表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢日記  作者: 森の小人
恋愛編
118/160

《season2》リアルのピクニック

「ふんふんふん」

貴子は鼻歌を歌いながら支度している。

弁当にオヤツ、犬の餌にオモチャ、そして子犬を入れたケージ。

「じゃあ行ってきまーす」

そう言って家を出ると浩太郎の住むマンションへ向かった。


「早くない?」

貴子の家に迎えに行くはずだった浩太郎は戸惑った。

「ははは。ごめん。楽しみで…」

「そっか。予定より早いけど、行く?」

「うん。…あれ?ユウちゃんは?」

「今シャワー浴びてるけど?」

「今日一緒に行かないの?」

「ああ。不満?」

「そういう訳じゃなくて…。てっきり一緒なのかと思ってお弁当3人分作ってきちゃった」

「ああ、そういうことか」

「無駄になるのも嫌だし、少し置いて行っていい?」

「ああ。今皿出す」

「うん、ありがとう」

2人が弁当箱からおかずを取り出していると、パンツ一丁姿の佑太郎がリビングにやってくる。

「うわっ」

「え?」

「お前…何やってんだよ!?」

佑太郎は慌てて手で下着を隠す。

「ん?お弁当作り過ぎたから置いていこうと思って。てか…」

貴子は佑太郎を見た。

「な、何だよ?」

「……寒くないの?その格好」

「は?べ、別に」

「ふーん」

貴子はまた下を向いておかずを皿に移した。

「こんなもんかな?」

「だな」

佑太郎は何も言わず部屋に入って行った。

「貴子って、ああいうの見ても気にしねぇの?」

「何が?」

「男の裸」

「別に。海外ドラマじゃ日常茶飯事だよ?」

「へぇ…」

「よし。行こ!」

「ああ」



車に乗り込み、貴子は驚いた。

「わぁ」

「何?」

「いい匂いする」

「だろ?」

「うん。センス良いね!」

「ネーミングセンスのない貴子に言われても微妙だけど…」

「失敬な」

浩太郎は笑ってから音楽をかけて車を出した。


♪〜♪♪〜♪♪〜♪〜〜♪♪〜♪〜♪( ´▽`)



