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引きこもり魔女さんとスローライフ始めました!  作者: らぴんらん
第三章: 小さな体の大冒険
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魔女さんと変身の薬

「ごめんなさい、まさか引っかかるとはおもわなくて。ふふっ」


「いやいいんですけどね。別に」


 いつか絶対仕返しする、と心に決めたわたしは投げやりに返します。

グリーンティーに目いっぱいのわさびを溶かすとか面白いかもしれませんね。

あとは、魔女さんが座るときに椅子を引いてしまうとか? いっそのこと動物に変身させるのもいいかも。それより、痛いですよね、椅子引くやつ。


「どうですか? 私のお部屋です」


 そんなわたしの様子をよそに、魔女さんは無い胸を張って両腕を広げて言いました。 


 魔女さんの部屋には、たくさんの棚に、きちんと整理された本と、フラスコのようなものが所狭しと並んでいます。

中央にデスクが置いてあり、開放的な窓から差し込む光が神秘的にデスクを照らしていました。

ほこり一つ無い赤色の絨毯が、その雰囲気を寄り一層際立たせています。

たとえるならそう、学者の書斎のような感じのお部屋。


「驚いた。意外ときれいにしてるんですね」


 わたしは思ったことをそのまま口にします。もっと汚れているものだと思ったのです。

ネコさんも普段は立ち入ってないようですから、魔女さんが自分で掃除するとも思ってもいませんでした。どうやら彼女は、自分のテリトリーだけはきちんと掃除するようです。


「意外とって、しつれいですね……」


「ごめんなさい、本当に意外で、いろいろ見てもいいですか?」


魔女さんに一言そういったわたしは、何の躊躇いもせずに部屋中物色して回ります。


まず目に付いたのが、壁を一面多い尽くすように大きな本棚。

本棚には、洋書がきっちりならべてありますが、何の本かは分かりません。

背表紙だけを見ても、本が分厚いことが分かります。きっと難しい本なのでしょう。

曲りなりにも魔女ですからね、彼女。はい次。 


 お次に目をつけたのが、中央に腰をすえてる大きなデスク。

デスクの上には凄然と並べられた書類と、カップに入ったお茶。

それに、読みかけの本が置いてあります。この匂いは、ジャスミンティーでしょうか。

ジャスミンティーには美容、健康によい成分がたくさんはいっているそうです。

ほかにも、気持ちを落ち着かせてリラックス効果もあるとか。読みかけの本と飲みかけのジャスミンティーをみるに、少しだけ読書をしていたのでしょう。わたしってば、名探偵。


 ――そして最後に残ったのが、所狭しと並べられたフラスコ達です。

それぞれ中には赤や青、緑と言った色の液体が入っています。

魔女が作った液体なんて、興奮しませんか? おそらく、そのどれもが不思議な効果をもたらす液体であるのでしょう。なにやら不思議な雰囲気をかもし出していました。


「魔女さん、このフラスコの中身はなんですか?」


 わたしは自分の気になる、という衝動をそのまま投げかけます。

すると魔女さんはにこやかに一つのフラスコを手にとって言いました。


「どうしても気になりますか?」


 焦らしてくる魔女さんを半ば苛立ちながら見つめていると、ふと、茶色い影がデスクの下をよこぎったような気がしました。


「ん」


「……どうかしました?」


魔女さんはわたしの様子を伺ってきます。

通り過ぎたのはリスとかねずみのような、小動物のような生き物でした。

どこからかまた入り込んだのでしょうか。いたずらしないといいのですけど。


「いえ、なんでもないです。何かがいた気がして。お話続けてください」


「あらそうですか、では優しい魔女さんが教えてあげましょう」


 手に取った赤い液体の入ったフラスコを見つめながら、魔女さんは話し始めました。


「この液体はですね、体にかかると動物に変身できる素晴らしい液体なんですよ!」


「なにそれすごい! それってどんな動物でも変身できるんですか?」


わたしは純粋な少女のような面持ちで、間髪いれずに返事をします。

変身とかは誰かの妄想の産物であると思っていて、信じてはいませんでした。

ですが、少しもあこがれていないというのは嘘になります。


「そうですね。何にでも変身できます。ですが、一つ条件があるんですね」


 魔女さんは、落ち着いた様子でわたしにそういいました。


「条件、ですか。結構複雑だったりします?」


「いいえ。そこまで複雑でもありません」


「あらそうなんですか」


 複雑じゃない条件ってなんでしょうか。

念じながらかければなれる、みたいな? 魔女さんはそのまま話を続けます。


「変身したい動物にこの液体をかけていただくだけです。それだけで変身することができます。たとえばネコになりたいならネコに。リスになりたいならリスに。そんな感じです」


「それだけ?」


「それだけです。簡単でしょう?」


 思った以上に簡単で拍子抜けしてしまいます。

どうやら、液体をかけてもらいさえすれば何の動物にもなれるようです。念じる必要すらないお手軽さ。

 でも一つだけ気になることがあります。わたしはそれを魔女さんに問いかけました。


「それって、変身してから元に戻れるんですか? 戻れないならものすごい劇薬だと思うんですけど」


「あ、それはですね……」


 わたしの質問を受けた魔女さんがフラスコをデスクに置いた、まさにそのときです。

デスクの上に置かれた変身する液体の入ったフラスコに向かって、今朝見かけたのと同じリスが勢いよく衝突しました。


「あっ」


「……え?」


 気付いたときには時すでに遅く、フラスコはデスクの上から勢いよく飛び出しました。

そして、万有引力に逆らうことなく床に落ちたフラスコの割れる音が部屋の中にこだまします。

飛び散ったガラスの破片とともに、液体が部屋中に飛び散りました。

そしてその液体は――もれなく魔女さんに降り注いだのです。


 もくもくと薄い紫色の煙が魔女さんの周りに立ちこめ始めました。

やがてその煙は魔女さんの体を覆いつくして、わたしからは視認できなくなります。


「ちょっと、魔女さん!? 大丈夫ですか!」


 わたしの必死の叫びも、煙の中にいる魔女さんの下へは届きません。

魔女さんからの返事はありませんでした。


「魔女さん! 魔女さああああん!」


 やがて、煙がだんだんと薄くなっていき、反対側が見えるくらいまで晴れます。

ですが、そこにはいるはずの魔女さんの姿はありませんでした。

 変身してしまう液体は、変身したい動物にかけてもらう必要がある。と魔女さんは言っていました。

つまり、これはですね。どういうことかといいますと……。


 わたしは血の気の引く思いで恐る恐る視線を落とします。するとそこには――



――一匹のトンガリ帽子を被ったリスが、ちょこんと立っていました。




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