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夢日記  作者: 森の小人
恋愛編
145/160

《season2》リアルの誕生日

貴子はブログの更新を終えてパソコンを閉じると、机に飾られたガラスのドームを見つめた。中にはプリザーブド加工されたオレンジ色のガーベラとカスミソウが咲いている。



それを見つめながら今日のことを思い出した。





時間は5月5日の夕方の出来事。


「わんちゃん」

貴子がバイトを終えて店から出ると仕事中の航平に声をかけられた。

「はい」

「明日…予定ある、かな?」

「え?」

「俺、明日休みだからさ」

「あー…。明日は午前中におじさんの手伝いがあるので」

「午後なら空いてる?」

貴子は考える。

(明日は一美が午前中に産婦人科に行って…午後には帰ってくるから犬の世話は任せられるけど………、2人っきりで出かけるのはマズイよね…)

そんな事を考えていると

「出来れば、わんちゃんのおばあちゃんも呼んで欲しいんだけど」

「え?おばあちゃん…?」

「うん。お弁当のお返しがしたくて」

と微笑んで貴子を見つめた。

「お、お弁当なんて大したもの作ってないですし、別に良いですよ!」

「でも手作りのお弁当、嬉しかったんだよ。…無理かな?」

貴子は航平の顔から視線をそらす。

「分かりました。おばあちゃんに聞いてみます」

「そっか!明日は俺も畑に行くから、その時までに返事くれる?」

「はい…」

「じゃあ、また明日!お疲れ様ー」

「お疲れ様です」

航平はまた仕事に戻っていき、貴子は家に向かって歩き出した。

(あんな顔されたら………。あれは反則でしょ!断れるわけないじゃん…)



そうして貴子は祖母に「明日はお出かけしよう」とだけ伝え、航平には『明日行ける』というメールを送った。




時間は進み、翌日の5月6日 午後。




「お待たせ」

航平は家の前に停めてある車のドアを開けて祖母に会釈をした。

「○▲□♣︎◎¥♯■」

「え?」

「おばあちゃん、助手席でも良いですか?」

「え?ああ、大丈夫だよ」

航平は急いで助手席のドアを開けた。

「○▲□♣︎◎¥♯■」

「え?」

「ありがとう、って言ってます」

「なるほど…。どういたしまして」

祖母を車に乗せると貴子は後部座席に乗り込む。

航平が車に乗り込むと何かのボタンを押し、すると車内に演歌が流れ始めた。

「え!?」

「はは。おばあちゃんは演歌が好きって言ってたら昨日の夜に取ったんだよ」

「そうなんですか…」

祖母は嬉しそうに鼻歌を歌っている。それを見た航平は微笑み、その姿を見た貴子も微笑んだ。

「じゃあ…出発します」




車でおよそ20分。

3人が着いたのは、前回貴子が航平と食事をしたホテルとは別のホテルだった。

「○▲□♣︎◎¥♯■(こんな所に初めて来た)」

「ね?すごいね」

「○▲□♣︎◎¥♯■(最初で最後かもしれない)」

「縁起でもない!」

「と、とりあえず…行こうか」

「はい」

中に入ると何人ものウエイターやウエイトレスが忙しそうに歩き回っていた。

航平が受付の人に話しかけるとすぐに席に案内される。


「わぁ……」

真っ白なシーツをシワなく敷いた丸いテーブルがいくつも並び、3人もその1つに座った。

入り口とは逆側にはズラリとケーキなどのデザートが所狭しと並べられている。

「ここ、ケーキの種類も豊富なんだけど、和菓子もたくさん置いてあるから」

「そうなんですか?良かったね、おばあちゃん」

「うーん」

祖母は強く頷いた。

「おばあちゃん、早く行こう!」

貴子は祖母の手を取り、デザートのある場所に向かった。


貴子が祖母の手伝いを終えて席に戻ると、すでに航平は先に席に戻っていた。

テーブルにはケーキの載った皿が5つ置いてあり、様々なケーキが8切れずつ皿に並べられている。

「やっぱり和菓子がお好きなんですね」

「○▲□♣︎◎¥♯■」

「和菓子以外は胃がもたれちゃうらしいです」

「そうなんですか」

「てか、こーへいさん…その皿」

(どうしよう…どこからツッコめばいいんだろ…)

「ああ。種類が多くて選べなくてさ」

「なるほど…」

(なんで45個も?1人で食べる気?てかいつの間に取ってきたんだろ?てかチョコ系のケーキ率高くない?……ああ、ツッコミたい…)

「一緒に食べよ?」

「あ、はい」



3人は2時間ほどかけてデザートを楽しみ、ホテルを後にした。



航平の車は貴子の家の前に停まった。

「ありがとうございました」

「こちらこそ、お弁当ありがとう」

「いえ」

「あ、そうだ…」

そう言って航平はコンソールボックスから一輪の赤いカーネーションを取り出して貴子の祖母に手渡した。

「あらま」

「母の日には2日早いけど」

「○▲□♣︎◎¥♯■」

「男性にお花を貰ったのは何十年ぶりかしら、って言ってます。おばあちゃん、良かったね」

祖母は顔を赤くして少し恥じらっているように見えた。

「喜んで貰えて良かった」


「わんちゃん」

貴子は祖母が車から降りるのを手伝った後に航平に声をかけられる。

「はい?」

「一回ここに座ってくれる?」

と助手席を指差した。

「……?……はい…」

「これ、わんちゃんに」

貴子は助手席に座ると航平から紙袋を受け取った。中には可愛らしい包みをしている箱と、ガラスのドームが入っていた。

「これって…?」

「明日、誕生日だったよね?」

「え……何で」

「部署にいた時に履歴書見たんだよ」

「え!?」

「え?」

「いえ…なんでも…」

(あんな変な顔の写真見られたんだ…)

「ガラスの、出してみて」

そう言われ、紙袋からガラスのドームを取り出と、ガラスの中にオレンジ色のガーベラが白いカスミソウに引き立てられるように咲き誇っている。

「……ガーベラ…」

「ピンク色の花言葉には感謝っていう意味もあったから悩んだんだけど、オレンジ色の方がわんちゃんっぽいなって思って」

「そう…ですか?」

「うん。いつも笑顔で周りの人を楽しませてくれる太陽みたいな感じ」

「はは…なんか褒められると照れくさいです…」

航平は笑って貴子の頭に触れた。貴子は驚いて体をビクッと震わせた。

「あ…ごめん…」

「……ぷ、プレゼントありがとうございます!凄く嬉しいです。そろそろ私、行かなきゃ」

ドアを開けて勢いよく車から降りて深々とお辞儀するとドアを閉めた。

航平は苦笑いしつつ、助手席の窓を開けて

「またね」

と言ってから車を出した。





そして、今に至る。


ドームと一緒に入っていた箱の中身は有名なブランドのハンカチと花のフレグランスだった。

「センス良すぎ…」

どれも全て自分の好きなものだった。

貴子は閉じたパソコンの上に顔を乗せて頭を抱える。

「二次元みたいには上手く行かないなぁ…」






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