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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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素人ならでは

「ほれそこの若者、ここはわしに任せてお行きなさい」

 カツアゲされていたその男はお礼も言わずに逃げていく、そんな余裕はなかったのだろう、おじいさんも納得した雰囲気の背中をしている。

 しかし何なんですかこのおじいさんは、剣道……ってなんだっけ、でも多分それだよな。だとしたらこの人すごい、流れるような動きに力受けて流す相手を直接傷つけない大きさ、それに何より……

「くっ⁉︎ テメェジジイふざけた真似しやがって! 老い先短え奴が調子のんなよ!」

 転がされた男が同じく鉄パイプを握る。無謀であると思う、このおじいさんには敵わない。でも…

「やめときましょうか」

 勝手に体が動いていた、その男がおじいさんめがけて振り下ろそうとした鉄パイプを掴む。勢いで少し体を持って行かれたけど、問題はなかった。

「なんだオメェは、オメェも痛い目にあいてぇのか!」

 鉄パイプを手放した男は俺を見て怒鳴る。

「はぁ………、そうですか」

 大きな声を出すしか能がないのかな、耳を痛くさせているつもりなのだろう。でも…頭痛が自然と引いていた、これは使命感によるものなのだろうか。

「これ少年、助けは無用ぞ」

「はぁ………そうなんですか、でもお年を召している方が目の前で争っているのを黙って見られません、代わってください」

「ふむ……」

 おじいさんがゆっくりと鉄パイプを置き、近くの壁にもたれかかる、お手並み拝見、といった感じの目で俺を見ていた。

「おいテメェ、調子のってんじゃねぇ!」

「同じことしか言えないんですかね」

 また殴りかかってきた、だから俺はしゃがんで拳を避け、パイプで足をすくってやった。

「うるさいです、今は夜です、迷惑です」

 2度目の転倒をした彼は服が汚れている、ガラの悪さも相まって醜い。止めに背中に思い切り鉄パイプをを突き立ててやる、慈悲はなかった。

「こいつ…よくもダチ公を!」

「はぁ……友達じゃなければ脅していいんですね」

「うっせぇんだよこのガキ!」

 残った2人が一斉に襲いかかってくる、少しなら傷付けても……いいですよね、正当防衛です。

 素手と鉄パイプというリーチの違いを使う、これならば振り下ろすよりも突きの方が有効だ、向かって右にいた男の腹を突く。

 不思議な感覚があった、俺は以前に剣を触っていたかのような不思議な感覚が。だけど違う、さっきのおじいさんの動きを見た後では、自分の動きが全然なっていない事に気付かないわけにいかなかった。

 その証拠にだ、俺は1人を突いた後、右手を前にずらし向かって左のやつの横腹めがけてこれを払った。こんな動きはこのおじいさんにはない、でも俺にはこれが正しいと感じるのだ。

「ほぉ、変わった動きじゃ」

「そりゃまぁ…素人なので」

 壁にもたれかかったおじいさんをちらりと見る、老人とは思えない雰囲気が増していた、腕を組み力を抜いている姿はどことなく渋い。

「くそっ、これならどうだ」

 声が聞こえ再び男の方を見る、転ばせたやつと突きをくらったやつはダウン、しかし後1人がおじいさんの置いた鉄パイプを持っていた。

「うわーまいったー、って言えばいいんですか?」

「チッ、馬鹿にすんじゃぁねぇ!」

 男は猪のように突進してくる、おそらく周りは見えていないだろう、こういうやつの動きは決まって単純だ。

 こいつに鉄パイプを振る気はないはず、こいつは鉄パイプを振ろうとして掴まれた仲間と、突きでやられた仲間がいた。それを見たこいつは振るより突く方がいいだろう、と思ったはずだ。

 それがあまい、あのおじいさん動きを参考にさせてもらおう。

 男が鉄パイプを前に突き出す、それを俺は相手の勢いを利用して受け流し右に避けた。ただ避けただけじゃない、避けた瞬間にしゃがむ。

 男は何とか勢いを殺し振り返る、ここだ。

 足のバネを利用して相手の懐に入る、距離を詰めれば詰めるほどパイプでは殴りにくくなる、攻撃の威力は弱まるのだ。

 さらに相手の足は封じてある、勢いを殺したではとっさの行動は取りづらい、さらにパイプを持っているため蹴り上げるという考えにはたどり着かないだろう。

 懐に潜った俺は相手への見せしめのように突きをくらわせる、ドスッ、という音がしたからもう立てないだろう。

「よし、終わりましたよおじいさん」

「なかなかいい腕だったぞ少年」

 嬉しそうな顔をしておじいさんが言う、その行動に俺は少しムッときた。

「馬鹿にしてるんですか、あなたの腕を見た後では俺のは素人の喧嘩です」

「ほぉ、わかるのか。ならば話が早いわい。まぁなんじゃ、一応助けてもらったわけでのう、後日お礼がしたい。君の携帯電話の番号を教えてもらえるかの、生憎わしはそのようなハイテク機器を持っておらんでの。それにもう夜も遅い、両親が心配せんうちに帰りなさい」

 お礼か、お礼なんてされるような事してないんだけどなぁ。夜が遅いのはわかるけど、両親? 携帯電話? 何だそれ、全然わからない。

「よくわかりませんが心配するような人はいないですし、携帯電話なんて物は持ってません」

「なんじゃ、今時珍しい孤児か?」

「わかりません、何もわからないんです」

 引いたはずの頭痛が戻ってきた、何かを考えるからあたまが痛くなるのか、それともこれは何かの罰なのか、俺が悪い事をしたその罰なのか。

「それとも記憶喪失かの、名前はわからんのか?」

「名前……しおん、しおんです」

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