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夢日記  作者: 森の小人
恋愛編
149/160

《season2》リアルの運命の人2

9時を過ぎた頃、航平からの連絡を受けて貴子は家の前に停まっている航平の車に乗り込み、2人は航平の家へと向かった。



貴子は家に着いて、ソファに座った。すると航平は

「わんちゃん、良い匂いする」

と言って貴子の首元に顔を近づける。

「………/// これ、この前こーへいさんに頂いたフレグランスで…」

「そうなんだ」

航平の息が首にかかり、くすぐったく感じる。その反応を面白がっているのか、航平は笑った。

「俺、シャワー浴びてくるからゆっくりしてて」

「分かりました」

航平は風呂場に消えると貴子は深呼吸する。激しく鳴る鼓動を抑えるため、携帯を取り出してドリームファームのサイトを開く。

しかし、文の内容が一切頭に入ってこない。それどころか航平のことばかり考えてしまう。

「ふぅ…」

貴子はテーブルに置かれている袋から飲み物を取り出した。それは航平の家に来る前にコンビニで買ってきたものだった。

それを飲みながら鞄から鏡を取り出し、何度もチェックする。

「…変なの」

ただ家に来ただけなのに、変に緊張してしまう自分の顔が可笑しくて少し笑った。


10分ほど経った頃に航平はリビングに戻ってきた。

(髪が少し濡れていている感じがヤバい…)

貴子は顔が熱くなるのを感じて航平から視線を逸らす。

「わんちゃん、ワイン飲める?」

「はい」

「良かった。退職する時に貰ったのがあるんだ。一緒に飲もう」

航平は棚からワインを取り出して貴子に見せる。

「それ、私が飲んでも良いんですか…?」

ワインには詳しくないが、いかにも高そうなワインだな、と貴子は思った。

「うん。わんちゃんが居た部署の人に貰ったんだ。わんちゃんと一緒に飲んでって」

「え!?何で私が出てくるんですか」

「浮気男探しの時に前田さんに会って、たぶんその時に誤解されたんだと思う。それが部署内で噂になってたのかも」

「……そうなんですか…」

「ずっとこのワインどうしようかと思ってたんだけど、機会があって良かったよ」

航平は貴子の横に座ってグラスとワインをテーブルに置く。航平からはシトラス系の香水の匂いがした。

「あ、私が注ぎます!」

貴子は立ち上がりグラスにワインを注ぐと、航平から少し離れて座り直した。

「………なんで離れて座るの?」

「……その方が…良いかなと思って…」

「緊張してる?」

「少し…」

「そっか。仕方ないね。じゃあ…このままで。乾杯」

「乾杯」

グラスとグラスが触れてチンと音が鳴った。

ワインを一口飲んで赤ワイン独特の渋みに

(大人の味だな…)

