第2話
そしてコーヒーを飲み終えた僕はまた煙草に火を点けた。すると先程の女性店員が来た。
「お冷のおかわりはいかがですか?」
コーヒーを飲み終えた僕はおかわりをお願いした。
「はい。お願いします。」
するとその女性店員は僕のコップに水を注いでくれた。そして女性店員はすぐにレジカウンターの方へ戻っていった。僕はすぐに水を口にした。外は寒いとはいえ、空気も乾燥していたので喉が渇いていたのだ。ゆっくりと煙草を吸いながら、僕はその水を飲んでいた。それにしても居心地の良過ぎる空間だ。いつまでもここに居たい、そんなことさえ思っていたのだった。
左腕にしていた時計を見たら、気付けば時間は17時を回っていた。店内は相変わらず客は少なく閑散としていた。本当に居心地が良かったのだ。ただ何をする訳でもなく、ぼーっとしていても心地の良い時間を過ごせた。そして煙草を吸い終えた僕は店を後にしようとした。立ち上がり会計をするためにレジの方へと歩いて行った。すると先程の女性店員がレジへやって来た。
「お会計をお願いします。」
「540円になります。」
小銭を探したがちょうど無かったので、僕は千円札を差し出した。
「1000円からでお願いします。」
「かしこまりました。460円のお返しです。また起こし下さい。」
その時、僕はまた女性店員を見た。やはり身長は僕より12~13cmほど低かった。おおよその憶測だったのだけれど。そして綺麗なセミロングの髪、少しばかり茶色い瞳、営業的なものかもしれないが少しはにかんだ表情、店内を気に入ったせいもあってか、その女性店員がすごく素敵に見えた。そう思いながら、僕は店の扉を開け、すっかり暗くなった外へと出たのだった。
時間はもうすぐ18時。僕は予定も無かったので家路へと着いた。その喫茶店から家までは電車を使い、地元の駅から歩く時間を含め40分程度。僕はまず駅へと向かった。空気は喫茶店に入る前よりもすっかり冷たくなっていた。それでもそんなことはどうでもよくなっていた。素敵な喫茶店を見つけて御機嫌だったのだ。駅へ着くとすぐに電車がやって来た。僕の地元の駅は急行が停まるので急行に乗った。帰宅ラッシュの時間だが、帰りは上り線だったため、比較的車内は空いていた。僕は扉の近くに立ち、ぼーっと冬の夜を彩るネオンや車のライトを眺めていた。不思議なもので、何気ない景色も素敵な時間を過ごした後というのは、何もかもが素敵に輝いて見えるのだった。そして経過する時間も早く感じるもので、あっという間に地元の駅へ着いた。僕は電車を降り、更に肌を突き刺すような寒さの中、家までの道のりを歩き始めた。その時もまた僕は先程の喫茶店のことを考えていた。もう魅了されていたのだった。そんなうちに自宅の賃貸マンションに到着した。部屋へ入った僕はとりあえず暖房を点けた。
ここで今更ながら、僕の自己紹介をしたいと思う。僕は今年33歳になった。趣味は作詞作曲、読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、こんなものだろうか。あとはファッションに関心があり、御洒落をすることも好きだった。今こそやってはいないものの、昔はロックバンドをやっていたので、ロック系のファッションを好んで着ている。今日はダメージデニムにライダースジャケットを羽織り、お気に入りのつばの広い中折れハットを被っていた。
そして世間一般のみんなが気になるのが職業だろう。僕は週に1~3回程度のアルバイトをしていた。なぜそんなに少ないのか?そう疑問に思う人は多いだろう。その理由は、僕は精神疾患を抱えていて生活保護を受給しているのだ。本当はもっと働きたいという思いがあるのだが、ドクターストップがかかっていて、週1~3回程度なら良いと言われていたのだ。仕事内容は倉庫内での検品や梱包作業だ。所謂、ルーチンワークという、特にメリハリや刺激もない仕事内容だ。しかし、今の僕にはちょうど良いものなのかもしれない。
自己紹介はこんなところだろうか。先に書いたような生活を送っている。仕事をするには病気を良くしてからでないとフルタイムでの勤務は難しいので、治療に専念しているため時間だけは余裕があった。治療も治すものではなく、症状を良くしていくものしかなく、担当の医師が言うには安定するまでに何年もかかるとのことだった。
そんな僕は家に居る時は、作詞作曲をする時間が一番長かった。どんな曲が多いかというと、悲しい恋愛の歌詞の曲、簡単に言えば失恋ソングのようなものが多かった。実体験かと聞かれれば答えは違う。僕が作詞作曲するものは、読んだ本や観た映画からインスパイアされるものもあるが、大半が妄想だったのだ。ではなぜ、失恋ソングが多いのか?それはおそらく作りやすいからだろう。僕の十八番だったのだ。