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わらべ唄  作者: 照月雫
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第二話

「今日からクラスの仲間になる篝さんだ」

一哉が死んでから三日。まだ三日なのに皆いつもの生活に戻っている。ずっと涙を流していた先生も、転入生を見てニコニコしている。


怖い。


人の死がーーそれもクラスの一人が死んだというのにーー何も無かったかのように日々が過ぎていく。それに疑問を感じない人に恐怖を覚える。

「篝アニアです。アメリカと日本のハーフです。アニアは、こういう字です」


逢二亜


「…………!」

隣で三沙都が息を呑んだのがわかった。

「“二”だ……」

誰が呟く。

紫乃舞は黙っていた。

三沙都は小さく震えていた。



* * *



「はぁ……」

今日は新しい学校へ行った。新しい学校で新しい生活。今までとは全く違う日常がスタートする、はずだった。

『逢二亜』

黒板にそう書いた瞬間、空気が変わった。

『“二”だ……』

誰かの呟き。それが気になって先生を問い詰めた。

『実は……三日前、月影一哉というクラスメイトが亡くなってね……。ちょうど『呪いのわらべ唄』っていう噂が流れていたから騒ぎになってしまったんだよ』

でも気にすることないよ、と笑って言う先生のことを思い出す。

「呪い、か……」

“一”から“五”の数が名前についていると、順に死んでいく。

怖くないと言えば嘘になる。しかし、こんな噂はどこにでもある。信じることはない。


トントン


思考に沈んでいると、突然窓を叩く音がした。こんな時間に、と思いながらも逢二亜は窓に近づく。そしてカーテンを開けようとして、ふと動きを止めた。

逢二亜の部屋は三階だったのだ。

人が叩けるわけがない……。


トントントン


見るか、見ないか。

見ない方がいいとは思う。でもいっそ、見て何も無いことを確認した方が……。

「よし」

思い切ってカーテンを開ける。

目の前には鳥の羽の塊。いや……。


身体、顔のいたるところに鳥の羽の生えた、子供がいた。


「……………………!!」

子供と目が合った。

羽のせいで見えないはずなのに、その子が笑ったのがわかった。

身体が、固まる。


クスクスクス……。お姉ちゃん、来てよ……。


「……ゃ…………!!」

必死で足を後ろに動かす。バランスを崩し、倒れる。


クスクスクスクス……。おいでよ……。


子供が近づく。

手だと思われるところには尖った刃物。ナイフのような爪だった。

月の光で鈍く輝く爪が顔に近づく。

「……嫌っ…………だ、れか……」

真っ直ぐ右目に伸ばされる。

閉じたいのに、目は開いたまま。

「た………………助け……」


ぶつっ


「きゃあああああああああああ……!!」

右目に鈍い痛み。

しかし痛みはそれでは終わらない。

爪は眼窩を抉る。

「ゔあっ……ぐ…………っ!!」

熱いっ! 目が熱い!!

視界が赤く染まる。しかし、爪はさらにねじ込まれる。

「…………………………………………!!」


ごぼっ


何かが引き抜かれた。爪の感触が無くなると共に、目に空気が入る。

「!?」

無事な左目がそれを捉えた。


爪に刺さった自分の眼球。


もう、声さえ出なかった。

頭には恐怖しかない。


ぐさっ


次は左目に、さっきより深く刺される。

逢二亜は恐怖で後ろに下がった。

あったのは、別の窓。


ぶちゅっ


何かが潰れた音がした。鋭い痛みが走る。

無我夢中で逃げようと身を乗り出した。

「あっ………………!」

バランスを崩したその先に、星空が広がっていた。


クスクスクスクスクス…………


残ったのは暗闇だけだった。


* * *



朝、教室はざわついていた。

当たり前だ。転入生がやってきたその日に死んだのだから。それも『呪いのわらべ唄』を連想させるように。

「“一のつく人 寄っといで お空のお話聴いてたら 綺麗に染まった夜の道”」

月影一哉は交通事故。運転手によると上を向いて歩いていたらしい。道路は一哉の血て赤く染まっていた。

「“二のつく人 寄っといで 小鳥に連れられ空の旅 星に包まれ夢の中”」

転入生の篝逢二亜は自殺。自宅の部屋から飛び降りた。しかし遺書は見つかっておらず、両目も刃物のようなもので抉られていたそうだ。

紫乃舞の周りで“呪い”通りに人が死んでいく。

おそらく次に死ぬのは……。

「三沙都、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫…………」

三沙都は虚ろな瞳で言った。

「絶対大丈夫じゃないじゃん! 篝さんの話聞いてから、ずっとそんなんじゃん!」

「……」

次は“三”。“一” “二”と死んでいる。こうなるのは目に見えていた。

「ちょっと、紫乃舞も何か言ってよ」

「……私も“五”ついてるんだけど」

「…………」

沈黙。

その沈黙が皆の心を表していた。


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