わたしとネコさん。ときどきコスプレ?
もくもくと、煙がわたしを包み込みます。
その煙は淡いピンク色。
魔女さんがリスになったときは確かうす紫色だった気がします。
色の変化が、何かに影響してくるのでしょうか。確かめる術はまだありません。
「おい、これほんとに大丈夫なのか?」
「けむーい! けむーい!」
「小人、ちょっと窓開けてくれ、さすがに煙すぎる」
「わかった! わかった!」
ガラがラッと、部屋で一番大きな窓が小人さんに開けられます。
「はぁ。少し開けるだけでもだいぶ違うな」
「快適! 快適!」
勢いよく風が部屋に入ってきているのが、音で分かります。
その風、気持ちいいんだろうなぁ。煙の中にいるわたしには縁遠い話ですが。
そんなことを考えていると、やがて視界が晴れてきました。
どうやら、換気によって外に幾分かの煙が「逃げ出した」ようです。
「お、そろそろ姿が見えるんじゃないか?」
「登場! 登場!」
小人さんの言葉を合図に、煙が完全にひいていきました。
いよいよ、わたしの姿が全米初披露となります。
やっぱりかわいいんでしょうね。ええ。
黒猫よりも、ペルシャ猫みたいなさぞ気品溢れた姿をしていることでしょう。
「どうですか? わたしの気品溢れる姿は」
わたしはネコさんたちよりも先に口を開きます。
二人が何を言うか楽しみでなりません。
まあ、口を開いては「かわいい」しか言えない見た目であることは確かです。
期待に胸を躍らせて待っていると、
「ぷっ。なんだその姿」
「おもしろい! おもしろい!」
という、どこか期待はずれな答えが返ってきました。
面白い? かわいいじゃなくて? 何かの間違いでしょうか。
だって普通かわいい女性がネコになったら、なおのことかわいくなるはずでしょう?
相乗効果ってやつです。よって、わたし美人ネコ。
きっとこの子達の感性がずれているのでしょう。半ばあきれ口調で話しかけます。
「またまた、わたしがネコになってかわいくない訳がないでしょう?
そんなに嫉妬しなくてもいいんですよ」
「いやあきれるもなにも……な?」
「そう! そう!」
「あきれるも何もなんですか?」
「いや、もしかしたらこれで成功なのかもしれないが、うーん」
「成功? 失敗?」
「もう、はっきりしてくださいよ! どうですかわたしの姿。かわいいでしょう?」
なにやらごそごそと後ろを向いて話し込む二人。
わたしに聞かれるのがいやなのか、どうなのか、時折こちらを見てきます。
やがて話がまとまったのか、ネコさんたちはこちらを向きなおしました。
「んっとな。百聞は一見にしかず。とりあえずそこの鏡で自分のことを見ろ」
「ミラー! ミラー!」
「あくまでも言わないんですね。いいでしょう、見てあげます」
ネコさんが差し出した手鏡を受け取ります。
そして、自分の顔の前まで手鏡を持っていき、自分の姿を確認しました。
「……は?」
その姿は、ネコでも、はたまた人間ともいいずらいものでした。
長く伸びたネコのひげに、頭にはかわいらしいネコ耳が二つ。
もしやとおもいお尻に手をやると、期待を裏切らない尻尾が生えていました。
どうやら、ベースは元のわたし。そこにネコ要素が追加されたようで。
身長や体つきなんかはほとんど変わらないのですが、ネコ要素。
決してかわいくない訳ではないのです。
ですがこれは、痛々しいコスプレのような、そんな様相を呈していました。
「どうだ? 自分の姿は」
「なんで!? なんで完全にネコに変身できてないの!?」
わたしは焦りを隠せずに全力で声を張り上げます。
ひげや耳はいくら引っ張っても、押してみてもびくともしません。
むしろ感覚が元のわたしの器官よりも敏感のようで、激痛が走りました。夢ではないようで。
「え、え、なんで!? なんで!?」
わたしはネコさんのほっぺたを掴んで事情を聞きだそうと働きかけます。
「し、るか。そんなもん! あれじゃないか? 煙。
換気して逃げた分が変身しきるのに必要だったんじゃないか? 痛いから手をはなせ!」
「いま、なんて?」
「俺に聞くなと言ったんだ!」
「いやその後。煙がどうとか」
そう、煙。この子はなにか聞き逃せないことをいった気がして止まないのです。
「煙が逃げたことで、変身に十分な量に達してなかったんじゃないかといったんだ。
いい加減その手をはなせ! 中途半端ネコ!」
ネコさんの言葉を受けて、わたしは変身しているときのことを思い出します。
ピンク色の煙に包まれて、部屋中煙たくなって……そして、換気をした。
「あああああ! 絶対それじゃないですか!」
考えられるのはネコさんのいったとおり、煙が変身に必要だったということ。
だけど、その煙も換気によって大部分が損失。それによってわたしが不十分な変身しかできなかった。ということの顛末のようです。
「元に戻ればいいだろうそんなの。さっきの薬はまだあるみたいだし」
ネコさんが視線を棚にやります。
そこには依然としてたくさんの変身薬がありました。
小人さんはその変身薬の入ったフラスコをじっと眺めています。
「元に戻ることはできないんですよ! 方法わかんないんです!」
「…………」
「どーしましょうネコさん! これ、どうすればいいの!?」
「………………」
「ちょっとなんか言ってくださいよ! そもそもネコさんが変身させたんですよ!」
「……………………おれ、しらね」
ぷいっとそっぽを向いてねこさんが勢いよく走り出しました。
状況をまとめることができずに、逃げると言う結論が彼の脳裏に浮かんだようです。
「ちょっとまてええええええ!」
わたしは、普段使わない足腰の筋肉を奮い立たせます