第1話
──ねぇ カノン 君は僕の隣で微笑ってくれますか?──
──その綺麗な瞳を僕にくれますか?──
──ねぇ カノン 寂しい時は僕を頼ってくれますか?──
──その涙と想いを僕にくれますか?──
僕が君…カノンと出逢ったのは、2013年11月24日だった。その日から僕の恋が始まったのかもしれない。そしてまた僕の運命が狂い始めたのもその日だったのかもしれない。それは偶然という名の必然だったのだろうか。運命の悪戯だったのだろうか。いずれにせよ、幸せと不幸せを教えてくれたのは、君…カノンだった。
カノンはロリータ服が好きなとても純粋で一途な女性だ。そして誰よりもロリータ服を着こなしていた。少なくとも僕はそう感じていた。彼女は僕と逢う時は必ずと言っていいほど、僕にどんな服装が良いか、どんな髪型が良いか、などと聞いてきたのだった。僕はいつも悩んでいたが、結局は彼女に一番似合うロリータ服をリクエストしていた。それも夢のような遠い昔の話のような思い出になってしまったのだが。
しかし、振り返り色褪せていく景色の中で、君はいつまでも鮮やかにその影を残していたのだった。
風は肌を刺すような冷たさ、防寒対策をしているにも関わらず耐えられなくなった僕は、とある喫茶店に入った。喫茶店の扉を開けると日曜日の昼間だったが、店内は閑散としていた。僕はその喫茶店に入るのは初めてだったので、適当な喫煙席を選びそこに座った。店員が来る前に僕は煙草に火を点けた。店内は非常に暖かく、初めて入る店の割には落ち着けた。しばらくすると、店員が水とおしぼりを持って僕のところへ来た。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
そう言われた僕は煙草を吸っているのに夢中で、メニューを見るのを忘れていた。しかし、僕は基本的にはブラックコーヒーを好むのでこう答えた。
「ブレンドをお願いします。」
その時、僕は初めて店員の方に目がいった。その店員は女性で、身長はおそらく160cm前後、髪はセミロング、そして少し茶色に近いすごく綺麗な瞳をした人だった。一目では流石に年齢までは分からなかったが、おそらく年下だろうと予測した。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
その店員はそう言うと僕を後にした。
注文したコーヒーを待つ間、僕は煙草を吸い続けていた。読書や携帯電話をいじることもなく、物思いにふけることもなく、ただただ煙草を吸っていた。そして待つこと数分、注文したブレンドコーヒーを先程の店員が運んできた。
「お待たせいたしました。ブレンドでございます。」
そう言って、僕の前にコーヒーを置くと店員はレジカウンターの方へと去っていった。
早速、僕はコーヒーを口にした。ブラックなので当然苦いのだが、僕は好んでいたのですごく美味しく飲めた。この店のコーヒーはチェーン店のものと比較しても本当に美味しかった。店内の雰囲気も落ち着いているので、静かな雰囲気の場所を好む僕にはすごく居心地の良い空間だった。そして外は肌を刺すような寒さから解放された僕は、心身共に落ち着いたのか、店内をざっと見まわした。
その店内を僕は異空間と感じた。店内にはなぜか鎧や動物の剥製やドライフラワーやステンドグラスなどで装飾されていた。正直に言うとまとまりはない。だがしかし、統一感はあった。矛盾しているようだが、そうだったのだ。ざわついているようで落ち着く、それがこの喫茶店だった。不思議な何とも言えない妖艶な雰囲気…僕はまた来たいと思ったのだった。