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悲劇の始まり

 朝7時に、わたしは目を冷まします。


 時間にして9時間弱程でしょうか。

 寝起きの頭では、なぜ自分がこんなところにいるのか理解出来ません。

 上半身を起こして辺りを見渡すと、自分が遺跡の地下にいることを思い出します。


 「……寝て起きたらもとに戻るなんて、そんな夢落ちないですよね」


 昨夜はあれほどありがたかったこの照明の光。

 ですが今となっては閉塞感を際立たせる要素に過ぎませんでした。


 「おはよう、おはよう」


 「……」


 ペコリと体を半分に折り曲げる小人さん。

 そういえば小人さんも一緒でしたね。まだボンヤリしています。


 「おはようございます。今日こそ出ましょうね」


 「でる!でる!」


 わたしの言葉に同調した小人さんは、拳を胸に当てます。

 どこぞの調査兵団でしょうか、まぁ、あながち間違っていない気がしなくもないですが。


 「とりあえず、朝食にしましょうか」


 「あさめし!あさめし!」


 前夜の晩餐はパンを塗ったジャム。

 余りにも質素で栄養価にかけまますが、やむを得ません。

 今日の朝御飯は頑張った自分へのご褒美も兼ねて、缶詰めを開けます。


 「小人さん、これは鯖缶っていって、ご飯にすごく会うんですよ」


 「鯖缶!鯖缶!」


 どうせいま開けなくても、近々開けることになるでしょう。

 出し惜しみをして倒れてもしょうがないので贅沢に缶詰めを開けます。

 持ってきているお米はおにぎりだけ。

 やむ無く塩むすびを解体して鯖缶と合わせて食べます。それだけ。


 「はい小人さん。鯖缶のご飯ですよ」


 「うれし!うれし!」


 小人さんは体が小さい分低燃費です。

 美味しそうに食べる小人さんを見るとどこか癒されます。



 粗末ながらも贅沢な朝食を済ませると、わたしたちは出発の準備を始めます。

 準備が終わると、また暗く冷たい地下通路の探検が始まるわけです。

 複雑に入り組んだ道は寝ても覚めても変わることはなく、わたしたちの前に立ちふさがります。

 歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。


 ただ歩いているときは段々と無言になっていきます。

 靴音の単調なリズムで可笑しくなりそうな頭を、マッピング作業のみが覚ましてくれます。

 カリカリとマッピングしながら暗い道を進んでは曲がり進んでは曲がり…。


 もう何個目の角か分かりませんが、相も変わらず部屋は見当たりません。

 この分だと魔女さんも見つからずに全滅でしょうか…。まさかね。


 喉、渇いたな…。

 ふと喉の渇きを覚えて、無意識に水筒を口に運びます。

 これで残りはあと2本、量にして1Lと少しといったところでしょう。


 先ほどの部屋に戻れば水源があることにはありますが、それは最終手段です。

 手付かずの遺跡でカエルとスライムの在住地にある湖の水を、誰が好き好んで飲みましょうか。

 備えあれば憂いなしとはよくいったものです。


 もしこんなに装備を整えていなかったら今頃湖の水を飲んでいたことでしょう。

 さしずめご飯はカエルの肉とスライムの和え物。

 考えるだけで身が震えます。


 「そういえば小人さん。なんで小人さんなんですか?」


 「わからん!わからん!」


 とてつもなくどうでもいいことを聞いていますが、大事なことです。

 黙っているよりなんでもいいから会話をした方が精神衛生上よろしいのです。


 歩き続けること半日。

 気付けば時刻も午後8時を回りましたが、発見はありませんでした。

 今晩は一先ず通路で野宿をすることにします。

 しょうがないのです、戻ろうとも半日歩いた道ですから。

 戻る頃には朝を迎えていることでしょう、やむ無く通路で寝るのです。


 「今日で二日目…はぁ」


 調査隊の方とはぐれないと踏み、連絡機器は持たなかった自分を恨みます。

 現時点では、脱出口も不明であり、遠ざかっているのか近づいているのかも不明です。

 マップも気付けば迷路のように複雑に入り組んでいました。ゴール、どこ?


 着替えの服を数枚地べたに並べ、簡易の寝床を製作します。

 今日の晩御飯は缶詰めと水。

 本格的にいつ出られるか分からなくなってきたので、節約を始めます。

 そして晩飯を終えたわたしたちは半ば倒れるように眠ったのでした。



 翌日、強いていた服を片付けそそくさと出発。

 もはやここまで来ると、早くでたいという意識も変わり、時間をかけてもいいから全員無事で戻りたいという意識が強くなってきます。

 魔女さんは元気でしょうか、というより生きているのでしょうか。

 もと引きこもりでなにもしなかった自堕落魔女のことを考えると胸が痛みます。


 通路に変化なし。わき水や部屋なし。

 曲がり角があれば曲がり、行き止まりは引き返しマッピングをする。

 そんな行為も、出来るだけの余力があるうちのみ出来るのです。


 精神が不安定になってくると、この一連の行為も機械的な作業と化します。

 曲がり角を無言で曲がり、行き止まりは無言で引き返す。

 無言でひたすら歩きながら、歩いた道を無言でマッピングする。


 はた目に見れば、無言で地下深くを歩き回るわたしは何か妖怪のようにも見えたでしょう。

 歩き続けてはや半日がたとうとしていたとき、事件が起こります。


 「小人さん、お水飲みますか?」


 「のむ!のむ!」


 「はい、どうぞ…あっ」


 余りの疲労感からか、わたしは水筒の水を溢してしまいました。

 やってしまった…と思った頃にはもう遅く、水筒半分の500ml近い水を失いました

 不幸は重なるもので、これだけでは終わりません。


 プツンっプツンっと懐中電灯が点滅します。

 段々と光量が減っておぼろげな光へと変化していきます。

 替えの電池はもう無く、これが最後の懐中電灯の光なのです。

 これからは真っ暗な地下通路をひたすら進むことになるのでしょうか。


 やがて、懐中電灯は暗闇を照らすことを止めました。


 「もう、だめだ…。おしまい……」


 「暗い!暗い!」


 懐中電灯も付かなくなり、水も半分を失いました。

 マッピングしてきたマップも、暗くては識別することが出来ません。

 まさにバッドエンドに相応しい結末と言えるでしょう。


 わたしたち、これからどうなるの?




 




 



 


 

  

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