と貴子は思った。


グラス一杯飲み切ると、貴子は少し顔を赤くしながら航平を見つめた。

「あの…」

「ん?」

航平は貴子のグラスにワインを注いでから貴子を見つめ返す。

「ずっと…気になってたことがあるんですけど…」

「何?」

「その……」

「ん?」

「……何で、私に声をかけてくれたんですか?」

「いつ?」

「ドリファムで初めて会った時」

航平はゆっくりとグラスをテーブルに置いた。


「……ずっと言おうと思ってて言えなかった…」

「?」

「俺…ずっと前からわんちゃんを知ってたんだよ」

「どういう意味…ですか」

「…正確に言えば、わんちゃんがドリファムを始める前から、犬塚貴子じゃなく、わん汰を知ってた」

「それって…」

「わんちゃんのブログ読んでた」


「……………」


貴子は目を泳がせ、震える手でグラスを持って一気にワインを飲み干した。

「ドリファムで声をかけた次の日にコメントしようとしたんだけど…、俺のことが書いてあって言い出しにくくなって…」

貴子は自分でワインを注ぎ、また一気に飲み干す。

ワインのせいか、恥ずかしさからか、貴子の顔が真っ赤になる。

「フェアじゃないよね…。ごめん」

「……ははは。恥ずかしいですね。あんな内容見られてたなんて…」

「俺はわんちゃんの書くブログが好きだったよ。ドリファム始める前はあんまりコメント多くなくて、たまに俺が書き込んだりして」

「嘘…」

「匿名でコメントしてたから分かんないと思うけど」

「…………」

「俺はグループの誰よりもわんちゃんを知ってる。好きな色、好きな食べ物、好きな花も。それにみんなより先にわんちゃんを好きになった」

貴子の目からは涙が溢れる。

「わんちゃん…本当にごめん」

「…違うんです…」

貴子は雑に涙を拭った。

「悲しいとか怒ってるとかじゃないんです。涙が勝手に…」

ワインをまた注ごうとすると、航平がその手を掴んでそのまま引き寄せた。

「あまり見ないで下さい…。化粧が崩れて変な顔になっ」

「わんちゃんは十分可愛いよ」

「…そんなことないです」

「わんちゃん、俺を見て」

貴子は航平の顔を見ると、いつも見上げていた顔が同じ高さに見えた。


「こーへいさん…」


名前を口しただけで涙が益々溢れ出す。

「…好きです…。好きすぎて…ツラかった…」

「…俺も。コウさんと付き合ったって知った時、発狂しそうだったよ」

2人の顔は少しずつ近づき、鼻同士が先に触れ、そして唇が触れた。



2人を阻む物は何1つ無くなり、激しくお互いを求め合う。


日が昇り空が明るくなってようやく眠りについた。






昼になり2人は目を覚ます。


「おはよ」

「お、おはようございます…」

「もう敬語止めたら?」

「…努力します」

航平は貴子の鼻にキスをしてからベッドから起き上がり服を羽織った。

「朝ご飯の準備するね」

「じゃあ、私も…」

「わんちゃんはシャワー浴びてきていいよ」

「でも…」

「大丈夫。料理は得意なんだ」

「…分かりました…」



熱めのシャワーを浴びてやっと実感する。

(夢じゃない…)

貴子は1人でニヤニヤしていた。



朝ご飯という昼食を済ませると、航平もシャワーを浴びて支度をする。貴子は家に、航平は仕事に向かう為車に乗った。


「少し遅くなつちゃったね。ご両親心配してないかな?」

「連絡は入れたので大丈夫です」

「ワンタン達は大丈夫?」

「はい。今日はお爺ちゃん達の病院の日で、お母さんが休みなので」

「そっか」

「はい」

「今度、正式に挨拶しに行かないと」

「…はい」

「怒られるかな?」

「たぶん、泣いて喜ぶと思います」

「はは。だと良いな」


車は貴子の家に着き、

「ありがとうございます。お仕事頑張って下さい」

「うん。…またね」

名残惜しく別れた。



「ただいまー」

貴子は家に入ると、家は静まり返っていた。

「?」

今頃なら祖父母の病院から帰ってきているはずなのに家には誰も居ない。

仕方なく部屋に行くと、貴子は変わり果てた自分の部屋を目の当たりにした。


「な…、何これ…」


クローゼットは開けっぱなしになり、その中にあった服などがごっそり消えている。空き巣にでも入られたかと思い、一美の部屋や親の寝室を覗いて見るが、特に変わった様子はない。

