第四話
三沙都が死んだ。
『死ぬかもしれない』とだけメールを遺して。
死体は切り刻まれ、冷凍庫に詰め込まれていた。
もう、誰一人『呪いのわらべ唄』を信じない人はいない。……紫乃舞さえも。
教室は無言に包まれた。生徒も、先生も、無言。
なぜならもうすぐ死ぬであろう紫乃舞がいたから。
明らかな特別扱いに紫乃舞は気づかなかった。
ーー与四郎に死が近づいていることを伝えなければならない。
心が、痛かった。
***
与四郎は妻と息子と共に、小さなアパートで暮らしている。
今日は日曜日で、与四郎が食事を作る日だ。
「お父さん頑張って!」
「おう!」
5歳になったばかりの息子に応援され、気合いが入る。使い慣れない包丁を握り、テンポよく野菜を切っていく。
トットットットッ。
慣れないために、指を軽く切ってしまった。かっこいいところを見せようと調子に乗ったのが悪かったか。
ツー。
流れる血をじっと見つめる。そのまま包丁から手を離し、フライパンに火をつけた。そして再び包丁を持つ。
ぶつっ。
自分の腹に包丁を刺す。
ツーッ。
さっきと同じように、赤い血が流れる。
鈍い痛みが心地良い。
ぐさっ。
次はもっと深く刺した。
ぐしゃっ。
流れる血と共に、肉が抉りだされる。
ぼしゃっ。
それをフライパンに入れた。ジューッと肉が焼ける音がする。
この行動に与四郎は快感を覚えた。
そして、ひたすらそれを繰り返した。
ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ、ぐさっ、ぐしゃっ、ぼしゃっ…………。
朦朧とした意識の中、フライパンの上のモノを盛り付け、家族の元へ持っていく。
「いただきまーす」
ぴしゃっ。
二人が“料理”を口に運ぶ。
「凄く美味しいよ、お父さん」
息子の感想を聞き、与四郎は満足気に意識を手放した。
クスクスクスクスクスクス……。
***
与四郎も死んだ。
みんな、死んでしまった。
紫乃舞は一人でわらべ唄を歌う。
「四のつく人 寄っといで とっても美味しいステーキは 真っ赤なワインがお似合いです」
阿村与四郎は自分の肉を家族に食べさせた。家族はその後行方不明だ。
「五のつく人 寄っといで いらなくなったガラクタは 全部まとめて捨てましょう」
紫乃舞は自分の死に方を考えた。
少しの間目を閉じて考えていたが、思いつかずに諦めた。
どうせすぐ、知ることだ。