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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第6章 自分と世界をしっかり見つめて
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心音の過去

 んん……そういえば私モエミの事よく知らないな、そりゃあ子供みたいで母親を気取ってて、かまってあげないとすぐに拗ねる、はっきり言って面倒くさいやつ、って認識している。

 でもたまにこんな風に大人を見せたり、落ち着いていたりとかする。どっちが本当のモエミなのかと尋ねられれば、私は面倒くさいやつ、と答える。本当は違うけど。

「そう、手伝ってくれるのなら今から一緒に来なさいよ。別にいつ来ても変わらないでしょう?」

「分かってないわね、ヒーローは遅れて登場するのよ」

「なによヒィロォって、いいわよ分かった、せいぜい死なない程度に助けてよね」

 子供なモエミをおいて空へ向かう、今回だけは私も本気を出さなきゃならないのかもしれない、そう思うと肩が重くなってきた。いつも以上に重力が絡まっている感覚がした。


 この1週間、私はずっと普通に、普通にと思いながら過ごしていた。食料はあったし、町へ買い物に出ることもなかった。めずらしくマリが1日も遊びに来なかった、家の手伝いでもしてるんでしょう。

 だからずっと家にいた、誰にも会わずに1人で考え事もせず、今のうちに楽しい事をしておこうとも思わなかった。

 内心諦めていた、結局自分は楽しい事なんて何もない運命に産み落とされたのだと。だからこの1週間は退屈ではなかったし、ほぼ一瞬だった。何をしていたのかも覚えてないほどに。

 三葉ちゃんや樅さんは今日が運命の日だという事を知らない、教えようとも思わない、1人で戦うって決めたから。どうしてもダメならモエミが助けてくれる、だから1人でも大丈夫って。


「来たわね」

 目の前には動く石と格好良く言えば破壊者、格好悪く言えばおもちゃを持たされた悪ガキと裂け目、今日の朝に探知機の音が鳴ったのだけれど、禍々しさが強くなっているのがわかる。

「1週間は短かったわよ、残りの人生を楽しんで、今までを振り返るにはね」

 実際にはそんな事少しも思ってないけど、今考えている事と言えば、1週間何も考えずに過ごしたから、考え事してたら道のりがすごく短く感じた、って事だから。

「………仲間も呼んでいない、友達がいないのか、よほど身の程知らずなのか」

「友達ならいるわよ、あんたとは比べ物にならないくらい良い友達がね。そんな友達に苦労はかけさせられないでしょ、苦労するのは私1人で十分」

「大した事言うのね、本当は世界がどうでも良いから、だから1人で…言わば私の手伝いをしている」

 はぁ……どうしてこうも悪者にはおしゃべりが多いのかしら、もっとも私は半分も話を聞いてないけど。

「手伝い? 馬鹿言わないでよ、腐っても世界守なのよ」

 自分で腐ってるって分かってるのが恐ろしい、清々しいほどに私は世界守の道を外れていると思う。

 それでも今まで仕方なく、なんとなくでもやってきたの、最後まで仕方なく、なんとなくを貫くのが自分の運命に抗う事なんだと思う。

「私が死ぬ時が世界が終わる時なのか、私が死んでから世界が終わるのか、趣味の悪そうなあなたなら私が死ぬ手前で終わらせるのでしょうね」

「………やっぱりあなたはダメな娘、醜いアヒルのまま。こっちが嫌になってくる」

「…? 私だってそう何度も何度もダメダメ言われたら怒るわよ、そろそろ口喧嘩は終わりかしらね」

 服の中で紙を手に持つ、不意打ちをする気はなかった、絶対に世界を守るという意気込みもない。あるのはやるだけやる、って良い加減極まりない気持ちだけ。

「そうねお終い、私は本気で終わらせる、世界の守り人がこんな残念でかわいそうな世界を!」

「本気なら返さなくて良いんですか」

 誰? どこかで聞いた事のある声が聞こえた、相手側の仲間? どちらにしろ嫌な予感しかしない。

「来てたのね」

「もちろんです、エリスが心配ですし、返した方が戦いやすいでしょう」

 岩陰から人が出てくる、1週間前にもこんな場面があったような気がした。出てきたのはあいつ、衝撃的でも何でもなかったし、むしろ同じ人が2人いるのかと思った。

「シオン……あなたやっぱり…」

 もしかしたら、とか、万が一、とか考えたりもしたけど、本当に私の考えが当たっていたのか、と思ったら自然に声が出た。

「心配ってなによ、私が負けるとでも?」

「違いますよ、俺が心配してるのはこっちです」

 無視か…こうして並んでいると本当にそっくりだわ、違うのって言ったら髪の長さと胸、それも微々たるものだけれど。三葉ちゃんがシオンって思うのもわかる、実際私もそうだった。

「ちょっとシオン、あんたそいつの肩を持つつもりなの? あれだけカナン大好きって言ってたのに…」

「裏切られた、って事ですか? 裏切ったつもりはないですし、エリスには借りてるものがあるので」

「なによ、借りてる物って」

「心です」

 心? 心って心よね、心を借りている…常識では考えられないわ。こいつは本当に何を言ってるのか分からない時があるし、今この状況が何を企んでいるのか分からない。

「あーはいはい心ね分かった、それであなたは世界を終わらせたいのね」

「悪い事ではないはずです、エリスは自分の耳であなたの口から聞いた、こんな世界はどうでもいい、だったらあなたが代わりに守ってよ、って。白花さんという残念な守護者から世界を救うんです、代わりにね」

 なるほど……大体つかめてきた、あの時のシオンはそのエリスとかいうもう1人だったのね、どおりで違和感があったわけよ。それで私がそう言ったから怒っている、と……、つまり裂け目の原因って私じゃない。私が世界に負荷を与えてた素って事じゃない。

 はぁ……ため息をつくと幸せが逃げるのなら、私の幸せは逃げてばかり。元々が幸せなんて持ってないから、失うものなんてないけど。それでもため息をつかずにはいられない、自分が引き起こした事件が自分を苦しめるなんて…。

「はぁ……それは分かったわ、じゃああんた達の関係って何よ、生き別れた姉弟とか?」

 戦いたくはなかったし、話を振るくらいしか戦いから逃げる方法が思いつかなかった。どちらにしてもこれは聞いておきたかったから、一石二鳥でもある。

「それを知ったら、あなたは恐怖する事になる、世界が終わる実感を持つ事になる、それでも聞きたいの?」

「うるさいわね、聞きたいって人が言ってるの、さっさと教えなさい」

「良いでしょう、私はシオンの心…シオンの能力でもある。おかしいと思わない? あなたたちの能力は言わば人工的、自然は変えられない。でもシオンは自然を…重力という概念を操る。シオンは私で私はシオン、その起源は私が壊した世界わたし、『エリュシオン』」

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