「どういうこと?」

貴子は急いで母親の携帯に電話をかけた。


『もしもーし』

「もしもし?今どこ!?」

『ふふふ』

母親は不気味に笑った。

「部屋から荷物無くなってるんだけど」

『感謝してよね〜』

「へ?」

『もうあっちの家に荷物届くはずよ』

「何の話?」

『昨日、貴子が出かけてから荷物まとめて、今日の朝、浩太郎さんの家に届けてもらうようにしたの』

「はぁ!?」

『早く同棲して、お互いを良く知りなさい』

「ちょっと待って!私、浩太郎」

『しばらくは私がワンタン達の面倒見るから。あんたは家に帰って来なくていいから』

「いや、そうじゃ」

『今忙しいの。じゃあね』

母親は一方的に電話を切った。


「何やってんのーーー!」


貴子は鞄を置いて田中兄弟の住むマンションに向かって全力で走った。


浩太郎の部屋に着くと、佑太郎が何くわぬ顔で貴子を迎い入れた。

「どうしたんだよ?浩太なら仕事で居ねぇぞ?」

「知ってる。ねぇ、私の荷物来てる?」

「え?ああ。もう浩太の部屋に運んでやったぜ。まさか同棲するとはな。俺の許可」

「これは親が勘違いして勝手にやっただけ!」

「勘違い?」

「浩太郎さんから聞いてない?」

「何を?」

「…私たち、別れたの」

「は!?いつ!?」

「昨日の夜」

「まぢかよ!?…俺が帰ってきたのは朝で浩太に会ってなかったからな…」

「百合さんと会ってたとか?」

「ばっ…お前なんで」

「浩太郎さんに聞いた」

「…………はぁ。まぁ、そういう事だ」

「そんな事はどうでもいいや!早く荷物を戻さないと…」

貴子が浩太郎の部屋に行くとダンボールが5つほど積んであった。

「……本当!何考えてるのよ…」

貴子はダンボールを抱えて玄関に向かう。

「手伝うか?」

「んー…、平気。私のせいだから1人でやるよ。ありがとう」

そう言ってダンボールを抱えて、片道15分程の道を小走りで駆けた。


途中で

「貴子さん、何やってんの?」

とガソリンスタンドの従業員に声を掛けられる。

「んー、トレーニング、かな」

そう言って家まで走った。


鍵を使ってドアを開けようとしたがチェーンが掛けられていて、開けることが出来なかった。

「は!?中に入れないつもり!?ちょっと!開けてよ!」

ドアを少し開けたまま家の中に叫ぶ。すると母親が玄関にやってきた。

「結婚の報告以外受け入れられない」

「私、浩太郎さんと別れたの!」

「いい機会ね。やり直して来なさい」

「無理言わないでよ!ねぇ!開けてってば!」

「しつこい。警察呼ぶわよ」

「私もここの住居者なんですけど!?」

「もう違うわ。さっさとあっちの家に戻りなさい」

母親は家のドアを閉めて鍵をかけた。

(…何なのよ…)


