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夢日記  作者: 森の小人
ドリファム編
38/160

リアルの金目鯛

貴子は通っているジムの最寄駅に立っていた。


貴子がブログを書いたあと、相互リンクしている伊藤の攻略ブログを読んでいる時だった。田中兄弟の1人、浩太郎からのメールを受信した。


『お弁当ありがとう。

弁当箱返したいんだけど。

ついでにご飯食べに行かない?』


という内容だった。

特に予定のない貴子は、まぁいいか、と思い「行く」と返事を送り、2人は駅に待ち合わせをした。


「お疲れ」

貴子が顔を上げると浩太郎が立っていた。

「あれ?1人?」

「そうだけど?」

「てっきりもう片方も一緒なのかと思ってた」

「あー…。不満?」

「別に」

「あっそ。とりあえず…行くか」

浩太郎は貴子の手を掴んで歩き出した。

「え?」

「こっちにオススメのお店があるんだよ」

引っ張られるまま歩くと道を曲がった先に小さなお店があった。

「ここ。ちょっと見た目古いけど、味は保証する」

中に入ると小さなお店はそこそこ賑わっている。

「いらっしゃい!お二人さん?」

「はい」

「今カウンターしか空いてないんだけど…いいかな」

カウンターの前に立っている板前らしき男が申し訳なさそうに聞いた。

「大丈夫です」

「悪いね。ではこちらに」

2人は案内されカウンターの席に座ると貴子はコートを脱ぎながら店内を見渡した。

壁や窓際に数十種類の地酒や焼酎の一升瓶が並んでいる。

「飲みたい銘柄でもあんの?」

「え!?いえ、別に…」

貴子は反射的に否定した。

「何?今更酒好き隠しても無駄だから」

「ぐっ…」

「ブログにも地酒飲みたいって書いてたし」

「ブログ見すぎ……」

「良いじゃん、減るもんでもねぇし。はい、何頼む?」

浩太郎は貴子に飲み物のメニューを渡した。

「んーー……」

貴子は一通り見回して、更にもう一度見回す。

飲みたい種類が多すぎて選べずにいると

「利き酒でもする?」

と浩太郎が笑いながら聞いた。

「え!?」

「選べないなら利き酒にすれば?」

「お客さん、決まりました?」

カウンター越しに板前の男が言った。

「じゃあ……利き酒でこれと、これと、これを…」

「はいよ!旦那さんは?」

「じゃあ、俺も利き酒でこれと、これ、それから…これで。あと、お冷を2つ貰えます?」

「かしこまりました」

板前の男は紙にメモをし、厨房の奥へと入っていった。


「はい。好きなもの注文して」

今度は食べ物のメニューを渡す。

「あ…ここって」

「基本的に魚がメインのとこ。他の居酒屋とかと違って新鮮で美味いんだよなー」

「へぇー」

「お、今日のオススメに金目鯛のお造りあんじゃん」

浩太郎が指を指したところには確かに金目鯛のお造りがオススメとして載っていたが、その値段を見て貴子は驚いた。

「え…金目鯛ってそんなに…?」

「でも、食べたかったんだろ?刺身で」

「いや…でも…」

「産地と大きさで値段も違ってくるしな。まぁ、この値段は妥当じゃね?」

「はい、お待ちどう様です」

板前の男がカウンターから注文していた酒をテーブルに置く。

「注文は決まりました?」

「あー、金目鯛のお造りをお願いします」

「え!?嘘」

「良いじゃん」

「金目鯛のお造りですね?」

「はい」

「かしこまりました」

板前の男はまた厨房に戻った。

「金目鯛はさすがに高いって!!」

「食べたい物を食べる、これが一番体に良いんだよ」

「え…でも…」

「俺も食べたかったし。よし、乾杯するか」

「…うん」

「乾杯!」

「…乾杯…」


「あ、そういえば弁当箱」

「ああ、うん」

「う、美味かった。ご馳走様」

「…………」

「何?」

「…なんか、いつもと態度違うから…」

「……まぁ、俺は基本的にこんな感じだけど?」

「ふーん」

「佑太といる時はあいつに合わせる感じ」

「合わせなくて良いし」

「ふっ。ドSキャラの俺も悪くないだろ」

「えーー。ない」

「あっそ」

少しだけ沈黙が続いた。


「あのさ」

浩太郎が酒を一口飲んで話し始めた。

「ん?」

「今付き合ってる彼氏とかいんの?」

「いや、居ないけど」

「ふーん」

「何?馬鹿にしてる?」

「してねぇよ。俺も彼女居ねぇし」

「ふーん」

「歳も歳だし、結婚も考えないとって感じ」

「今いくつ?」

「ドMちゃんと同い年」

「え!?」

「ちなみに佑太は一個下」

「え!?双子じゃないの!?」

「それはドリファムの中だけ。ま、誕生日は同じだけど」

確かに顔はそっくりだが、見分けられない程でもない。

「へぇーーーーー」

「30近くなると、結婚しろってうるさくてさ。ドMちゃんは言われない?」

「言われるよ、そりゃあ。女だし、孫が見たいとか、しつこいくらいに」

「だろうな」

「おじいちゃんもおばあちゃんも居るから、ひ孫見たいとも言われるよ」

「ふーん」

「結婚なんてそんな簡単なもんじゃないよね」

「じゃあさ」

「ん?」

「俺と結婚前提のお付き合いしない?」

「え?」


「金目鯛のお造りお待たせ!」


板前の男が今度は貴子たちの後ろから丁寧に皿をテーブルに置く。

「うわぁ……♡」

