《season2》リアルの桜の花びら
花見当日。
桜の花は満開期を過ぎているものの、それでも人を魅了するほど美しく咲いている。
貴子はブルーシートに座ってお酒を飲みながら桜を見上げた。
「夜桜もいいね」
「だな」
隣に座る浩太郎も桜を見上げた。その横にあぐらをかいて座っている佑太郎は特に興味を示すこともなくビールを飲んでいる。
今日の花見は昼過ぎから始まり、大勢の人が集まり、大人たちは飲んでは食べ、酔っては歌い、子供たちは庭を駆け回りってはしゃぎ、転んでは泣いていたが、日が暮れ夜になると人々はほどなくして家へと帰った。
今花見会場にいるのは貴子たちと、貴子がおじさんと呼んでいる大助の家族や親戚くらいだ。
「ドM。ブログに肉、肉、書いといてあんまり食ってねぇーじゃん」
「そう?凄い食べたと思ったんだけどなぁ」
「俺、なんか食うもん持ってくる」
浩太郎はそう言って立ち上がり、食べ物のあるテーブルへと向かった。
「なぁ、ドM」
「何?」
「お前、ニコラスと何話してたんだ?」
「え?」
「この前のことだよ。2人でコソコソしてただろ?」
「べ、別に。ただの恋バナよ!」
「は?恋バナ?ニコラスと?」
「何?変?」
「ふーん」
佑太郎は不満そうな顔をしたがそれ以上のことは聞かなかった。
「そういえば!」
「あ?」
「片方の好みの人ってどんな人?」
「片方言うな」
「ああ、ごめん。えーと、ユウちゃん」
「親戚のババアかよ」
「え!?」
「好みの女か…」
佑太郎は空になったビールの缶を握り潰した。
「年下で、身長が高くて、頭の良いやつ。お前とは正反対の女」
「な!?」
「何?何の話?」
そこに皿いっぱいに肉や野菜を盛り付けたものを持った浩太郎が戻ってきた。
「ユウちゃんの好みの女性の話」
「だからその呼び方…」
「良いじゃん。照れてる?」
「照れてねぇーし」
「それで?どういうのがタイプだって?」
「私と違って、若くて身長高くて頭の良い人が良いんだって」
「……へぇ…」
「あ、お酒飲み切ったみたいだから、持ってくるね」
今度は貴子が立ち上がり、その場を離れる。
「……いつから『若くて身長高くて頭の良い人』がタイプになったんだよ」
「うるせーな。いつでも良いだろっ」
「お前、俺に遠慮してんのか?」
「は?そんなんじゃねーよ」
「あっそ」
「ま、お前の手に負えねぇつーなら、代わってやってもいいぜ?」
「は?」
「お待たせー!2人の好きな焼酎貰ってきたよ」
貴子は4L焼酎ボトル2本をブルーシートに置いた。
「は!?デカすぎ。つーか2本も要らねーだろ」
「凄い重かった…。今コップ持ってくる」
浩太郎と佑太郎は目を合わせてからゲラゲラと笑った。
「お待たせ…って、何笑ってるの?」
「いや、別に」
「??変なの…」
貴子はコップに氷を入れて焼酎を注ごうとすると、
「危なっかしいな。貸せよ」
佑太郎が焼酎のボトルを貴子から奪い取り、焼酎を注いだ。
「え?何やってんの…?」
「ロシアンルーレット」
3つのコップに焼酎が2割、5割、そして9割と注がれ、そこに浩太郎が水を入れてかき混ぜると、出来上がったコップをシャッフルする。見た目はすべて一緒だ。
「よし、ドM。お前から選べ」
「嘘!?んーーー、じゃあこれ!」
貴子が選ぶと2人もそれぞれコップを取る。
「改めて……」
「「「乾杯」」」
3人は一斉に飲む。
「んふっっっ」
貴子はあまりの濃度に酒を吹き出した。
「ドM、汚ぇな。吹くなよ」
佑太郎は貴子を見て笑った。
「いや、濃すぎ!何これ!?原液!?」
「お前ハズレ引いたのかよ」
