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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
99/180

もちろん毎日しました

「95…96…97…98…99…500…!」

 500だ、休み無しで500だよ500、100の5倍だ200の2.5倍だ。素人の俺にはきつすぎる素振り練習を付き合うといった事を少なからず後悔していた。

 暑い…暑すぎる…、朝方で太陽は出てきているとはいえ春前、150回目までは涼しかったのに、今は春もクソもない。

 汗はダラダラ、瑞樹さんに買ってもらった灰色の服はそれを吸って色が濃くなっている。息は荒く、他人が見ればわざとらしいと思われる程ヒィヒィ言っている。腕も足も、俺の体はボロボロだ。

「だらしないのぅ、わしはこれをもう1回繰り返しておるぞ」

「そんな…事を…言われましても…、さすがに…これは…す、すみません…失礼ですが…お水を…もらってきます…」

 これをもう一度繰り返す気力も体力も残ってない、瑞樹さんは超人なのか、と思ってしまうほどだ。汗は多少かいているとはいえ軽い運動をした程度、息は全く上がっていない。さすが師範、この程度はお茶の子さいさいなのだろう。

「そうか、行っておいで。ついでじゃ、わしももらおうかの」

 そう言うと俺を追い越して台所へと向かう。それはそのはず、俺は今歩いていない、正確には歩けないのだが、廊下を四つん這いになってゆっくりと進んでいるからだ。それでもなお辛い。

「はぁ…はぁ…、あれ…台所…どっち…」

 まだ家の構造を覚えていないのと、汗が目に入ってくるのと、四つん這いになって景色がほんの少し変わっていた所為で台所への順路がわからない。だめだ、頭がぼーっとして、倒れそうだ。でも倒れたら汗を吸った服で廊下が…、どうすれば…

「ほれ」

 声に導かれ顔を上げる。そこにいたのは水の入ったコップを持った瑞樹さん、しかも2つ、自分のを先に飲まずに持ってきてくれたのだ。

 目からは汗なのか涙なのか、何かしら液体が溢れている感覚があった。


「………っ、ぷはぁ! 生き返った…!」

 縁側に座り、コップに入っていた水を2秒となく飲み干した。そういえば何も食べていなければ何も飲んでいない、よくもまあ脱水症状を起こさなかったものだ。

「ほっほっほ、それはよかったのう」

「えぇ、でも瑞樹さんは毎日こんなに素振りしているんですね、1000回なんて俺には無理ですよ」

 心に感じた事をそのまま口に出す。弱音に聞こえるかもしれないけど、まぁいいだろう。

「まぁ毎日やっておるから、慣れもあるがの。それに運動もして、多少は無理もせんと、長くはないらしいしの……」

「…? 何が長くないんですか?」

「あ、あぁ気にしないでくれ。朝という時間は長くないな、といったのじゃ」

 そうなのかな、それにしては何やら悔しそうな寂しそうな顔をしていたような、まぁ瑞樹さんには瑞樹さんの考えがあるんだし、俺が口出しするなんて失礼極まりないだろう。

 ……………グゥ〜〜

「あっ、あはは…」

 突然お腹が大きく鳴る、そういえば作っただけで食べていないな、早く食べに行きたい…はっ⁉︎ しまった、瑞樹さんの前で鳴ってしまった。はしたないって思われたかな…

「ほっほっほ、そりゃぁお腹も空くわの。朝ごはんを食べに行くか」

 しかし瑞樹さんはそんな事を気にもせず、むしろ気がついていないくらいの調子でそう言った。

「は、はい!」


「今から朝食ですか、じゃあお味噌汁を温め直してきますね」

 俺と瑞樹さんが部屋へ行くと、奥様がすぐにお味噌汁の少なくなった鍋を持って台所へと向かった。すでに食器は片付けられているが、他の家族の方はもう食べ終わっているのだろう。

「皆さん……家族の方は今、何をしているんですか?」

「ん? そりゃあ息子は会社で、その嫁さんは多分掃除、孫たちは学校じゃろうな」

 へぇ、みんないろいろな事をしているんだなぁ。会社って何をするところだろう、学校ってなんだろう、俺は食べ終わったらヨメさんという人と同じで掃除をしよう。

「そうじゃ心音」

 掃除の事を考えていると瑞樹さんに呼ばれる。少し不意を突かれて肩が動いてしまった。

「はい、なんでしょうか?」

「お前さん、学校には行かないのか?」

 そう聞かれたすぐ後に、奥様が温まったお味噌汁と出来立ての卵焼きを持ってきてくれた。


 それからの一週間、思えば色々な事があった。

 まずは病院、心療内科に行った。脳を調べてもらったところ記憶喪失ではないようで、お医者さんも何が何だかわからずお手上げ状態だった。ただ1つわかったのが、俺は16歳だという事。そんな事までわかるなんて、実に医学というものは素晴らしいものだ。

 次に剣道、俺は正式に瑞樹さんの弟子入りをした。おっと、瑞樹さんじゃなくて師匠だった。俺は師匠に瑞樹流を基本から教えてほしかったのだが、自分の思うようにやりなさい、って師匠に言われたから、本当に自由にやらせてもらっている。自慢ではないが、師匠以外に負けた事はない。

 最後に学校、どうも師匠はある高校とつながりがあり、そこの剣道部部員に偶に出向いて稽古をつけているらしい。そのコネ、というわけではないが、校長先生が特別に入学を許可してくれた。テストというものは受けさせられたのだが、アメリカ語が足を引っ張り合格ラインギリギリだったらしい。

 そして明日はいよいよ初登校、なんだか心細いが…まぁなんとかなるだろう。

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