魔女さんとの出会い
これから投稿させていただきます。
ぜひゆったりとお読みいただければと思います。
ひどい道のりでした。
町を外れた道は舗装されてはいなく、砂を踏み固めたようなあれ道が続きます。
道脇から押し寄せる雑草や地面を盛り上げる木の根っこによって、さながら混沌でありました。
そんな道とは言い難い道を、わたしをのせた馬車が全速力で進んでいきます。
乗り心地は正に最悪の一言。
木の根っこを乗り越えるたびに大きく揺れ、その振動はわたしのいる荷台にまで伝わってきます。
荷台での旅は優雅なものであると思い違えていた自分が恨めしい。
せっかくの穏やかな草原に咲き乱れる花が望める道も、酔いのせいで楽しむどころではありません。
気分的にはそう、鬱状態とでも言いましょうか。
「……う、ちょっと限界かも」
呟いて、必死に自制します。
ここで吐いてしまったら、それこそ正に地獄絵図でしょう。
咲き乱れる花たちの中にわたしの吐瀉物があっては雰囲気ぶち壊しです。最悪です。
さすがにたまりかねるものがあり、馬に指示を出している方に声をかけます。
「あと、どれくらいでつきますかー?」
「あと30分もつけばつくだろうよ。もう少しの辛抱だよ」
優しそうな青年である運転手さんは、性格までお優しい方でした。
わたしは短くお礼を口にしてわたしは外の風景に目を戻します。
視界一杯に咲いているのは綺麗なタンポポやシロツメクサ。
穏やかな春の日差しを浴びたそれらは、瑞々しく生命の息吹を感じさせます。
ですが子供の頃のようにあの中に飛び込みたいとはこれっぽっちも思いません。
いつしか子供も大人になり、現実を知るのです。アブラムシまみれなのです。
ふと、そんな光景を眺めていると、ぴょこんと何かが頭を出しました。
「……」
目が合いました。
時間にして一秒くらいでしょうか?
そのねこさんは、背中に篭のようなものを背負ってこちらを見ていました。
こんなところにもねこさんはいるんですね。
そういえばわたしがなぜ馬車に乗って移動しているかをお話していませんでしたね。
それではお話ししましょう。あれは昨日のことでしたーー。
* * * *
穏やかな夕焼けが町を優しく照らす午後6時。
仕事帰りのわたしは突然衛兵のような姿をした人に後ろから持ち上げられました。
「なんですか!?おろして!おろしてください!」
泣きじゃくって手の中で暴れまわるわたし。
いい年のくせになにをしていたのでしょうか。かなり焦っていたのはたしかです。
ですがいまになって思い出すと恥ずかしくて、穴にでも隠れてしまいたい気分です。
そうして運ばれた先は、とある建物。
"魔女交流センター"と書かれたその看板は、時代に取り残されたようにボロボロでした。
衛兵さんに持ち上げられながら事務所に運ばれます。
応接間のような区画の椅子におろされたわたしは、出されたお茶を啜っていました。
「おお、来てくれたかね」
お茶を啜っていた私を待っていたのか、お腹の大きなおじ様が現れました。
「待っていたもなにも、誘拐したのはそちらでしょう」
呆れた私はお茶を置いてそう言いました。
「はっは、すまなかったな。衛兵はろくな説明もせずに連れて来てしまったようだ」
「説明ねぇ、問答無用で連行されましたよ…」
「そうかそうか。さっそく本題に入りたいのだが、良いかな?」
おじ様は私の前に腰掛けます。
「本題と言うのがな…ある女性にあって頂きたいというものなのだが」
「はあ、女性に?」
「その女性と言うのも、ただの女性ではない。私たちのセンターが何か知っているか?」
「魔女交流センターとかなんとか。看板にそうかいてあった気がします」
「その通り、魔女交流センターだ。もう何をするかわかるだろう?」
そのおじ様は、とてもニコニコと言ってのけました。
魔女さんにあう役目を頼みたい。ということのようです。
「魔女さんに私が会えばいいと…?」
「そうなのだ。魔女さんとの交流が数十年近く絶たれていることは知っているか?」
「ええ、それは知っていますが…」
「私たちが言っても聞いてくれないのだ。どうかお願いできないかな」
「うーん…」
考え込むわたし。
昔、祖母に読んでいただいた絵本を思い出します。
魔法を使って悪いドラゴンを退治し里を守る魔女さんの姿はまさしく、わたしの憧れでした。
「頼む。君しかもういないのだ」
「…分かりました。行きますよ」
「そういってくれると助かるよ。早速明日、魔女の家へ向かってくれたまえ」