仕方なくダンボールを抱えながら来た道を戻る。


「貴子さん、何やってんの?」

ガソリンスタンドの前を通ると、違う従業員に声を掛けられる。

貴子は苦笑いだけして、トボトボと佑太郎の居る家に戻った。


「何しに行ったんだよ」

「仕方ないでしょ!お母さんに締め出されたんだから」

「お前ん家の家族ってマヂでウケるよな」

「笑えない…」

「で?どうすんだよ」

「どうしよう?…浩太郎さんに会うのも気まずいしなぁ…」

「そんなに酷い別れ方したのか?」

「そういう訳じゃないけど…」

「だから昨日ドリファムに来なかったのか?」

「ううん…、昨日は…」

「何ニヤけてんだよ」

「こーへいさん家に…泊まって…」

貴子はニヤニヤしてしまうのを堪えられず両手で顔を隠した。

「お前ら付き合うことになったのか?」

「…さぁ?」

「はぁ?」

「付き合う、付き合わない、とかそういう話はしてないから…」

「じゃあ、どういう話したんだよ」

「…………へへへ」

貴子は気持ち悪く笑う。

「…………。やっぱり答えなくていいや」

佑太郎は何となく察した。

「…とりあえず浩太にメール入れとくわ」

「うん」






夕方になると、浩太郎が血相を変えて家に帰ってきた。

「あ、お帰りー」

家では佑太郎と貴子がのんびり夕飯を食べている。

「何やってんの…?」

「ご飯食べてる…けど?心配しなくても浩太郎さんも分取っておいてあるよ」

「そういう問題じゃねぇよ!」

「今日の飯は浩太の大好物だぜ」

「聞いてねぇよ。つーか見れば分かるし」

「とりあえず、座れば?」

浩太郎は渋々椅子に座ると貴子が味噌汁とご飯を用意して浩太郎に手渡した。

「ありがと。つーか、荷物はどうなったんだよ」

「浩太の部屋に置いてある」

「は?」

「俺もお前らが別れたなんて知らなかったんだよ。親切心で部屋に運んでやったのに」

「ユウちゃんは優しいからね」

「う、うるせーよ」

「照れた?」

「照れてねーよ」

「で?どうすんだよ」

「さっきから家に電話してるんだけど無視されてて。で、一美に協力して貰おうかなって」

「あいつ家に帰ってねぇんだろ?」

「そうなんだよ。礼さん家に居候してるんだよ!不良娘なんだから。でも今は一美頼みなんだよね…」

「29にもなって親に締め出されるとかマヂでダセー」

「うるさい」

「一美は何て?」

「仕事終わったら連絡するって言ってたけど、まだ連絡来てない」

「そのままバックれんじゃねぇの?」

「それはない。恩を仇で返すような子じゃない」

「あっそ。だと良いな」

佑太郎は浩太郎の大好物であるエビフライを、貴子の皿から取る。

「人の取らないでよ」

「足りねぇんだよ。仕方ねぇだろ」

貴子はため息を吐いてから自分の皿を佑太郎に差し出した。

「何だよ」

「あげる」

「もう食わねぇの?」

「うん。いっぱい食べて大きくなりな」

「近所のババアかよ」

浩太郎はこのやり取りを見て、昨日の事が夢だったら良いのに、と思った。目の前に座る貴子はもう自分の彼女じゃない。

そんな事を思いながら最後かもしれない貴子の手料理を味わった。


それからしばらくすると、貴子の携帯が鳴る。発信者は自宅になっている。

「もしもし!?」

『貴子、もう戻ってきていいわよ』

声の主は母親だった。

「え?」

『私達、大きな誤解してたみたい…。今から荷物取りに行くけど、あんた、まだそこの家に居るの?』

「うん」

『そう。じゃあ、荷物下まで運んできてくれる?』

「分かった。じゃあね」


貴子は電話を切って

「やったーー!」

と叫んだ。

「は?誰からだよ」

「お母さん。帰ってきて良いって」

貴子は嬉しそうにスキップして浩太郎の部屋に向かった。

「今から荷物取りに来てくれるらしい」

そう言ってダンボールを抱える。

「手伝うよ」

浩太郎は他のダンボールを2つ抱えた。

「ありがとう」

「仕方ねぇな」

佑太郎もダンボールを2つ抱えて、3人はマンションの前まで運び出した。


下まで降りると、一台の車が停まっていて、その中から貴子の母親と航平が降りた。

「なんでこーへいさんが?」

「詳しい事情は航平さんから聞いたわ。さ、荷物はトランクに入れて」

浩太郎は無言で航平を睨み、航平はただ微笑み浩太郎を見る。

「わんちゃんを手伝ってくれてありがとう。じゃあ」

そう言って車に乗り込む。

「迷惑かけてごめんね!また後でね!」

貴子も母親と車に乗り、車は貴子の家に向かった。



家に着くなり、貴子と航平はダイニングテーブルに隣り合って座らせられ、父親と母親は正面に座る。両親は明らかにソワソワしている。

「こーへいさん…?」

航平は貴子を見て微笑む。

「スタンドで、わんちゃんがダンボール持って走り回ってるって噂になってて、その時わんちゃんのおばあちゃんとお母さんがスタンドに来て事情を聞いたんだよ」

「な、なるほど…」

「まさか、浩太郎さんと別れたのが航平さんと……、だったなんてねぇ?」

母親は太ももも激しく摩りながら父親を見た。

「はは。全くだ」

父親も手を震わせながら、湯のみを持ってお茶をゴクンと飲む。

「?」

「2人にはもう話して承諾してもらったんだ」

「何を?」

「結婚前提でのお付き合い」

「え……///」

「それと、俺がここに住むこと」

「………え!?!?」

「職場からも近いし、わんちゃんとも一緒に居られるし」

「でも…」

「それに、2人でお爺ちゃん達のお世話出来るでしょ?」

「………そうだけど…」

「わ、私達も最初は驚いたけど…、ねぇ?今は一美の部屋も空いてるし」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「大丈夫よ。一美にはもう許可取ってある」

「荷物は一美の部屋に置いて、貴子の部屋を寝室にしていいから」

(なに勝手に決めてんの………)



貴子は航平と部屋に行くと机や本棚などがなくなっていて、代わりに一美の部屋はすでに物置と化していた。

「荷物片付けるの手伝うよ」

「はい…」

「もしかして、怒ってる?」

「そういうわけじゃないですけど…、突然すぎて」

「そう?」

「そうです」

「とりあえず、座ろうか」


貴子と航平は貴子のベッドに腰掛けた。


「ごめんね。でも、こうするしかないと思ったんだよ。コウさんと同棲させる訳にはいかなかったし…かと言って俺の家だとわんちゃんにとっては不便だろうし」

「はい、分かってます…」

「ご両親には、半同棲っていうことにしてもらってるから」

「そうなんですか?」

「うん。俺がこっちに泊まったり、わんちゃんが俺の家に泊まったり。さすがにここじゃアレ出来ないし」

「アレ?」

航平は貴子の耳元で

「うん。わんちゃん、大きい声出ちゃうでしょ」

と呟いた。

「はっ……///」

航平は貴子の反応を見て笑う。

「大丈夫。ここでは変な事しないから安心して」

「もう!」

「今日は何にも用意してないから、荷物片付けたら帰るよ」

「…そうですか…」

「……寂しい?」

貴子は縦に首を振った。

「家に来る?と言いたいところだけど…」

「?」

「今日は体を休めて。わんちゃんが家に来たら、また激しくしちゃいそうだから」

「!!……///」

「さっ。片付けよっか」

「……はい」





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