リアルの勝負! 前編
ー都内の某カラオケ店で、犬塚貴子、近江真司、阿久津拓真、伊藤礼、浅田百合、そして田中佑太郎、田中浩太郎が5人用部屋に案内され、窮屈そうにソファに座っている。
「なんでカラオケ?」
「しかも狭いし」
「週末の夜は混んでるから仕方ないよねー」
「ドMちゃんが床に座わればマシになるんだけどねー」
「はい!?貴方たち兄弟で床に座ったら良いんじゃないんですか?」
「わん汰、俺の膝に座らせてあげようか?」
「遠慮する」
仕方なく貴子は店員に予備の椅子を持ってきてもらいそこに移る。その時貴子の膝が震えているのが見え、佑太郎と浩太郎が嬉しそうに笑った。
「わんちゃん、今日のトレーニング大変そうだったね」
浅田が貴子を見て言った。
「はぁ…まぁ…」
佑太郎と浩太郎は増す増す嬉しそうだ。
「俺は余裕だったけど」
「俺も」
近江と阿久津は自慢気に言った。
「2人は習慣的に鍛えてるでしょ!」
「まぁね」
「礼もなかなか鍛えてるよな」
「まぁ。毎日仕事でほとんど動かないから、家で筋トレを少し。でも2人が働いてるならジム通うのもいいかなって思って」
「ウチは良いよー。マシンもそこそこ種類あるし、なんせ俺らが居るから」
「…うざっ」
「ん?ドMちゃん、何か言った?」
「いいえ、別に」
貴子は飲み物を飲んで誤魔化した。
「そう言えば、相談ってなんですか?」
貴子は礼に尋ねる。
「え?ああ…。この前のオフ会なんだけど、小林さんって覚えてる?」
貴子と近江、阿久津が顔を合わせた。
「は?誰?」
「先週の金曜日のオフ会に参加した人。2人は仕事で行けなかったやつ」
「ああ」
「その時いた小林って人、明らかに可笑しいんだよね。見た目も20代には見えないし」
「それ、俺も思った」
「私も」
「え?わん汰も?俺も何となく思ってた」
「だよね!オフ会の一次会の時は話す機会なくて、まぁ、二次会でカラオケに行って小林さんが俺の横に座ったんだよね。そこまでは良かったんだけど、その後すごい密着して座ってきたかと思ったら…俺の股間を触り始めて…」
「え!?」
「まぢで!?」
「うそっ!?」
「ドMちゃん、興奮してんの?」
「してない」
「それで?」
「その時部屋が暗かったしお酒も飲んでたから、周りの人たちは全く気付かなくて。とりあえず手を退けたんだけど、今度は耳を軽くかじってきて…それからしつこく連絡先交換しろって言ってきてさ。もうその時点で怖かった…」
「私も歌うのに夢中で全然気づかなかったのよねぇ」
「耳かじるって…」
「ドMちゃん、されるの好きでしょ?」
「な!?好きじゃない!」
「それで?」
「で、仕方なく連絡先教えたんだけど、それから毎日のようにメールと電話が来るようになって。デートしようだの、ホテル行こうだの…もう軽くノイローゼ。着信拒否したら今度はドリファムでストーカーされて」
「え?小林さんにドリファムの名前教えたの?」
「いや。たぶん幹事やってた白井に聞いたんだと思う。いつもオフ会の募集で広場に居るみたいだし。いつの間にか小林さんは知らないフリしてグループに入って、入った後に自分が小林だって言ってきてようやく気付いたんだよ。グループのメンバーにも色々聞いてはホテルに誘ってるらしくて…一部のメンバーはそのせいでドリファム辞めたし」
「うわぁ…悲惨」
「歳偽って年下の男をつけ回すとか怖すぎ」
「なんか面倒くせーな、そいつ。ねぇ?ドMちゃん」
「………」
「わん汰に絡むな」
「良いじゃん、ドMちゃんが喜んでるんだから」
「喜んでないし」
