魔女リスさんを、おいかけて
場面は変わってリビング。
あれからわたしは、ネコさんと小人さんをリビングに招集しました。
少なくともこの子達のほうが魔女さんとの付き合いは長いでしょうから、薬についても何か知っていると踏んでお呼びしたのです。
おふた方はちょこんとわたしの前に座っています。
普段とは違うわたしの神妙そうな顔を見て少し居辛そうなご様子。
「小人さん、ネコさん。今日はお話したいことがあってお呼びしました」
激しく演奏をしている鼓動を抑えるように、深呼吸をしてから口を開きます。
「何だ? さっきから浮かない顔してるが……」
「大丈夫? 大丈夫? 風引いた? 風引いた?」
「いいえ、体調は大丈夫です。でも大丈夫ではないんです」
「どういうことだ? 意味が分からん」
「矛盾! 矛盾!」
「ちょっとあんまり矢継ぎ早に話さないでください! これでも結構動揺してるんです。」
おふた方の発言が、わたしの心をさらに大きく揺らします。
間髪いれずに言葉が返ってくるので、攻め立てられている気分。
すっかり静かになった彼らをみて、わたしは本題に移ることにしました。
「えっとですね。その、魔女さんがですね……」
やはり言い出し辛くてしどろもどろしてしまいます。
そんなわたしに、ネコさんたちは優しく語り掛けるのです。
「そんなに言いづらいことなら、無理して言わなくてもいいんだぞ」
「無理しないで! 無理しないで!」
「うっ」
本当にいい子達でした。
わたしは思わず泣かされそうになります。
このやさしさは、いまの動揺しきった心に深く深く刺さるのです。
この子達は、それを知った上でやっているのでしょうか。もしかして、策士?
そんなことを考えていると覚悟も決まりなおすもの。わたしは続きを話し始めます。
「リス。リスになっちゃったんですけども……!」
「……は?」
「…………?」
全く話の内容を理解できていないような彼ら。首を傾げています。
それもそうでしょう。人がリスになったなんて、わたしかて信じません。
でも、本当のことなので致し方なし。これ以上に分かりやすい説明ってありますか?
「悪いが、いまいち伝わってこなかった。もう一回だけいいか?」
「なぞなぞ? なぞなぞ?」 わたしは念押すように、体を前に乗り出して力強く言うのです。
「――だから、リスになっちゃったんです! 魔女さんが!」
それからの流れは、とてもスムーズでした。
順を追って簡潔に説明させていただきます。
・わたしの発言をなんとか理解したネコさんと小人さん
・ネコさんが「ひとまず落ち着こう」といつぞやと同じジャスミンティーを淹れます。
・ジャスミンティーをいただきながら、作戦会議が始まりました。
・「いなくなってしまった魔女さんを探すのは難しい。帰ってくるのを待つべきだ」と主張するわたし。 正直、見つけられる自身はありませんでした。
そんなわたしの意見もあっさり切り捨てられ、最終的には「元凶のわたしがネコになって探しに行く」という、とんでも意見が採用。
・そしてティーカップを片付けた我々は、魔女さんの部屋に来た……そうして、今に至る。
という始末です。どうでしょうか、この流れ。
確かにわたしに非があったのは認めます。
そもそもフラスコの中身を聞かなかったら説明を受けることも無かったのです。
ですが、そんなこといったらきりが無いですよね。いうなれば、事の発端は魔女さんにあります。
え? なんでかって?
その理論を追っていけば、魔女さんがそんな危ない薬を作ったというところまで回帰するからです。
よって、わたし悪くない。被害者。
……もちろんそんな意見が聞き通ることもなく、あっけなくわたしは敗北しました。
処刑される前の受刑者の気持ちで、わたしは絨毯に正座しています。
執行人は、もちろんネコさん。
薬の説明をすると、まっさきにネコさんが役割を引き受けたのです。
ほかに動物もいませんからね。小人さんって分類は人なんでしょうか? それとも、動物?
そんなことを考えていると、いよいよ死刑までのタイムリミットがやってきました。
「いいか? そろそろかけるぞ」
「うう。いたし方ありません。一思いにお願いします」
「面白そう! 面白そう!」と、小人さんだけは嬉々としていました。
帰ってきたらおなかを指でぐりぐりしてお仕置きしてやりましょう。
小人さんはそれが好きなんです。
若干Mなんですね。どうでもいいですね。
「じゃあ、かけるぞ」
「はい、お願いします!」
そうしてわたしに、魔女さんをリスに変えたのと同じ液体がかけられました。