町へ向けて
体力測定だの授業だのとやらされるあの走るという意味の無い行為。
わたしは走るのがとても……いや、めちゃくちゃ遅いのです。
授業をサボるためにあれこれ試行錯誤したものですが、結局は教員に怒られて出席。いつも泣きそうになりながらやったものです。
何度あの教員を呪殺しようとしたことか、いまでははかり知れんです。
そんなこともあって、自分から走ることは滅多にありません。
以前にも何度か全力疾走をしたことはありました。
一番記憶に新しいところでは、遺跡でカエルから逃げたとき。ほかには、小人さんがネコさんに食べられそうになっていたときです。
どちらも疾走の速さではなかったですがね。
ですが、わたしの走るの嫌い病も完治の兆しが見え始めます。
そうです。足、速くなってたんです。
普段は滅多に追いつけないわたしですけど、今日ばかりは違いました。
颯爽と風のように走り出すネコさんをあっさりと捕まえてしまいます。ネコさんも驚いた顔をしていました。
「お前、足速くなってないか?」
「ほんと。比べ物にならないくらい速いですね」
「チーター! チーター!」
「なんででしょうか。突然」
「見た目の一部だけだと思ってた変身が、身体能力にも影響してたんじゃないか? そう考えるのが妥当だろう」
「なるほど。つまりはネコと人間のいいところだけ引き継いだということですね」
「おそらく」
「ハイブリッド! ハイブリッド!」
「ふむ」
もしネコと人間のよいところを引き継いでいるのだとしたら。
「わたし最強じゃないですか? これ」
人間の体にして、ネコの身体能力を得たわたし。
ネコは自分の何倍もある高さから落ちても怪我一つしないといいます。
さらには、体格のおよそ五倍もあるところまでジャンプできるとか。
わたしの身長で考えると、おおよそ八メートル近く飛ぶことができます。ネコの尺度で考えると何も思いませんが、人間がそんなに飛んだら恐ろしいですよね。人前では気をつけましょう。
「あんまり人前では飛び跳ねるなよ」
浮かれているわたしにネコさんが一喝。わかってますよそんなことは。
「それより、早速魔女さん探しに行きますか?」
「いや、あてもなく探してもしょうがないだろう」
「では、何をするんですか?」
「そうだな、町で聞き込みでもしてみないか? 当てもなく探すよりはましだろう」
「なるほど。でも、ここ町から少しですけど離れてますよ。
リスの体では少し遠すぎるのではないですか?」
「ふむ、たしかにその考えもある。だけど、ひとまずは聞き込みだ」
「聞き込み! 聞き込み!」
わたしたちは、町で聞き込みをすることにしました。
ほしい情報は、魔女リスさんの目撃証言と、どこへ向かったか。
果たして情報を得ることはできるのでしょうか。無駄足だけは避けたいものです。
「決まりですね。皆さん準備してください」
今回のパーティーは、ネコさんと小人さん。
ネコさんがなかなかに知識人なので、以前よりは幾分か楽そうな感じです。
さて、魔女リスさんはどこへ行ってしまったのでしょうか。各々準備を始めます。
「あ、小人さんはちょっとこちらへ」
わたしは小人さんを自分の部屋に呼び止めます。
渡すものがあったのです。
「はい、これ。お洋服です」
そう、渡すものとはお洋服。
わたしが夜な夜な編んでいたあのお洋服です。
せっかくの機会ですから、できた分だけでも渡してしまおうと考えたんですね。
「すごーい! すごーい!」
赤を基調とした、温かみのある帽子と靴下。小さな白いシャツのような下着を渡します。
どれもこれも、わたしが真心をこめておつくりしたもの。
小人さんの喜ぶ姿を見て、人を喜ばせることの快感を感じます。
「気に入っていただけました?」
「気に入った! 気に入った!」
「それはよかったです。では、わたしは自分の準備をするので、小人さんも自分の準備に取り掛かっていいですよ。呼び止めてすみませんでした」
小人さんは、ぺこりと一礼してわたしの部屋を出て行きました。
それを見送ったら、わたしも着替えを始めます。
「耳、どうやって隠そう」
自分のネコ要素をどうやってカモフラージュするかが課題になりました。




