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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第6章 自分と世界をしっかり見つめて
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ふざけないでよ

 鈍感? 確かによく言われたけ事あるけど、あってすぐの人に言われる言葉じゃない。でも悪い気分じゃない、むしろ親が子の間違いを正す時のような感じがして、何やら嬉しくもある。

 だけど少し怖い、この人が去り際に放った言葉…「次に会うときは協力してほしい…」、この言葉が返しのついた釣り針のように刺さって抜けない。

「私の顔、見覚えないの?」

「だからさっきお団子屋さんで一緒になった人でしょ? それとも、それより前に会ったことがあるとでも?」

「鏡、鏡を見なさいよ。創り出せるでしょ」

「…! ………はいはい、わかったよ」

 この人なんでおれの能力を……疑問よりも先に納得がきた。鏡…それにどこかで見た顔、さらにはお団子屋さんの店員さんの奇妙そうな目、全て納得がいった。

 鏡に映る自分の顔、久々に見たから分からなかった。

「……似てる、というか髪の長さ以外おれと同じじゃん」

「失礼ね、若干だけど胸はあるわよ。姿はあなたのものを借りていても、別人ですからね」

「うん……ん? で、あんた誰? 偽物事件の犯人さんだよね、正直に吐いてもらおうかな」

 鏡に手を突っ込む、もちろんこれは演出だ、相手に少しでも不安感を与えるためだ。入れた手を抜く、すでに手には能力で創った刀を握っていた。

「ちょっとストップ、話は聞こうよ」

「……10秒」

「短いね、わたしはあなたの心であり能力、あなたの全てを知っている」

 なっ……何を言い出して……、でもこの重力、それを作り出しているのがこの人ならば。

「やっぱり延長、全部話して」




「と、あなたの過去はこんな感じ。エリュシオンの管理者の1人、シオン」

「……信じられた話ではない、けど信じる信じないじゃなくて、どう考えるかなんだろうね」

 うん、普通じゃないとはわかってたけど、普通なんてものじゃない。2人の人間が1人の人間になった、さらには記憶をなくしたのかと思ってたけど、エリスでもシオンでもない別の人間になったと、ははっ…こんなのファンタジーの世界だ。

「それで、なんで今になってエリスが出てきたのさ。どこへ行ってたんだよ」

「だからわたしはあなたの心であり能力、自分で気づいてないようだけど、喋り方以前に性格が変わってるのよ」

 喋り方、性格……そういえば何度も何度もみんなから言われてたな。自分は何も感じてないけど、本当に変わってるのか?

 うん、いつからだったかな、変わったって言われたの。………思い出した、美良さんを手に掛けてからだ。それでエリスはおれの心であり能力……まさか…⁉︎

「わたしはあなたの外で死んだ、あの朔日っていうやつに抜き取られてからね」

「その後で生き返った、露世さんの能力で。エリスもおれならおれもエリス、なるほど…単純でいて奇妙な運命」

「理解が早くて助かるわ、さすがわたし…て言っても別人なんだけどね」

 でもまだわからない、わからないから許すか許さないかも決まらない。一番重要なんじゃないのか、とりあえず聞かせてもらいたい。

理由わけを聞かせてよ、世界を終わらせようとしているわけを」

「うん、この裂け目の事よね、偽物よ偽物。あの世界守ちゃんから聞かなかった? わたしと一緒に裂け目が消えた、って。消せるわけないじゃないのよ本物を」

 はぁ? 偽物って、

「じゃあ重力を弄ったのは……」

「シオンなら気がつくと思ったから、たった1.01倍の重力でストレスは感じないよ。手伝ってほしかったから……、いいえ、わたしが知りたかったから。身勝手だけどあの娘の本当の心を、シオンと同じように好きになったこの世界の未来の平和を……協力してくれるかしら…」

「いいですよ」

 綺麗すぎる二つ返事で受けたけど、それはこの人の事を疑えなかったからだ。この人なりの大切なものを守りたい、という気持ちが伝わってきた、それだけの理由だ。

「あ、そうだった。恥ずかしいから言っておくんだけどね、シオンがウラで瑠璃ちゃんに言ったあの『優しさの大きな器に表面張力ウンタラカンタラ』、あれ違うわよ」

「な、なんで今それを! やめてよおれだってそれ恥ずかしいんだから…」

「だからね、似たような意味の言葉がエリュシオンにあるのよ。『守りたい気持ちは皆平等、溢れんばかりの優しさが人を愛で包む』、よ」


 それから次の日、集合時間前に樅さんに事情を説明して裂け目探しをやめてもらい、その間に鬼灯さんの能力をエリスに教え、偽樅さんとして白花さんの誘導をした。すべては今この時のために…




「ふざけんじゃないわよ! じゃあなに、全部私を試していたってことなの、全部あなたの自己満足で動いていたの、冗談じゃない!」

 抱きしめられてすぐにエリスをつっぱねていたけど、さらにつっぱねたくなった。なんなのよこいつ…馬鹿じゃないの。

「確かにこれは正しいことじゃないわ、でもあなたも私たちと同じ、好きなもののために……」

「でも、じゃない! なにを感動的に終わりそうな語りをしてるのよ、こっちは散々迷惑して……あぁもう!」

 あぁイライラする! なんでなんでなんでなんで!! なんで試されなきゃいけないのよ、なんで他人に振り回されなきゃならないのよ、なにがありがとうよなにがごめんなさいよ、そんなの言うなら最初からやらないでよ…

「馬鹿みたい……情けなくて涙出てきた、本当に終わると思ったからちょっと頑張ったのに、嫌だけどちょっと頑張ったのに…」

「いいじゃんか」

「なにがいいのよ! あんたらの所為でこっちは迷惑被ってるのよ!」

 軽々しくそんな言葉口に出さないで。終わってもいいとかどうでもいいとか、そんな負の感情を作って心を落ち着かせて、でも本当は終わらせたくなくて……あいつの優しさ、無駄にしたくなかったから私は…。

「身勝手だよ、おれも手伝った身だけど、本当に勝手すぎたと思う。言い方悪いけどさ、それで白花さんは損をした? 正直になれたんじゃないの、おれだって白花さんの事さらに知れたから、本当の気持ち知って嬉しかった。それにエリスもさ、反省しててわざとあの攻撃くらったんだよ。砂なんて落とさずにその場で止めればいいだけなのに、それをしないで罰として受け入れたんだよ」

 ………何よそれ、結局、結局私は甘かったのね。世界守としても1人の人間としても。それでもやっぱり私は戦いが怖いし人は傷つけたくない、でも……

「ちょっとだけ素直になれたかな、強くなれたかな」

「なれた、きっとなれたわ。私もモモに謝らなきゃ…」

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