「俺の酒の味しねぇし」
どうやら浩太郎は一番焼酎が少ないものを選んだようだった。
「交換するか?」
「…うん。お願いします」
浩太郎と貴子はコップを交換する。そして浩太郎が貴子の酒を飲むと
「ぐふっ。ごほごほ」
声を出して噎せた。
「何?お前も?」
「思ってた以上に濃かった…」
「でしょ?びっくりするよね!」
浩太郎はコップに水を足す。
「情けねぇなー」
「うるせーよ」
「そういや、浩太。ドMに車の話したのかよ?」
「ああ、…いや。まだ」
「何?車?」
「前々から車見に行ってたんだよ」
「買うの?」
「つーか、もう買った」
「え!?まぢ!?」
「実は先月に契約してて、今月には納車される予定」
「そうなんだ…。いいなぁ」
「納車したら乗せてやるよ」
「本当?何の車?…って言ってもあんまり分かんないけど」
「ボクスィー」
「ボクスィー?」
「ワゴン車。お前がこの前『いかつい顔してる』って言ってたやつ」
「あああ!あれね。へぇー」
「予定では来週中に納車されるから、そしたらドライブでも行くか?」
「うん。ワンタン達も一緒でも良いなら」
「え…」
「大丈夫!カゴに入れるから!汚さないよ!」
「……………」
するとそこに
「「お姉ちゃーん」」
同じワンピースを着た双子の女の子が現れ、貴子の横に座った。
「かのんちゃん、かりんちゃん」
「お姉ちゃん、まだ居たの〜?」
「ふふふふ」
「ふふふふ」
「誰だ?こいつら」
「この子たち、ここの息子さんの子」
「かのんだよ」
「かりんだよ」
「何歳?」
浩太郎が尋ねると親指と人指し指、中指を立てて
「「4さい」」
と答えた。
「どっちだよ」
「ふふふふ」
「ふふふふ」
双子は何故か笑っている。
「お犬さんは〜?」
「お犬さんは〜?」
「今日はもう帰っちゃったよ」
「えーー」
「えーー」
「ごめんね」
双子はガッカリした顔をして家の中に入っていった。
「何しに来たんだよ」
「ユウちゃん、子供嫌い?」
「嫌いつーか、面倒くせー」
「浩太郎さんは?」
「5人までなら、なんとか」
「何の話!?」
「もう子作りの話かよ」
「だから何の話!?」
浩太郎は何も言わず焼酎を飲んで笑い、貴子を見つめる。
「…俺、トイレ…」
佑太郎はそそくさとその場から離れ、家の方に向かって歩き出した。
「?」
貴子は不思議そうに浩太郎を見ている。
「傷はどう?」
「…うん、もう治ったよ」
「そうか」
「?」
「今日…子作りするか?」
「はい!?」
「お前の気が変わる前に俺の物にしたい」
「…もしかして、こーへいさんを組合から追放しなかったこと気にしてる?」
「…まぁ…」
「……………」
「まだあいつのこと、好きなんだろ?」
「……………」
「お前を急かすつもりはねぇけど…、また自分を責めるんじゃねぇかと思うと…気が気じゃねぇっていうか…」
「…ごめん…いつも迷惑かけて…」
「別に。俺が好きでやってることだ」
少しの沈黙の後、浩太郎は貴子の額に自分の額を当てた。
「ち、近いよ…」
「だから良いんだろ?」
「な、何が…?」
「貴子…」
浩太郎は貴子の名前を初めて呼ぶ。
「え…」
「貴子」
「は、はい」
「俺は、貴子のことすげぇ好きだ」
「…………///」
「………何か言えよ」
「……あ、ありがとう…」
「……ふっ。なんだよそれ」
浩太郎は笑ってから貴子にキスをした。貴子も身を委ね舌を絡め合う。2人は一度顔を離し
「お酒の味する」
と言って笑い、またキスをした。
佑太郎はそこから少し離れた場所で
(早く終わらねぇかな…)
と思いながら2人の様子を見つめていた。