…へ、明日?いま明日って言いましたかこの人
「迎えのものは明日の朝向かわせるから、頼んだぞ」
そういってわたしの肩をぽんぽんと叩き、何処かへ行ってしまうおじ様。
それからというもの、話はトントン拍子に進んでいってしまいまいました。
そして翌日。
朝起きるとわたしの家には粗末な手紙が一つ届きます。
(やあ起きたかい。
よく眠れたならそれに越したことはない。
魔女のもとへいく君に、この自転車を上げよう。
これで移動が楽になるはずだ。
では早速いきたまえ。
タイムイズマネーと言うだろう。
by素敵なおじ様
ps.お仕事辞任届け代筆しておきました。
これからは魔女交流センター勤めです。)
びりびり。私はそれを破り捨ててゴミ箱に投げ入れます。
前の仕事を勝手にやめられたみたいです。
それにしても魔女交流センター勤めって…。
人に紹介するのが恥ずかしいことこの上ないです。
過ぎたことはどうしようもないのでキッパリと切り捨てるわたし。
こうなったわたしの判断力はきらりと光るものがあるのです。
そしてわたしは迎えの馬車に乗り込みました。
* * * *
そうして今に至ります。
本当、厄介事に首を突っ込んでしまったものです。
魔女さんへの憧れを抑えきれずに首を縦に振った昨日の私が恨めしい…。
噂ではその魔女さんは何百年もそこに住んでいるとかいないとか。
一体どんな貫禄のあるお方なのでしょうか。
あれこれ考えながら馬車に揺られること30分。丘の先に一軒の家が見えてきました。
あれが、あの家こそが魔女さんの家に違いありません。
憧れの魔女さんにもうすぐ会えると期待に胸を踊らせます。
「よし、つきましたよ。私はこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をして青年は馬車に戻ります。
本当に良くできた方です。わたしもお辞儀を返してお見送りをしました。
そして馬車が見えなくなったころ、わたしは急いで丘をかけ上がり家を目指します。
もう待ちきれませんでした。運動不足で切れる息も無視して丘をかけ上がりドアの前にたちます。
「よし、」
こんこんっ、と軽快にドアをノックします。
もっと禍々しい家だと思っていましたが、そうではないようです。
赤いレンガ屋根に開放的な窓、キチンとお手入れされたお花が飾ってありました。
寝ていらっしゃるのでしょうか、しばらく待っても魔女さんは出てきません。
こんこんっ、とまたドアをノックします。
それでも魔女さんは出てきません。心配になってドアノブに手をかけます。
どうやら鍵はかかってないようなので、中に入ることにしました。
「魔女さん、いらっしゃいますか~」
いまだ返事はありません。私は廊下をずんずんと進んで行きます。
なんだか冒険みたいでワクワクしてきました。廊下を進んだ先にある扉に手をかけました。
どうやらここはトイレだったようです。なかなか小綺麗に掃除もしてあり、几帳面な性格の魔女さんなのでしょう。
続いてお風呂場。
整然と並べられたシャンプーとリンス。わたしの家に置いてある銘柄のものもあります。
残る部屋は一つ。恐らくリビングでしょう、その扉に手をかけます。
コポコポ、とお湯を沸かしているような音がしまているので、音の元へ向かいます。
そこには油汚れ一つないキッチンがありました。
対面式のキッチンからはリビングが一望できます
もしかして結構お金持ちだったりするのでしょうか。
貰えたりしたら嬉しいですね。
そしてわたしはつきっぱなしのテレビの前に向かいます。
いくら魔女さんといってもつけっぱなしは頂けません。資源の無駄使いはダメ。
「えっと、リモコンはどこに……」
つきっぱなしのテレビからはニュースが垂れ流しになっています。
リモコンはどこでしょうか。探しても全然見つかりません。
ふと、机の下をみると何やら布団のようなものがありました。
「もしかしてこのしたにあるのでしょうか」
そう思ったわたしは布団に手をかけます。
そしてそれをバサッと勢いよく取った、そのときでした。
「うわっビックリした!」
布団を勢いよく剥いだところには16歳ほどの女の子がいました。
わたしと同様に、突然のことで度肝を抜かしています。心臓止まるかと思いました。
「ちょっとあなた誰ですか……いたっ!」
突然のことに驚いた彼女は勢いよく姿勢を起こして頭をぶつけました。
こうしてわたしと魔女さんは出会ったのです。
第一話閲覧ありがとうございました。
次話以降もどうぞよろしくお願いします!