《season2》リアルのニコラスの秘密
昨日の夜。
ドリームファーム、わん汰ぁワンド前。
貴子は1人のエルフが家の前に立っているのが見えた。
「ニコラス?」
今にも泣きそうなニコラスが貴子を見るやいなや抱きつく。
「え!?」
「どうしよー!?」
「何が!?」
ニコラスが貴子から離れると今度は腕を引っ張って家から少し離れたカフェの中に入った。
「どうしたの?急に」
「…わんちゃん、コウさんとリアルで付き合ってるって本当?」
「え!?なんで知ってるの!?」
「…ユウさんが教えてくれた」
「そっか…。…………!も、もしかしてニコラス…浩太郎さんのファン!?」
「ううん…」
「はぁ、良かった…」
「僕…、ユウさんが好きなんだ」
「…………。え!?」
「エルフ谷の時から…」
「待って。好きって…どういう意味の、好き…?」
「……異性として…」
「え?え?ニコラスって…男だよね?」
「…………、キャラではね…」
「ってことは…?」
「リアルでは女だよ」
「っっっっっ!」
「それを知ってるのはズームだけ」
「そ、そうなんだ…。全然気づかなかった…」
「…………。最初ユウさんに会った時は、すごく嫌な人だなぁって思ったんだよね…。口悪いし、いい加減だし。でも本当は優しい人で、口では悪く言ってもなんだかんだ心配してくれて…」
「そこに惚れたんだね」
「…うん。僕、ずっと引きこもりしてて…。でもユウさんに出会って勇気を貰えたっていうのかな…。少しずつ部屋を出るようになって…ドリファムを始める頃には学校にも行けるようになったんだ」
「学校?大学生なの?」
「…ううん。…高校生…」
「え!?高校生って…」
「もう卒業はしたんだけど。…僕の親、お金持ってて。引きこもってた時に親にドリームツール買ってもらって…」
「………もしかして、18歳…?」
「うん…」
「そうなんだ…」
「ドリファムを始めた時にレイさんがグループ作って、ユウさん達も入ってたんだけど、いつの間にか抜けちゃって…。それからはほとんど会えなくて、諦めてたんだよね…。でも、レイさんに呼ばれてこの前の祝賀会に行ったらユウさんが居て…。会えて嬉しくて…やっぱり、好きなんだって思って…」
「ニコラス…」
「ユウさんにリアルで会ってみたいってずっと思ってたんだけど、男キャラ定着しちゃって…今更女だなんて言えないし…」
「そっか……。そうだよねぇ……こんな時に百合さんがいればなぁ…。私じゃ何の力にもなれないよ」
「でも、わんちゃんのほうがユウさんと仲良いんでしょ?」
「仲良いっていうのかなぁ…」
「ユウさんと話すといつもわんちゃんの名前出てくるよ」
「どうせ悪口でしょ?」
「…そうじゃない時も、あるよ…」
貴子はテーブルに肘をつきながら考える。
「うーん…。私だったら…本当のこと話すかなぁ」
「え?」
「私がニコラスと同じ立場なら、正直に話すかな、って。女だって言ったからってニコラスを嫌いになるような人じゃないと思うし」
「そう…かな?」
「逆に可愛がってくれるかもよ?」
「本当に!?」
「いや…確信はないけど…」
「……………」
「そういえば、ニコラスって都内住みだよね?」
「…そうだけど…」
「じゃあ、ニコラスだっていうのを隠してリアルで会うのは?」
「え!?いきなり!?む、無理だよ…」
「どうして?」
「そんな…会って嫌われたら…生きていけないよ…。それに声でバレるし…」
「確かに声が問題だよね…。蝶ネクタイ型変声機欲しいよね〜」
「……、リアルのユウさんって、どんな感じなの?」
「見た目ってこと?」
「うん…」
「うーん、そうだなぁ…。肌は少し焼いてる感じで、身長は……170後半かな?髪は…黒でモサっとしてる感じかな?」
「モサっと?」
「ごめんね、男性の髪型の名前分かんないんだよね…あははは…」
「顔は?顔はどんな感じ?誰似?」
「日本の芸能人に詳しくないからなぁ、私…。眉毛は普通?目はキリッと?鼻は…高いかな?口は…普通?」
「…全然分かんないよ…」
「ああ!えっと俳優さんでいうなら玉山テッツーみたいな感じ」
「誰それ?」
「え、知らないの…?」
「ジェネレーションギャップ、かな?」
「えっ!?…………ちーん…。ニコラスはどん感じなの?」
「僕!?」
「うん。身長とか、髪型とか…好きな服装とか!」
「僕は…160センチくらいかな」
「大きいっ」
「え?そう?」
「いや、私が小さいだけなんだけど…。それで?」
「うん…髪はショートで最近明るい色に染めたんだよね」
「へぇ〜♪」
「服装は…パンツ履いてることの方が多いかな。どちらかと言えばボーイッシュな感じかも」
「そっかー。なんとなくイメージ出来たかも!」
「でも、ユウさんの好みじゃないと思うんだよね…」
「そうかなぁ?」
「前にユウさんに聞いたことあるんだよね…、どういう女の人が好きか」
「大胆!それで?なんて言ってた?」
「『ヤりたくなるようなエロい女』って…」
「……………最低…」
「僕とは真逆のタイプだよ…」
「でも、理想と好きになるタイプって違ったりするじゃん!」
「そう、だと良いな…」
「……あ」
「え?」
「ごめん。大ちゃんからメッセ来てた。どこ居るのー?だって」
「そろそろ戻ったほうが良さそうだね」
「そうだね」
2人が店を出ると偶然にもユウに出くわす。
「は?ドM!こんなことろに居たのかよ」
「もしかして探してた?」
「んなわけねーだろ。お前が居ないから暇で仕方なく一美のことろに行こうとしてたんだよ」
「そうなんだ」
「一美?」
「私の妹の本名。ここではにゃん汰」
「ああ。そうなんだ…。リアルで知り合いなの?」
「うん。たまに組合のみんなで飲みに行ったり遊んだりしてるんだよ」
「そうなんだ…」
「たまにっていうか毎週な。今から家戻るんだろ?」
「うん」
「じゃ俺も行くわ」
「え?妹のとこに行かないの?」
「別に。暇だっただけだし。早くソファに座りてぇ」
「座るというより寝転がってるよね」
「居心地良いからな、お前の家」
「でしょ〜?」
「うざっ」
ニコラスはただ黙って前を歩く2人の後を歩いていた。