遺跡の最下層
暗くながい縦穴を落ち続けます。
ずっと下に差し込む光が見えてきました。
いよいよ地面が近づいてきているようです。
地面にこの勢いで落ちたら…絶対バッドエンド。
いままでありがとうございました。こんなわたしですみません。
そしてわたしは短い人生に幕を下ろす覚悟を決めます。
わたしたちの冒険はこれからだ、とかいって見ましょうかね。
それでは、これで。
わたしたちの冒険は、これかーー。
ぶるぅぅんっと、何かに落ちました。
「あ、あれ?」
生きてる…?どうやら生きてるようです。
夢でないか、自分の頬をつねりますーーいでで。
どうやら本当に生きている見たいです。
「魔女さん、生きてますか?」
「生きてますよ…このスライム?のおかげですかね」
言われてわたしは足元をみます。
ぷるぷるしている水色のスライム。
半透明な体はどこかひんやりとしています。
さわり心地から、水分量が多いのが確認出来ます。
「これ、なかなか気持ちいいですね」
「ですねーぷるぷるしてて。ずっと触っていら、れ…る」
さーーっと魔女さんの顔から血の気が引きます。
何かあったのでしょうか…
「あ、あわ、後ろ。後ろ。後ろおおおお」
「え、後ろですか…?」
わたしは恐る恐る振り返ります。
そこには、とても大きくて、ぬるぬるしていて、大口を開けているーー大きなカエルがいました。
「わああああああああ!!!」
「きゃあああああああ!!!」
魔女さんのうでを取ってスライムからの脱出を試みます。
どんなに引っ張っても魔女さんが動きません。
「魔女さん早く動いて…!」
「足が、足がはまって抜けないんですよ!!」
「ま、魔女さん!」
「もう、わたしのことは大丈夫です。貴女だけでも…逃げてください」
「そんな、そんなこと…」
「いいの、気にしないで!」
魔女さんと自分の命、その二つを天秤にかけます。
魔女さんと命
魔女さん、命
命…魔女さん。
どっちが大切なのか、よく考えてわたし。
このまま判断を送らせればどちらもバッドエンド。
それだけは避けたい…。
「早く!」
よし、決めた。
「では、魔女さん。お達者でええええ」
わたしは全速力でスライムから脱出を図ります。
肩に乗ってた小人さんが落ちないように押さえながら。
「え、ちょっと、本当に?本当にいっちゃうの?」
後ろから聞こえる魔女さんの声に耳を傾けずに進みます。
ごめんなさい魔女さん、あなたのこと忘れません…!
「ちょっと、ちょっと、ちょっとおおおお!!!」
後ろでびちゃっという音が聞こえます。
カエルが長い舌でスライム(魔女さん付き)を絡めとります。
すごい勢いであることは、風切り音で伝わってきます。
「きゃあああああああああ!!」
魔女さんの断末魔を聞きながら、わたしは走るのでした。
生かされた命です。精一杯生きる決意をしました。
はぁ、はぁ、はぁ…。
あれからだいぶ走りました。
距離にして100メートル少しですが、堪えます。
魔女さん、生きてるでしょうか…見捨てたわたしが言うのも何ですけどね。
調査隊と魔女さんと別れて、小人さんとわたしのみになってしまいました。
「さて、小人さん。これからどうしましょうか…」
ここは何回層とも分からぬ遺跡の地下。
置かれた現状もなにも分かりません。
ただひとつ分かっているのが、大きなカエルが生息しているということです。
食べられたスライムと魔女さんを考えると、スライムを餌にしているのでしょうか。
カエルから逃げつつ地下から脱出ーーあわよくば魔女さんの救出。
結構な大仕事になりそうです。
「とりあえず、いろいろ調べて回りましょうか」
「わかった!わかった!」
重い腰を上げて歩き出します。
どんな困難が待っているのか、本当に脱出出来るのか。不安です。
歩き続けて10分くらいの頃です
ぷるんっと、突然わたしの目の前にスライムが落ちてきました。
「うわぁ!びっくりした」
「スライム?スライム?」
赤色のスライムです。
生きているのでしょうか、ぷるぷるしています。
触ったらどうなるのでしょう…でもわたしは触りたくないんですよね。
「…小人さん、触ってみます?」
「触る!触る!」
触る役目を小人さんに押し付けます。
ぷにっと小人さんはスライムに触れます。
その時でした。
ぶわっと口の様なものを開け小人さんを包み込みました。
なす統べなく小人さんは体内に取り込まれていきます。
「小人さん?小人さん!」
「達者で、達者で」
小人さんはスライムに食べられてしまいました。
食事を終えたスライムはわたしの方に振り向きます。
「まさか、わたしも…?」
そうおもったのもつかの間。
スライムがわたしめがけて飛び込んできました。
「えぇぇ!ちょっと、どうすれば!」
わたしは取り敢えず全力で走り出します。
リュックサックのなかを漁りながら使える物を探します。
「これも違う。これも意味ない。これも、これも…」
一頻りリュックサックのなかを探しますが、使えそうなものはありません。
スライム…赤色…スライム…赤色…。
赤色といえば火でしょうか。もしかして属性色?
火を消すなら水です、わたしは迷わず水筒を開け放ちます。
「くらえ!」
びちゃっと水をスライムにかけます。
するとスライムは溶けるように消えていきました。
どうやらわたしの考えは当たったようです。
体色は属性に由来する。といったところでしょうか。
消えたスライムの中からは食べられた小人さんが出てきました。
「あ、小人さん」
「ぬるぬる…ぬるぬる…」
小人さんは自分の体を触っては腕を引いています。
その体は見るからにぬるぬるしていて、気持ち悪そうでした。
「水、浴びますか?」
「お風呂?お風呂?」
「ぬるぬるを流すだけですよ、お湯沸かせませんから水で我慢してくださいね」
「わかった、わかった」
そうしてわたしは残った水筒の中身を小人さんにゆっくりとかけます。
チョロチョロ…とかけていると、小人さんは気持ちよさそうにしていました。
「綺麗になった…かな?」
「なった!なった!」
「ハンカチ使いますか?体拭いたほうが」
「感謝!感謝!」
ハンカチを受け取った小人さんは体を拭きます。
さっぱりしている様子でお茶を一杯飲み干しました。
わたしもお茶をいただくことにします。
「ふう…さて、これからどうしましょうか」
冷たいお茶を飲みながら考えを巡らせます。
第一に優先すべきはやはり魔女さんのことでしょうか。
先程はやむ無く見捨てましたけど、今後対処できるかもしれません。
いまの状況について分かったことも増えましたしね。
一つ目は体色と属性との関係。
まだ出会ったのは最初に落ちたときの水色と、先程の赤色のみです。
ですが、それで情報は十分でしょう。
赤色が水に弱いということは、水色は電気とかでしょうか。
そして二つ目。
ここが地下50階層であるということ。
今回の調査は25階層までだったはずです。
それはすなわち、調査隊のかたは助けに来ないと言うことを意味します。
ですのでわたしたちは自力で階段を見つけない限り、地上へは戻れません。
10階層までの調査で確立されたことが一つあります。
それは、したにいくほどエリアが広くなるということ。
その考えが通ずるならば、ここ50階層は最も広いと言うことになります。
その最も広い階層を調査隊抜きのわたしたちだけで…。
考えるだけで嫌になります。頑張らなくては。
まずは魔女さんの創作を優先です。
どうせあの人のことでしょうから生きてるでしょう。
「よし、小人さん。魔女さんを見つけて3人で脱出しますよ!」
わたしは広すぎる遺跡の最下層でそう叫びました。




