魔女リスさんと旅立ち
少し短いですがキリがいいので終わらせました。
次話もぜひお願いします!
えっと、何が起きたのでしょうか。わたしは状況を整理します。
目の前には一匹のリスが以前としてその場にちょこんと立っていました。
と、とりあえず状況を三文で簡潔にまとめますと、
一、フラスコをリスが落とす。
二、割れた拍子に飛び散った液体が魔女さんにかかる。
三、煙の中から現われたのは一匹のリス。
となります。にわかには信じがたいですがこれはつまり、つまりですよ
「――このリスが、魔女さん?」
わたしは恐る恐るそのリスを見つめて言いました。
黒いトンガリ帽子に茶色の体毛。つぶらな瞳をしたリスがわたしを見つめ返してきました。
「あなたは、魔女さんですか?」
じっとこちらを見据えている魔女リスさんに語りかけます。
果たして言葉は通じているのでしょうか。通じないのでしたら、正直手詰まりです。
「……!」
魔女リスさんは身振り手振りで何かをあらわそうとしていました。
もしかしたら通じているのかもしれません。でもただ慌ててわたふたしているだけだったら?
ただのわたしの勘違いで、より事態を悪化させてしまう可能性もあります。
こういうときは、イエスだったら右手を上げる、ノーだったら左手を上げる。のような、簡単な方法が一番有効であると考えます。わたしは魔女リスさんにその質問を投げかけることにしました。
「いいですか? 魔女さん。今から言うことよく聞いてくださいね」
「……」
魔女リスさんは落ち着いたのか、じっとわたしを見据えて立ちなおしました。
「わたしの質問の答えがイエスだったらその右手を上に上げてください。ノーだったらその逆で左手をあげてください。分かりましたか?」
「……」
返事はありませんが、質問を投げかけることにします。
「では質問です。わたしの言葉、分かりますか?」
「…………」
ぱちりと瞬きをした魔女リスさん。
右手を上げることも、はたまた左手を上げることもありませんでした。
わたしは、いたずら好きの魔女さんの冗談であると信じて再度語らいます。
「ま、魔女さん? この期に及んでまでそういう冗談いりませんから。ちゃんと質問に答えてください。冗談だったら、本気で怒りますよ」
「……………」
「……ちょっと魔女さん! いい加減にしてくださいよ本当に! なにより元の姿の戻り方とかまだ教えてもらってないんですからね。ちょっと今回のいたずらは度が過ぎてませんか? ……ねぇちょっと魔女さん! お願いだから返事して!」
いよいよ焦りが限界域に達して魔女さんを問い詰めます。
それでもなお、魔女さんがなんらかのアクションを取ることはありませんでした。
「終わった。本当に言葉通じてないんだ」
さすがの魔女さんも、そこまで人間性は悪くありません。
いつもならすでにネタ晴らし、楽しかったね。で終わる頃合です。
いろいろな点を踏まえても、どうやら本当に言葉が通じていないみたいでした。
元に戻す方法も聞きそびれて、唯一知っている魔女さんがリスになってしまったのです。
もはや打つ手なし。手詰まりでした。これからわたし、どうすればいいの?
「魔女さん、わたしどうすればいいんですか」
残酷な現実に打ちのめされ、力なく座り込みます。
無知とは怖いものです。この先何が起こるのかわからないのですから。
もしかしたら、あの大きな本棚の中には答えがあるかもしれない、そう思って本棚を力なく見つめますが、
「はぁ……」
出るのは行き場のないため息。
たとえ答えがあったとしても、あの中から見つける自身はありませんでした。
そもそも洋書なんて読めませんし、辞典で引きながらでは何年もかかります。
ふとそんなとき、魔女リスさんがどこかを気にかけて動き出しました。
「ちょっと、魔女さんどこへ?」
魔女リスさんは、短い足をせわしなく動かしながら部屋の隅へと向かっていきます。
その先をみつめると、そこには先ほどのリス。ことの発端。事件の犯人。
かの忌まわしきリスが魔女リスさんを手招きしていました。魔女リスさんは迷うことなく進みます。
「ちょっと、魔女さん待って――」
当然言葉も通じないので、魔女リスさんはわたしの制止むなしく進んでいきます。
そしてついに、合流。
なにやら話し込んでいる仕草をしばらくしたのちに、二匹揃ってわたしに一礼。
帽子を被っている魔女リスさんはなんだか楽しそうな様子でいます。
そのすぐ後に、部屋の隅にあった小さな通り穴を使って、二匹はどこかへ出て行きました。
「え、えぇ?」
わたしは、成すすべなくその一連の様子を傍観していました。
魔女さんがリスになって、リスとお話をした挙句にどこかへ旅立った。
それもなんだか楽しそうに。これはですね、つまり
「また変なことに巻き込まれたんですね……」
――こうして、わたしの魔女さんを探す長い長い冒険が幕を開けるのです。