんなやりとりも聞き込みと同様、何度も繰り返してきました。
おかげさまで空気は最悪。そして関係は険悪。
「はぁ……」
「……」
ため息ひとつ。
小人さんはだいぶ前からわたしの肩の上で寝ていました。
「今日ばかりはこの子がうらやましい」
「そうだな」
「何か?」
「いいや、なにも」
「あらそうですか」
口に手を当て作り笑い。「ほほほ」とわざとらしく声を出します。
そしてまた振り出しに戻ってこういうのでした。
「「……帰りたい」」
それから1時間ほどでしょうか。事態は突然動き出します。
「えっ!? 心辺りあるんですか!?」
「ああ、リスが行ったところですよね? 確証はないですけど……」
「それでもいいんです! 教えてください!」
リスの居場所に心当たりのあるという方が現われたのです。
それは、木の実を使ったハンドメイドの雑貨屋さんの従業員の方でした。
かわいいお下げの女の子です。質素な制服を着ていますが、年齢ゆえの若々しさがあふれ出ています。
「以前からお店の木の実が取られて困っていたんです。
そこで後をこっそりつけてみたんですけど、そしたら大きな桜の木にリスが向かっていったんですよ。 見失っちゃったのでそれ以上は分からないですが、おそらくあの桜の木の下か、その中に住んでいるのではないかと思うんです」
「それほんとですか! 信じていいんですね!?」
あまりの情報に思わず顔を前に突き出します。
顔を近づけられた雑貨屋の女の子。
どこかほほを赤らめてしどろもどろしていました。
「ほ、ほんとうです……!」
「ありがとうございます! 助かりました!」
ゆっさゆっさと掴んだ肩を前後に振り回します。
「い、いえぇ……が、がんばってくださいぃ」
「では、失礼します!」
ふらふらしている女の子から手を離したわたしは深々と一礼。
そして意気揚々と桜の木の方向へ駆け出し――
「すみません。桜の木はどちらに?」
「……この広場を南に抜けた先に大きな路地がありますので、そこをまっすぐ行くと大きな桜の木がみえてくるはずです」
「ありがとうございましたあああ!」
今度こそわたしは桜の木に向かって駆け出しました。