艶やかな刺身に貴子は思わず声を出した。

「…食べるか」

「うん!!」

貴子は念願の生の金目鯛を食べると顔がにやけた。

「美味いだろ?」

「うん!」

「だろ?」

「うん!」

貴子は嬉しそうに食べる。

「煮付けにしても良いし、干物もアリだよな」

「干物!良いね!大人の味って感じ」

「そうか?」

「うん。お酒とクイっと」

「おっさんかよ」

「はははは」

「つーか俺さ、出身が北海道なんだよ」

「へー」

「親が漁師やってんだよ」

「へーー」

「その影響か魚にはうるさいんだよな」

「ふーん」

「人の話聞いてる?」

「うん、うん」

明らかに貴子は金目鯛のことで頭がいっぱいだった。

「親には漁師になれって言われてんだよ、俺」

「漁師か…」

「漁師って大変なくせに儲からねぇから、継ぐ気はねぇって言って上京したけど、趣味で釣りするのは好きなんだよな」

「ふーん」

「ドリファムでも釣りやってたらハマって、気づいたら称号を貰ってた感じ」

「なるほど」


「そういえば、ブログでスノボーしたいって書いてたよな?」

「ん?うん」

「じゃあさ、今度2人で北海道行く?」

「はい?」

「俺の友達がゲレンデの近くでペンション経営やってっから、安く泊まれるし」

「へぇ、いいなー」

「だろ?」

「でも2人では無いでしょ。せめて礼さんたちも誘うとかさ」

「えー。そしたらドMちゃんを苛める時間が減るじゃん」

「減っていいよ。むしろ無くていい」

「なんだよー。つれないねぇ」

「残念ながら、私は魚じゃないから」

「え?ぷ。上手い!」

「てか、食べないの?」

「食べるよ」

貴子は刺身を半分以上食べてから箸を止めた。

「でも…北海道良いね。みんなで日にち合わせて行こうよ!!」

「いや、2人で」

「組合のオフ会的な感じで!」

「てか、その組合ってなんなわけ?」

「え?」

「組合ってグループのことだろ?」

「ああ。組合の方が牧場主っぽいじゃん」

「…そう?」

「うん」

「ふーん」

「でも、オフ会するとなると…」

「ん?」

「こーへいさん…」

「あー…、ドMちゃんを振った人?」

「振ってない。てか告白してもないから!」

「あっそ」

「そうです!」

「まぁ、気まずいなら誘わなきゃいいだろ?現に前のオフ会にもその人と緑って人居なかったし」

「うーん」

「この際仕事休んで気分転換しろよ」

「…そこなんだよねー。休めればいいけど」

「そこはなんとかして」

「土日に被せれば良くない?礼さんたちも土日休みだし」

「俺に休みを取れと?」

「それはご自由に」

「…ドMちゃん、冷たいねぇ」

「そう?」

貴子はクイっと酒を飲みきる。

「また何か頼む?」

浩太郎は空になったグラスをカウンター越しに板前の男に渡した。

「うーん、軽く酔ったから、とりあえず休憩…」

「早いな」

「そっちこそ、あんまり飲んでないじゃん。お兄さん、ウーロン茶下さい」

「はいよーー!」

貴子は明らかに老いた板前の男に注文すると、男は嬉しそうに返事して厨房に戻った。


浩太郎は椅子を座り直し、体を貴子の方に向けた。

「てかさー」

「何?」

「まぢで俺と付き合う気ない?」

「ない」

「即答ですかい」

「うん。だって元カレに似てるんだもん」

「うわ、出た!一番言われたくないんだけど、そういうの」

「へへへ」

「ウーロン茶お待ち!」

「ありがとうございます」

「とりあえず聞くわ。どこが似てるわけ?」

「んー、顔のジャンルとか?」

「何だそれ」

「実はさ、元カレってDV気質あってさ」

「は!?まぢ?てか俺がDVしそうってこと?」

「最初は凄く優しくてさ、気を遣ってくれる大人な人だったんだよねー」

「シカトか。で?付き合ったらいきなり変わったって感じ?」

「付き合って少ししてからかな?いきなりキレて…。まぁ、私の場合はすぐに別れたからトラウマみたいなのは無いんだけどね」

「別れられたんだ?」

「うん。というより転勤でどっかに引っ越してそれっきり」

「まだ引きずってる感じ?」

「んー…どうかな?前はよく夢に出てきたけど、ドリファム始めてからは夢見ないし」

「そっか」

「そ」

そしてまた沈黙が続いた。


「あれ?今何時だろ?」

貴子は持っていたバッグから携帯を探す。

「え?えっと、9時だけど?」

「もうそんな時間!」

「何?予定あんの?」

「うん、ドリファムに行く!」

「それか。けどまだ時間あるじゃん」

「まぁね。ちなみにそっちは…」

「その呼び方変えない?」

「え?じゃあ何がいい?」

「普通に浩太郎でいいよ」

「そ?じゃあ浩太郎さんね」

「うん」

「浩太郎さんはどういう人が好みなわけ?」

「俺は、家庭的な人」

「ふーん」

「ドMちゃんは料理作れるし、家事一般こなせるみたいだし」

「平日は母親に頼りきりだけどね」

「たまに掃除しに来いよ」

「えー」

「何だよ」

「そうだなぁ、一回につき1万円!」

「高えよ!」

「えへ。てか、もう片方と一緒に住んでるの?」

「まぁな。ちなみに駅近の2LDK」

「何?自慢?」

「違うから」




…金目鯛食べたい。

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