いざ地上へ帰還!
二体は、それはもう獰猛に戦っていました。
カエルの親玉さんが水掻きのついた手でスライム大王を叩きます。
それに負けじとスライム大王も勢いよく跳び跳ねて体当たりを決めるのです。
津波に変わった泉の穏やかだった水が、何度も何度も周囲に撒き散らされました。
もみ合いは激しくなる一方で、収まる気配は全くありません。
激しく位置を入れ換えて、互いに突き飛ばしてはまた衝突しにいきます。
まさに頂上決戦。
スライムとカエルの種族の存亡をかけた戦いでした。
「…なかなかやるであーる。そろそろ倒れるであーる!」
「ーーーー」
スライムは無言のまま先っちょのとがってるところを動かしました。
「だが、これならどうであろうか!」
カエルさんは巨大な体に見会う舌を勢いよく出します。
その舌はスライムさんの頭のとんがりをするどく捕まえていました。
「食らうのであーる!」
そう言ったカエルさんは、目にもとまらぬ速さで舌を口に戻します。
びちゃんっという音が鳴り響き、スライムの先っちょのところが辺りに飛び散りました。
むごい。むごたらしいです。ですが、これこそが生バトルの臨場感であり、楽しさでしょう。
スライムの飛び散った破片はわたしの足元まで飛んできます。
赤色の液体が何個かまとまって飛んできました。
それは着弾と同時に液状の水溜まりから姿を変えて、スライムの姿になります。
気付けば回りはスライムだらけでした。
「これ、わたしたちも戦わないといけないパターン…?」
「そうみたいですねぇ…」
わたしは赤色のスライムの攻撃を軽く交わしながら水をかけていきます。
甘く見ると痛い目を会いますよ、スライムさん。道中で何体葬ったとお思いですか。
手際よく片付けていきます。もはや熟練のスライムハンターです。…弱そう。
一方の魔女さんは狩りなれていないのでしょう。素手で触っていました。
「魔女さん、素手はさすがに危ないですよ!」
「え?だってこれ、素手で溶けますよ?」
そういった魔女さん適当なスライムをキャッチします。
するとどういうことでしょう。
手の触れているところから徐々にジェル状に溶け、数秒後。スライムはただの水になりました。
これは…どういうことでしょう?
「魔女さん、魔法か何かですか?」
「いえ、ただ触れてるだけですよ。そもそも魔法使えませんし」
そうでした。魔女さんは魔法が使えないのです。
ということは、ただ体温が高いだけ…?それだけ?
でもこれは発見です。この頂上決戦を止めることのできる唯一の手段でしょう。
よくよく考えると、最初に落ちたときです。
魔女さんとわたしは遥かしたまで落下してスライムに着地しましたよね。
そのとき、魔女さんの足はスライムに埋まっていました。一方でわたしは無事。
靴を越しに伝わる魔女さんの体温で、ジェル状まで溶けていたのでしょう。
伏線は一番最初にあったのです。気付きませんよ普通、そんなこと…。
改めてわたしは考えを巡らせます。
虹色に輝くスライム大王。弱点属性は恐らく無し。
それはすなわちほぼ無敵であることを示しますが、もし属性を無視して溶かされたら…?
答えは単純です。ただの水に戻る、です。
ということは…
「いけます、いけますよ魔女さん!あなたならこの戦いを止められます!」
「え、わたしが?なんでですか?」
わたしは自分の考えを簡潔にお話しします。
「あなたは恐らく基礎体温が普通の人よりかなり高いんです。
だからあのスライム大王に触れることができたら、それでスライム大王は水に戻り消滅します!」
「な、なるほど…でもどうやって」
「簡単なことですよ!カエルの親玉さんに投げてもらいましょう。スライムまで!」
そしてわたしは出せんばかりの大声でカエルの親玉を呼びつけました。
足早に説明を済ませてしまい、魔女さんを受け渡します。
これでどうにかなってほしい。それだけが願いです。
そして運命のときは訪れます。
カエルの親玉さんがスタンバイオーケー。のサインを出しました。
それに会わせてわたしが掛け声を叫びます。
「カエルさん、いっちゃってください!!!!」
「いくであーる!」
そう叫んだカエルの親玉はプロ野球選手顔負けの投球フォームで魔女さんを投げます。
その速さは目測で150kmはありそうな気がします。気がするだけです。
「きゃああああああ、はやすぎるでしょおおおおおお」
ぬるぬるのせいで滑って余計加速した魔女さんはスライムに突き刺さります。
「ぶっほ……」
そしてそのまま静止しること約3分。
だんだんとスライム大王が縮んできているような印象を受けます。
気のせいか泉の水量も増えている気がしました。
そして10分がたとうとしたとき、スライム大王は完全に消滅しました。
それからの流れはこうです。
スライムを倒したお礼がしたいとカエルの親玉に言われたわたしたち。
なん引きかのカエルを貸していただくことができ、地上まで案内をしていただくことになりました。
準備が整うまでの数十分の間にマッピング作業を再開します。
色々発見がありました。スライムだったりカエルだったり。
それらを無造作に書き留めてわたしたちは地上へ送ってもらいました。
地上まで連れてきてくださったカエルさんに感謝の意をお伝えします。
遺跡を一歩出ると、人間ほどのサイズもあったカエルさんたちは小さな普通のカエルに戻りました。
何日もかけてさ迷っていた地下遺跡ですが、ものの数十分で地上へ戻れました。
カエルさんの跳躍力恐るべし。私もほしいものです。
そしてキャンプに戻ったわたしたちは手厚い歓迎を受ける…はずでした。
そこには怒り狂ったおじ様と調査隊の方々が待ち構えていました。
「あ、あの…いま戻りました。」
「すみません。ご心配おかけしましたー…」
ぶん殴られて捨てられるまであるくらいの空気でしたが、おじ様が「…今は休みなさい」とだけ口にして去っていきました。
調査隊の方々もそれに続いてゾロゾロと戻っていきました。
怖かった…。本当に怖かった。
魔女さんなんか目に涙を浮かべています。あれ、なんだか目が雲ってきましたよ。
「ど、どりあえず、ご飯でもだべばじょう」
「ぞうでずね…だべまじょう」
鼻声のわたしたち二人は、自分達のキャンプに戻り食事をとるのでした。
次の話で<第2章:初めての遺跡調査>のエピローグになります!!