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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第6章 自分と世界をしっかり見つめて
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シオンの喋り方

 崩れていく、ふわふわとしたこの空間が、酸をかけられたかのようにシューシューと音を出して溶けている。エリュシオンがなくなったから、この空間は役目を終えたんだ。必要のない物は情報や歴史として削除される、俺もエリスも。

「馬鹿だよ、ほんと馬鹿…平気だとか言ってたくせにさ、身も心もボロボロじゃんか…」

 一緒に連れてってくれ、そう言ったのに……嘘ついて1人で抱えて、誰がそんな事望んだんだよ…。

 今、実感としてわかる、俺の腕の中にいるエリスが軽い、中身のない抜け殻のような感覚だ。人の心の汚い部分に侵されて果てた精神、優しさという概念はエリスに残っているのだろうか。

「………ここももう終わりか、お前のおかげで少しだけお前と長くいられた、ありがとうな…エル…」

 雲のようなふわふわが空間から剥がれ落ちていく、汚い部分を隠すように覆われていたふわふわがなくなるとここは殺風景なところだ。限りなく続く白の世界、地面なんてない、終着点はない、永遠に落ち続ける、死ぬまで…。

 それも辛くはなかった、エルが一緒にいる、それがどれだけ心を支えてくれているか、表現できないほどだ。

 ふん……生まれ変わったらあの娘に謝らないとな…

「……エル?」

 嘘だ…エルの体が段々と消えていく、キラキラとしたエルの欠片が落ちていく。

 待てよ…待ってくれよ! 置いていかないでくれ、お前がいるから今まで辛いなんて感じた事なかった、なのにお前がいなくなったら…

「ずっと一緒にいてよ…どんな形でもいいから、ずっと……」

 強く抱きしめる、人の暖かさはエルにはもう無い、人間の裏で溢れた世界を…黒を背負ってしまったから。

『一緒だよ』

「…エル?」

 音じゃない、耳ではなく直接心に語りかけてきている感じだ。なんでだろう、嬉しいはずなのに、エルの声がいつも通りすぎて涙が出てこない。

『うん、ずっと一緒。それに嘘なんてついてない、私よりもあなたの方が強いから……お願い、私をあなたの心にして』

「心? 意味わかんないよ、それに俺は強くなんてない」

『ううん、確かにシオンは人を殺めた、褒められた事じゃないけど、私にそんな事させたくなかったんでしょ、心が強いの。でもその所為でシオンも黒になりつつある、でもまだ黒じゃない、灰色と灰色は灰色にしかならないから…』

「今のこの状態で止めて最悪を防ぐ、なるほど。でもどうせ俺は死ぬんだ、そんな事したって…」

『死なないよ、あそこを見て』

 エルの声に導かれ、パッと頭に浮かんだ方向を見る。なんだあれ、星空みたいな空間がヒビの中にある、あれがどうしたんだ。

『あれ、なんだか幻想的で素敵でしょ、中には不思議が広がっていそう。一緒にあそこへ入ろう、最後のワガママ、こんな事できるようになったし』

「随分のんきだな、それになにができるって……うわっ⁉︎」

 なんだ……重力の方向が変わったのか? さっきまで落ちてたからヒビに向かって落ちていると感覚でわかる。

『これもあげる、あなたの中で私は生き続けるから……じゃあね…』

 ……エル………、ヒビに入った瞬間、完全にエルは消えた、心の中にいるのかもわからない、わかるのは自分に宿った力、重力を操れる事。


 ヒビの中は暗いよ、幻想的でも素敵でもない。……いや、そうでもない…ですね、よく見ればキラキラしてて素敵な感じがします。

 記憶が遡っていく、あの頃…生まれてから今までの記憶が走馬灯のように蘇ってくる。新しいものから過去のものに、どんどん思い出していく。まるで過去に戻っているようだ。

 …あれ? 手が小さくなってるような…それに俺ってこんなに身長低かったっけ? 時間が戻っている感じがする、なんだ不思議な気分だ……悪くない。

 背中から落ちているけど、キラキラが遠くなっている。段々青く……なんだ、霧? いや雲か。夜なのかあたりは真っ暗、下から光を感じるけど、地面があるのか?

 ふわっと…重力を操り地面に背中から降りる。そこで意識が飛んだ。


「ここ……どこなんでしょうか…、それに俺は…誰だ?」




「消えた世界エリュシオン? あなたはその世界の生まれ変わりだとでも言うの?」

「それはちょっと違うらしいです、この重力という能力がその世界の名残でありエリスという心の力、俺はその器です」

 はぁ…またぶっ飛んだ事を言い出したわね、まぁだいたい事件を起こす犯人はぶっ飛んだ思想の持ち主ばかりだけど、今回は特別ぶっ飛んでるわ。

 つまりなに、世界を消してその世界の力である重力を取り込んだ実績がある、というわけかしら。なるほど、それで世界を消せる事を証明したって事ね。

「まぁいいわ、それを聞いたところでカナンは崩壊する運命から逃れられないんでしょ、なんか逆に安心したわ、やれるだけやろうって思った」

「そう…じゃあシオン、心の力返してもらうわよ。私も本気でやりたいから」

「そう言ってもう返したじゃんか、…白花さん強いよ、力はね」

 …! シオンの雰囲気と喋り方がまた変わった、本当に心を借りていたというの…

 というか力はね、ってどういう意味よ。確かにそんなに強い信念なんて持ってないけど、戦いたくないって心は金剛石のように硬いのよ。

「よそ見は禁物よ、霜月 白花! 永遠に逆えないエタァナルグラビティ!」

「いきなり…! 変えられるならフリー・マテリアル!」

 ダメでもともと、でも1発殴らないとこの気持ちはおさまらない。

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