車を走らせてから1時間弱。

2人はとある有名な公園に着いた。

「平日でも、それなりに人居るね」

「だな」

ボールで遊ぶ子供、キャッチボールをしている親子、ウォーキングしている老人など…忙しいとまではいかないが、賑やかなことは確かだ。

「天気もいいし、そんなに寒くないし。良い季節だね」

「だな」

「……さっきからそれしか言ってないよね?」

「だな」

「…………」

貴子は目を細めてから、子犬をケージから出してリードを付ける。

「どれがワンタン?」

「こっち」

「シューマイは?」

「こっち」

「春巻きは?」

「あっち」

「……全然分かんねぇ」

「タグ見れば分かるようになってるから」

「なるほど」

2人は芝生の上に持参したシートを敷いて座った。

「ふぅ…」

「ん?」

「なんか、一件落着って感じ」

「何が?」

「ふた葉のこと」

「ああ」

「近々リアルで集まって遊びに行きたいなぁ」

「ふた葉って未成年だろ?夜遊ぶのは微妙だよな」

「そこなんだよねー。お酒飲めないし」

「まぁ…あいつらのことは放っておいて…」

「?」

浩太郎が寝転がりながら貴子を見つめる。貴子もそれを見つめ返すが、浩太郎の顔の上を子犬3匹が走り回る。

「ぐふっ」

「ふふふ、あはははは」

貴子は子犬に走り回られたあげく、必要以上に舐め回されている浩太郎を見て笑った。

「笑えねぇし…」

浩太郎は一番激しく舐める1匹を捕まえて顔の上に掲げた。タグには'ワンタン'と書いてある。

「ご主人様に似て、激しく舐めるのが好きなんだな」

「な!?何言ってんの」

「本当のことだろ?」

浩太郎が貴子を見てニヤリと笑った。

「断じて違います!」

「照れなくていいって」

「照れてないし」

そんな話をしていると春巻きが勢いよくどこかに向かって走りだす。

「え!?」

リードを掴もうとしたが間に合わず、春巻きは猛突進している。

「ヤバイ。春巻きー!」

浩太郎に2匹を任せて、貴子は春巻きの後を追った。


春巻きの後を追いかけると、どうやらゴルフの練習している男性のゴルフボールを追いかけていた。

「おやおや」

男は白髪をしていて、後ろ姿を見ただけで60代くらいなのだろうと分かる。

普通とは違う柔らかいゴルフボールをパターで打つと、春巻きは飛び跳ねながら追いかけ、それを咥えてその男の足元に置いた。

「偉い、偉い」

男は膝をゆっくりと曲げて春巻きを撫でた。

「すみません、ウチの犬なんです」

貴子が後ろから声をかけると男は振り向く。

「………確か君は…、犬塚くん」

「………しょ、署長!」

そこに居たのは元署長である渡辺だった。

「あははは、君の犬だったか」

「すみません…。というか、お久しぶりです!それと、ホワイトデーの時にお花ありがとうございました!お体はいかがですか?」

「あははは」

渡辺は笑った。

「相変わらず忙しい人だな、君は」

「はは…すみません…」

「立ち話もあれだ、そこのベンチに座ろう」

渡辺はパターを杖代わりに使ってヨタヨタとベンチまで歩く。あんなに威勢のあった署長の姿からは想像できない程弱々しく見えた。

「よっこいせ。ふぅ…。歳は取りたくないなぁ」

「そ、そうですね…」

貴子は春巻きを膝に乗せて渡辺の横に座った。

「仕事を辞めてからというもの、毎日退屈してるよ」

「そうなんですか」

「趣味のゴルフも出来なくなるほど歳を取って…。今じゃ公園でパターを打つのがやっとだ」

「そうですか…」

「君の仕事はどうなんだね?」

「…先月で退職しました…」

「……寿退職か?」

「ち、違いますよ!」

「なんだ、違うのか」

「すみません…」

「何か、目標でも出来たのかね?」

「…はい」

「そうか。それは良い」

「署長のおかげです」

「え?」

「署長は覚えてないかもしれませんが、送別会の日に『努力すればきっと報われる。だから一生懸命がんばりなさい』と言って頂いて…凄く勇気を貰えたというか、やる気になれたんです」

「…そうか」

「はい。本当にありがとうございました」

貴子は立って渡辺に頭を下げた。突然のことに春巻きは少し驚いている。

「頭を上げたまえ。私はもう君の上司でも何でもない、ただの老ぼれだ」

「そんな」

「君は目標を見つけられたんだね」

「…まだ、はっきりしてはいませんが…。農業に携わる仕事をしたいと思ってます」

「ほう?」

「最近知り合いの方に畑を貸して頂いて、まだ種を蒔いた段階なんですけど…。実際に栽培して色々と学んでいきたいと思ってます」

「そうか。そこまで明確なら十分だ」

「だと良いんですけどね」

「ただの老ぼれとして、1つ頼みがあるんだが…」

「何でしょうか?」

「採れた野菜、私に売って欲しい」

「え!?でも、私、野菜を育てるのは小学生以来ですし…、上手く行くかも…」

「失敗したら来年売ってくれればいい。どうだね?嫌か?」

「いえ…、そういう訳では…」

渡辺は財布をポケットから財布を出して名刺を取り出すと貴子に渡した。

「まだ署長だった時のものだが、番号は変わってない。収穫したら連絡をくれないか?」

「分かりました…」

「それじゃ、私はパターの練習を再開するとしようかね」

そう言って渡辺は立ち上がり、さっき練習していた場所まで戻った。貴子は一礼してからようやく浩太郎の元に戻った。


「何時間かかってんだよ!?」

予想通り浩太郎には怒られてしまった。

「ごめん、たまたま署長に会って」

「署長?こーへいのことか?」

「ううん、こーへいさんの前にいた署長」

「ああ。'狸じじい'ね」

「もう!その名前はもう使わないの」

「何でだよ」

「でね、その署長が」

「シカトかよ」

「私の育てた野菜を買いたいって」

「へぇー。良かったじゃん」

「うん!なんかやる気出てきた!」

「単純」

「…………」

「怒った?」

「別にー」

「あっそ」

「これから、畑行く?」

「行かねぇー」

「あっそ…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