すっきりした
モモ? 誰それ、はぁ……誰だっていいか、なんだかどっと疲れた、まさか終わるとまで考えていた事件がただのいたずらだったなんて。モエミが聞いたらこの2人無事じゃ済まないんじゃないの。
あーでもなんかむずむずするなんとも表現しにくいんだけど胸のもやもやというか、何かがぐるぐる渦巻いてるというか、とにかく何かがつっかえて気持ち悪い。
取り除きたい…
「ねぇシオン、頼みがあるんだけど…いい?」
「ん、あぁいいよ、なんでもどうぞ」
「そう、じゃあ遠慮なく!」
思い切り力を込めて左頬を殴り抜ける、……すっきりした! シオン倒れたみたいだけど、大丈夫よね。
「ふぅー……気分爽快!」
「あらあら…でも何も言えないのよね、悪いのは私たちだから」
自覚してるのならやらないでよ、……あれ? エリスの傷が治ってる。そういえばさっきぎゅってされたのに私の服に血が付いてない、一体どうして?
「白花さん、背中痛くない? 一応手加減はしたんだけど…」
「痛かったわ、背骨に絶大な痛手を負った。でも私だって攻撃してたからその辺は気にしないで」
「痛くないわよ、元々シオンの心で実物はないから、痛みなんて感じないし、傷だってすぐに治る。便利すぎる身体よ」
確かに便利な身体ね。なるほど、でまとめられた事じゃないけど、そう納得するしかない。考えたところで私の常識は通用しないんだもの。
じゃあ私がとった攻撃行動は全部無意味だったのね、だったらあなたを倒すなんて不可能…あっ!
「エリス…あなた、手が…」
「消えてる…いいえ、消してるのよ。もともと私はシオンの一部だからね、元に戻るの。今まで私は心の中で自我を持っていた、でもそれも今日でおしまい、わたしはシオンになって完全に消えるの」
話がぶっ飛びすぎている、心の同化なんて理解しろという方が無理よ。だけどこんなまともじゃない世界だから、それもあり得るのね、まったく迷惑な話。
「…そう、なんだかごめんなさい、もやもやしてシオン殴っちゃった」
「謝るのはわたし、ごめんね。いくらでもシオンをこき使っていいから」
「ええ、そうさせてもらうわ」
エリスは消えた、事件……いいえ、子供よりタチの悪い悪戯はこんな形で幕を降ろすのね。苦労と苦悩を重ねた分、精神的にも身体的にも疲れた。今日はゆっくり寝られそう。
「その前に……こき使ってあげましょ」
疲れた身体を引きずり…まぁ飛んだのだけれどなんとか帰宅した。出迎えはモエミ、何をして待っていたのかは知らないけど、私が帰ってくるなり泣いて喜んだ。まったく、子供よ子供。
すぐにでも寝転がりたいのだけれど、背負ってきたシオンを置いて私は出かける。おめでたい日だし、それに迷惑かけた人がたくさんいるからね。シオンにはもう一働きしてもらいましょう。
「そう、白花ちゃんのためだったのね」
「そうなんだけど迷惑な話よ、恥ずかしい台詞も言ったし。そういえばあんた助けてくれるって言ったのに全然助けてくれなかったじゃない、かなり危ない場面もあったのよ」
「あー…えっと…あっ、ほら白花ちゃん、これ美味しいわよ」
モエミが机いっぱいに置かれたシオンお手製のお菓子の1つを勧めてくる、話をそらすな…まぁ、無事だったからいいかしらね。
三葉ちゃんと樅さん、真知さんにアレサにキアレ、それにモエミと、今回の事件に関わった人たちを全員私の家に集めた。目的はただ1つ、みんなでお菓子を食べてお疲れ様をするためだ。
「心音君! 新しいのまだ?」
三葉ちゃんが新しいお菓子を催促する、この通り机には和菓子から洋菓子までいっぱいあるのに、それでも要求するところが若干恐ろしい。
「はいはい今出来ましたよ……、白花さん…」
「何かしら」
「確かに俺は悪い事しましたよ、それで殴られたのもわかります。じゃあ今のこの状況は何なんですか?」
私がシオンにあげた罪滅ぼしのきっかけ、それに文句をつけるなんて、偉くなったものね。美味しいお菓子を食べて疲れを癒そう、という素晴らしい企画だと思うわ。
「いいじゃないのよ、あんた料理得意なんだから」
「そういう白花さんも得意ですよね、手伝ってくださいよ。それにもう買ってきた材料全部ない使いましたから…」
「私が作るのは食事用でお菓子は作れないのよ。材料が無いのなら買ってきたらいいわよ、もちろんシオンの奢りね」
「そんなぁ…頑張って働いて貯めたお給料が…」
薬屋さんお給料性なんだ、家族経営みたいなものだからお金もらってないのかと思ってた。シオンすごい嫌そうな顔してる、お菓子作りよりもお金がなくなるのが嫌なのね……
「ふふ、あははははっ、久しぶりに楽しいわ。ついでだし今日は晩御飯もシオンにご馳走作ってもらいましょうよ」
「賛成です」
「異議なし」
「真知さん、樅さんまで……でもこんなにお菓子あるのに晩御飯なんて食べられるんですか?」
「それもそうね、じゃあお菓子の材料じゃなくて晩御飯の材料買ってきてね」
本当に久しぶりに思い切り笑った、こんなに楽しいのいつ以来かしら。馬鹿みたいにみんなで騒ぐのが楽しくて仕方ない、毎日がこんなに楽しければいいのに…
「うーん、1週間自力で探してみたが、やっぱりあいつらに相談するのが手っ取り早かったかな」
「ごめんね、私なんかのために…」
「いいんだよ、困ったときはお互い様だ。それに、元の世界に帰りたいんだろ?」
「うん、おばあちゃんに黙って家を出てしまったから、心配してるんじゃないかな…」
ハクたちこの1週間なんだか忙しそうだったから、この人のために色々手は尽くしたけど、私は専門家じゃないからな、その辺りはハクに聞くのが一番だな。
「よし! じゃあ明日聞きに行こう、頼りになる友達がいるからきっと帰れるよ、橙華」
今回で第6章最終回です、読んでいただきありがとうございました。




