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第4話

 煙草を吸いながらぼーっとしていると、注文していたナポリタンとアイスコーヒーが運ばれてきた。あの女性店員だった。

「お待たせ致しました。」

そう言うと僕の前に注文した品物を置いていき、別の客の方へと歩いていった。僕は何気なくその女性店員の行き先を目で追っていた。するとそこには新しく入ってきた客であろう女性がひとりで座っていた。その女性は髪をツインテールにしていて、白を基調としたロリータ服を着ていた。席が近いため、あまりまじまじと見ることはなかったが、女性店員は水とおしぼりをその女性の席に置き、注文を聞いていた。その女性はどうやらアメリカンコーヒーを注文したようだった。そして僕はアイスコーヒーを飲みながらナポリタンを食べ始めた。量はそこまで多くなかったが、味はすごく美味しかった。きっとこの空間が美味しさを増すのだろう、僕はそう思ったのだった。


 ナポリタンを食べ終えた僕は、持ってきた嶽本野ばらさんの「ミシン」に収録されている「世界の終わりという名の雑貨店」を読み始めた。僕はこの冒頭の「ねぇ、君。雪が降っていますよ。」という部分がすごく好きだった。これは読み進めていけば分かるのだが、好きな人へのメッセージなのだ。どう話が転んでいくのか、期待させてくれる冒頭だからな、と僕は感心していた。いつかこんな小説を書けたらいいな、なんて思いながら。すると先程のロリータ服を着た女性の方から悲鳴が聞こえた。

「きゃっ。」

どうやら水の入ったコップを倒してしまったようで、僕の方まで水と氷が転がってきた。

「申し訳ございません…。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

特に洋服やブーツにかかった訳でもなかったので僕はそう答えた。

「本当にすみません。」

ロリータ服を着た女性はそういうと僕の方に目を向けこう言った。

「あの…嶽本野ばらさん、お好きなのですか?」

「はい。すごく好きで小説を読み漁っています。」

「私も好きなんです。特に鱗姫が…でもミシンも素敵なお話ですよね。」

「ええ。僕は世界の終わりという名の雑貨店が大好きで…」

嶽本野ばらさんの作品はロリータのバイブルとも言える小説なのだ。小説の中にはロリータ服を纏った女性が多く出てくるからという理由もあるだろう。ロリータ服を好む女性で、嶽本野ばらさんを知らない人は居ない、と言っても過言ではないと僕は思っていた。するとあの女性店員が雑巾とトレーを持ってきた。

「大丈夫でしたか?新しいお冷をお持ち致しました。」

そう言うと新しいお冷をロリータ服の女性に差し出し、女性店員はこぼれた氷を拾い、雑巾で床を拭いたのだった。それが終わると床に転がったコップを取り、レジカウンターの方へと戻っていった。


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