リアルの勝負! 後編
「うーん…、まだまだぁ」
「わんちゃん、もうみんな帰ったよ」
「ん?」
「さすがにあの兄弟も疲れて寝てたし」
近江が携帯で時間を確認すると2時を過ぎた頃だった。
貴子と田中兄弟は、焼酎を誰が一番早く飲み終えられるかという勝負をしていた。
しかし貴子は半分を飲んだ辺りから記憶が曖昧になっている。
「これからどーする?歌う?」
浅田と伊藤は勝負を見届ける前に帰ってしまい、阿久津はバイトの急用で呼び出され、田中兄弟は焼酎を飲み干して少し眠った後にフラフラしながらもタクシーで帰り、今はカラオケの部屋に貴子と近江が残されている。
「んー、少し休憩!」
そう言って貴子は近江の肩に寄りかかった。
「阿久津に見られたら殴られるだろうなぁ…」
「ん?」
「てか、わんちゃんって、言うほどお酒強くないよね」
「どういう意味よ!?私飲めるもん!」
「私、酒豪なんだから、とか言っておいてボトル半分で酔うんだもん」
「んー、そうだっけ?」
「阿久津可哀想だったなー。わんちゃんに遊んでもらえなくて」
「犬じゃあるまいし〜。あははは」
「そういえば阿久津と話した?」
「何を?」
「阿久津のこと」
「ううん。何?」
「阿久津って、俺が言うのも変だけど、カッコいいじゃん?」
「大ちゃん、やっぱりゲ」
「ゲイじゃねぇ。ほら、身長高いし、顔は整っててモデルみたいだし。大学でもかなり有名で凄くモテてるんだよ」
「へー」
「高校の時は彼女居たらしいんだけどさー」
「ん?」
「まー、しつこいっていうか、やりすぎっていうか」
「どういう意味?」
「阿久津の友達が言うには、阿久津が彼女に連絡しまくったり、暇さえあれば彼女の家に押しかけたり。軽くストーカーみたいな感じだったらしい」
「あららー」
「そのせいで彼女にはウザい、気持ち悪い、とか色々言われてさ」
「…確かに彼女からみたら気持ち悪いかもねー」
「高校の時にそれを数回体験したせいで性格が歪んだみたいで、大学入ってからは逆に、告ってきた女子に暴言吐いたり、軽く暴力振るったりしてた時もあったんだよ」
「…?暴力?」
「警察沙汰になったこともあったし」
「嘘だーーー」
「本当だって。それからは大人しくなったけど、女不信みたいな感じだったんだよね」
「ふーん」
「あいつ、たまにわんちゃんに変なことするけど、許してあげて?」
「大ちゃんは良い子だねー」
貴子が近江の頭を激しく撫でる。
「損な役回りだけどね」
「ん?」
「俺が今わんちゃんにキスしたらどうする?」
「君さ、そういう質問好きだよねー」
「良いじゃん」
「私の反応見て面白がってるでしょ?」
「まぁね」
「……その前に…お手洗い…っ」
貴子は上手く歩けず、床に膝をついた。思わず近江は貴子の腕を掴む。
「大丈夫?」
「はは。格好悪……。ゴメン、平気…」
そう言いながら床に座り込む。
「あれ?お手洗い行かないの?」
「行くよ…後で」
「わんちゃん、相当酔っ払ってるね。ホテル行く?」
「ぶっ、アフォか」
貴子はケラケラと笑いだした。
「嫌?」
「何?大ちゃんは私のセレブになりたいわけ?」
「セレブ?セフレじゃなくて?」
「そう、それそれ」
「さぁ?」
「さぁ?じゃないでしょ」
「行くの?行かないの?」
「……あのね」
「何?」
「アフォー!」
貴子は近江にチョップする。
「いてっ」
「帰るっ」
「タクシーで?」
「電車で」
「始発まであと2時間あるよ?」
「………じゃあ、飲む」
「まだ飲む気?」
「うん。水」
「あー、水ね」
「大ちゃんはさ、好きな子いるの?」
「何、急に」
「なんとなく」
「んー、居るっちゃ居る」
「何それ」
「気になる人…みたいな?」
「大学に?」
「ううん。ドリファムで知り合った子」
「へー。良いね!恋バナ良いね!」
「そこテンション上がるとこ?」
「うん、うん。酔っ払ってるから何でもアリなの!」
「そういうもん?」
「てかさ」
「何?」
「吐きそう…」
「え?え!?」