「てかドMちゃん歌いなよ」
「へ?」
「良いねー。ドMちゃん歌ってー」
「え?俺の話は…?」
「つーかさ、そのグループ抜ければいいんじゃね?」
「え!?せっかく資金貯めたのに?」
「金なんてすぐ貯まるって」
「だけど…」
「うちのグループに入ります?資金少ないけど」
と近江が言った。
「いくら?」
「24000Gくらい」
「少なっ。俺の所持金と大差ねぇし」
「え!?」
「どんだけ金持ちなんすか!」
「レベル60行ったら欲しいものなんか無くなるから簡単に貯まるぜ」
「さすが、師匠!」
「いつ釣り馬鹿ツインズが師匠になったわけ…?」
「今。インストラクターとしての」
「ドMちゃんはその呼び方好きだねぇ」
「逆に虐められたい感が出てて萌える」
「………」
貴子は座っていた椅子を田中兄弟から離して座り直した。
「つか、グループの資金って必要なわけ?」
「今のところ使い道ないけど、絶対そのうち何かしら遣うことがあると思うんだよね。エルフ谷のギルドみたいに」
「あーあ、金遣ってギルド強化するやつか」
「でも戦わないドリファムじゃそれはないっしょ。グループってさ、フレ登録出来なかった時はそこそこ役に立ってたけど、今となっては意味なくね?」
「だからこそ、そのうち何かしら新しい機能が追加されると思うわけ」
「ふーん、どうでもいいや」
「え?佑太興味ねぇの?」
「え?お前興味あんの?」
「あるよ。この際ドMちゃんのグループ入ろうかな」
「え!?絶対嫌だ!全力で拒否!」
「俺もわん汰に一票!」
「楽しそうじゃん。俺は浩さんの参加オッケーだけど」
「だめ!絶対だめ!」
「なんで?お金もあるし、ドリファムも詳しいし。しかもインストラクターだし」
「最後の関係ないでしょ」
「やっぱりお前、ゲイだろ?」
「ゲイじゃねぇよ」
「浩太が入るなら俺も入る」
「全力で拒否!!!」
「わん汰に一票」
「佑さんも大歓迎」
「ちょっと、大ちゃん。本気?」
「なんでダメなん?」
「だって、釣り馬鹿ツインズだよ?」
「良いじゃん、良いじゃん」
「レベル違い過ぎるし」
「わんちゃんがレベル10まで行って上に引っ越せばすぐに追いつくって!」
「無茶苦茶な…」
「ドMちゃん、そんなに俺たちに入って欲しくないわけ?」
「そこまで嫌がられると、増す増す入りたくなるんだけど?」
「変態ドS兄弟…」
「ドMに変態って言われると興奮するかも」
「……、もう!本当に勘弁してよぉ」
「やっぱり、わんちゃんってMっ気あるよね」
「ドMちゃんは素質がある。保証する」
「保証されたくない」
「礼さんはどうしますか?」
「んー…、2人が入るなら入ろうかな」
「礼たんが入るなら私も!」
「おー!これでうちのグループも賑やかになるぞー!」
「…最悪だわ……」
「新入生歓迎会ーー!今夜はパァと飲み明かしましょう!」
礼と百合、そして田中兄弟、近江はグラスを合わせて
「「「乾杯ーーー」」」
と言った。
向かいに座っていた浩太郎はグラスを持たない貴子の手を取って無理やり乾杯した。
「これから宜しくね、ドMちゃん」
浩太郎はニヤニヤと笑っている。
すると貴子は浩太郎が飲んでいた焼酎の入ったグラスを奪い、一気に飲み干して浩太郎を睨んだ。
「お、ドMちゃんイケる口だねぇ」
「私、絶対負けない!」
「何?俺らと勝負する?」
「…望むところよ」
「え?わんちゃん…?」
佑太郎が焼酎のボトルを3本追加する。
「私が勝ったら、グループに入れないからね?」
「オッケー」
「でも、このお酒は…ドS兄弟の支払いだから」
「「え?」」




