不死身の力
長き旅の果てに、不死鳥の肉を食べた男は不老不死の肉体を手に入れた。男はさっそく、自分の肉体を使って不死の力を試してみる事にした。
毒薬を飲み、ナイフを自分の腹に突き刺す。しかしさすがは不死身、痛みや苦しみはあるのだが、毒は体外に排出され、傷口も見る間に塞がった。
次に男は殺し屋の許を訪ねて言った。
「あなたを見込んでお願いがあります。どうか、銃弾で私の頭部を撃ち抜いてくれませんか」
男の突飛な依頼に、殺し屋は困惑する。
「おかしな奴が来たぞ。誰かを殺して欲しいのならわかるが、自分を撃てと言う。自殺願望があるのなら、一人で勝手にやってくれ」
「早合点しないでください。自殺をしたい訳ではありません。信じて頂けないかもしれませんが、私には不死身の力が備わっており、その能力を試してみたいのです。謝礼ははずみます。お願いします」
食い下がる男に、殺し屋は渋々、異様な依頼を引き受ける事にした。
殺し屋は懐から小型の拳銃を取り出し、男の頭部に狙いを定め、引き金を引いた。銃口から発射された銃弾は見事、男の頭を捉え、望み通り撃たれた男はその場に崩れ落ちた。
大の字になりピクリともしない男、しばらくすると、頭部の銃創は塞がり、何事もなかったかのようにすくっと起き上がった。
その様子に殺し屋は驚きの声を上げる。
「こんな事が…まさか…」
「どうです、信じて頂けましたか? 私は不死身なのです」
男は結果に満足げだったが、突然、
「うう…、何か変だ…。頭が割れるように痛い…」
と、頭を押さえ苦しみ出した。どうやら殺し屋の放った銃弾が脳内に残されたままとなり、それが頭痛の原因となっているようだった。
「助けてくれ…吐き気がする…。あ、頭が痛い…、医者を呼んでください…」
しかし殺し屋は男の申し出を断る。
「冗談じゃない、そんな事をすれば俺が捕まってしまう恐れがある。謝礼は確かに戴いたぞ。じゃあな」
殺し屋は我関せずで、そそくさと行ってしまった。その場に一人残された男は、
「なんて冷たい奴だ…。頭が…頭が痛い…」
と、額に脂汗をかき、苦悶の表情で地面をのたうち回る。
仮に医者に掛かったところで、不死身の能力で傷口が塞がってしまう身体では、手術で銃弾を取り出すのは困難であり、死から解放された男は一生頭痛に苦しみ続ける。
男は苦しみながら、叶う事のない心からの願いを声に発した。
「こんなに苦しいのなら、いっそ死んでしまいたい…」