第三話
朝、教室はざわついていた。
当たり前だ。転入生がやってきたその日に死んだのだから。それも『呪いのわらべ唄』を連想させるように。
「“一のつく人 寄っといで お空のお話聴いてたら 綺麗に染まった夜の道”」
月影一哉は交通事故。運転手によると上を向いて歩いていたらしい。道路は一哉の血て赤く染まっていた。
「“二のつく人 寄っといで 小鳥に連れられ空の旅 星に包まれ夢の中”」
転入生の篝逢二亜は自殺。自宅の部屋から飛び降りた。しかし遺書は見つかっておらず、両目も刃物のようなもので抉られていたそうだ。
紫乃舞の周りで“呪い”通りに人が死んでいく。
おそらく次に死ぬのは……。
「三沙都、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫…………」
三沙都は虚ろな瞳で言った。
「絶対大丈夫じゃないじゃん! 篝さんの話聞いてから、ずっとそんなんじゃん!」
「……」
次は“三”。“一” “二”と死んでいる。こうなるのは目に見えていた。
「ちょっと、紫乃舞も何か言ってよ」
「……私も“五”ついてるんだけど」
「…………」
沈黙。
その沈黙が皆の心を表していた。
その夜、紫乃舞の家に親戚がやってきた。
母の従兄弟にあたる人。おそらく父ぐらいの年齢ーーといっても、父の年齢を知らないのだが。40代半ばくらいのくたびれたスーツを着た人だった。
「おお! 紫乃舞ちゃん、大きくなって! おじさんのこと覚えてる?」
紫乃舞は首を傾げた。
「うーん。会ったのは幼稚園の頃だったもんなあ。おじさんの名前はね、阿村。四番目の子供だから……」
ニコニコして彼は言った。
「阿村与四郎」
「っ!!」
紫乃舞は息を飲んだ。
一から五まで。全てが揃った。
***
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。
気が狂いそうだった。怖くて怖くて家から出られない。
三沙都は自宅のダイニングキッチンにいた。家族は家にいない。本当は父がいるはずだったのだが、仕事が入ってしまった。
「早く、帰ってこないかな……」
見晴らしの良いところに座り、妹の帰りを待つ。
……一人は、嫌だった。まるで世界に自分しかいないようで。
トントントントントン……。
誰もいないキッチンから、何かを切る音が聞こえる。
「どう、しよう……」
何もないかも。でも、もし何かがいたら。
散々迷って紫乃舞にメールを送った。
「よし……」
決心はついた。キッチンへ向かう。
なんの異変もないキッチン。
「何もないじゃん……」
ため息をついた。その時。
ぶづっ。
足に激痛が走った。
「ゔ…………ぐぁ…………っ!」
振り向くと、血のついた包丁を持った子どもが立っている。
クスクスクス……。
子どもが笑う。
足から血が出て止まらない。
子どもが足に手を伸ばし、引っ張ろうとする。
「いやっ…………! やめっ…………」
ぶちっ。
「いやぁああああああああああああ……!!」
足はもう、身体とくっついてはいなかった。
千切れたところから血が噴き出す。
ちらちらと見えている白いものは骨だろうか?
ぶづっ。
もう一方の足も刺される。痛みはもう、感じなかった。
「あはっ……あははっ……」
乾いた笑みが浮かぶ。
ぶちっ。
さっきより強く引っ張られた。たくさんの血管が切れた音がした。
「くっ…………あ……ははっ…………は………………っ」
閉じていく瞳。
薄れゆく意識の中で、キッチン汚しちゃったなぁ……、とだけ考えていた。
クスクスクスクスクスクス……。
***
三沙都が死んだ。
『死ぬかもしれない』とだけメールを遺して。
死体は切り刻まれ、冷凍庫に詰め込まれていた。
もう、誰一人『呪いのわらべ唄』を信じない人はいない。……紫乃舞さえも。
教室は無言に包まれた。生徒も、先生も、無言。
なぜならもうすぐ死ぬであろう紫乃舞がいたから。
明らかな特別扱いに紫乃舞は気づかなかった。
ーー与四郎に死が近づいていることを伝えなければならない。
心が、痛かった。
続