魔女さんのお部屋
わたしは魔女さんたちと、暖かい日差しの元で寝転がっています。
暖かな日差しを受けた草木は、命の輝きを存分にさらけ出しています。
そこをときたま穏やかな風が吹いていくのです。ネコさんたちも魔女さんも、寝転がって天を仰いでいました。その顔はとても穏やかで、気持ちのよさそうな表情をしています。
暖かく晴れた昼下がり。わたしたちは、こうしてお庭で光合成をよくやるのです。
あ、光合成と言っても「実は植物だったのだ!」とかではないですからね。比喩です。
普段抱えている小さな悩み事。そんなものも、気付けば些細なことにだと思えてきます。
スローライフ、最高。皆さんもぜひ、気分転換にお外に出てみてください。意外と自分にとって大切な時間になるかもしれませんよ。
そしてわたしは小人さんのお洋服のことについて考え出します。
次は何を作りましょうか。もうだいぶ作り終わったので、今度は色違い?
そういえば、昨日の晩作ったお洋服は少し編みこみが甘かったんですよね。お部屋に戻ったら早急に編みなおしましょう。自分の作品を満足の行くまで手直しができるのはいいことです。
編み終えた後のことを考えると、それだけで「ふふっ」と笑みがこぼれます。傍目に見たらさぞ気味の悪いことでしょう。
そんなことを考えていると、ごろごろしていた魔女さんが口を開きました。
「……あの、これから私のお部屋に来ません? 一度も見せたことなかったですよね」
それは、魔女さんからのお部屋への招待でした。
かれこれ月日もたちますが、いまだに魔女さんの部屋には入ったことがなかったことに気付きます。
特段入室を禁止されていたわけでもないのです。ですが、普段からみんなリビングにいる時間が多いので、あまり気にも留めなかったという始末でした。
「どうですか? 意外と面白いですよ」
しばらく言いよどんでいると、魔女さんが追い討ちをかけてきます。
部屋に戻ったら小人さんのお洋服の続きをやるつもりだったのですが……困りました。
「いいじゃないですか。そんなにお時間とらせませんよ」
押しに弱く、ノーと言えない人間のわたし。もうこうなると、ほぼ条件反射で返答してしまうのでした。
「わかりました。ではお邪魔することにしましょう」
「よし決まりですね! ではお部屋でお待ちしています!」
さっきまでのぐうらたはどこへやら。
魔女さんは勢いよく立ち上がり「では」と軽く一礼して、足早に自分の部屋へと戻っていきます。
その後姿はとても嬉々としていました。
「さてと、わたしも行くか……」
そしてわたしは重い腰を上げて立ち上がります。
条件反射とはいえ、約束してしまったものを破ると言うのはタブーでしょう。
当面の目標はノーと言える人間になることになりました。
――そしてわたしは、のそのそと亀のように、魔女さんのもとへ向かいます。
* *
魔女さんのお部屋は、リビングを出た廊下の右にあります。
ちなみにわたしのお部屋はそのお向かい。遺跡に行く前までは朝によく会ったりしましたが、最近ではめっきりでした。
それもこれも、わたしが夜更かしして昼夜逆転していたからです。……明日からがんばる。
扉には、“社長室”とかかれた紙が貼り付けてありました。
昼過ぎに部屋を出たときにはなかったものなので、急いで作ったのでしょうか、しわしわで寄れていました。
「魔女さん。来ましたよ」
軽く二回ほど扉をたたきます。すると部屋の奥から返事が返ってきました。
「どうぞはいってください!」
魔女さんに促されて「お邪魔します」と一言。ドアノブに手をかけました。
……ですが、引けども押せども扉は開きません。ぐっぐっと力をこめてもびくともしないのです。
「ちょっと魔女さん。この扉開かないんですけど!」
若干の苛立ちと息切れを隠すこともせず、魔女さんに言い放ちます。
すると魔女さんは部屋の中から小走りで扉の前に駆け寄ってきて言いました。
「あーそれはですね。どこかにドアを開けるスイッチがあるので、それを押さない限りあかないんです。探してみてください」
「スイッチですか」
ふむ、とわたしは扉を改めて見つめなおします。
何の変哲もない普通の扉。ドアノブが一つついていて、メイドバイ魔女さんの“社長室”張り紙が張ってあります。特になにがあるわけでもありませんでした。
「あの、何も見当たらないんですけど、本当にあります?」
疑いつつ探るようにわたしは聞きます。すると
「す、すいません、この扉引き戸で、スイッチなんてありません」
と魔女さんは笑みのこもった発言をしました。
「…………」
その発言に、わたしは唖然として言葉を失います。
スイッチが無いことは辛うじて許せますが、この扉が引き戸?
ドアノブまでついているのに、引き戸?
「今開けますね」
すると、扉が横に滑っていきました。
開けられたと同時に、引き戸にあるまじきドアノブは内側にひっこんだのです。
――その扉の先には、魔女さんが笑いをこらえた様子で立っていました。