私の中の何か
「誰が灰色よ、私には白花って名前があるの、どう考えても白でしょ」
「いいえ灰色よ、あなたの中の物を吐き出すか一体化するまではね」
私の中ですって? わけの分からない事を並べて…そんな嘘八百で私を混乱させられるとでも思ってるのかしら?
卑怯な手なんか使っちゃって……子供騙しもいいところよ。ここは強く出るべきね、
「とにかく、さっさとそれを消しなさい。逆らうと…」
「逆らうと…何かしら?」
……! あれ…体が……
「どうしたのよ震えて、教えてよ、逆らうとなに?」
「ぐっ……う、うるさい!」
おかしい…体が動かない、いや…正確には動かせない。偽シオンがたった今言葉と一緒に表した殺気、それが私に絡みつくように動きを縛っている。なんだってこんな殺気を…私に恨みなんてないはずでしょ。
なんでこんな目に、怖い…私が動揺しているとでも言いたいのかしら。うぅ…若干こいつの話の内容について考えてしまった自分が何だかみっともない。
「はぁ……やっぱりモモにも言った通りあなたはダメね、特に自分の意思で動いてないところが」
「ふん、口は動くわよ。あんたのの目的は何よ、娯楽? 悪戯? それともこの世界かしら」
「ご名答、そうね…当てたからご褒美に猶予をあげるわ。約1週間後に私はこの世界を終わらせるつもり、どうせ今私と戦ったところであなたに勝ち目はない。だったら修行でも休憩でもなんでもしてなさい、世界を守りたいのなら、それに見合った行動をするといい。1週間後私は逃げも隠れもしないから」
……受けた方がいい…かしら、確かに今戦ったところで勝てる気はしない、それにこの人が嘘をついてるとは考えられない、これも勘だけど。
しかし気にくわないわね、私をおちょくっているとしか思えない態度、上から目線に他人に見切りをつける、でも逆らえない自分がいる。こんなやつは絶対に痛い目に合わせないと気が済まない、物騒な事だって分かってるけど、右頬をぶたれたらみぞおち5発はくらわせる気でいかないと。
「分かったわよ、それまで世界が消滅しないという保証は…」
「それ、貸してみなさい」
マリの手作り魔力探知機、これの事よね…まぁマリのだしいいや。
「ほら」
「……ふんふん、なるほどこうね。…はい、返すわ」
「何したのよ、罠でもつけたのかしら?」
「この裂け目の魔力を覚えさせておいた、これでその矢印は裂け目を指し続けるし、少しでも強くなると音が鳴るようにもした。音が鳴らない限りこの世界は終わらない、もちろん1週間後には大きくなるけれど」
まさかこいつ……ほんの数秒でその探知機の仕組みや機能を理解して応用したというの…、いくらマリの作った適当品でもそれは簡単じゃないはず、ますます恐ろしい。
「じゃあね霜月 白花、楽しみにしてるわよ」
…! ……消えた、裂け目は残ってるけど…どうしようもないわね。帰るしか…ない…
「痛っ……情けないわ、足がすくんで尻もちつくなんて」
ほんと、言葉にならないほど情けない、何でもできるって過信をバラバラに砕かれた、私の心は今スカスカになっている。
怖かった、おばけなんか比じゃない、蛇に丸呑みにされた蛙の気持ちが分かった気がする。じわじわと消化されるように、真綿で首を絞められている感覚だった、一瞬死を覚悟した。
「世界って広いのね、今更ながら知らされたわ…」
とりあえず足の震えが治まったら帰りましょう、修行なんてする気はないけど、せいぜいゆっくりと過ごすわよ。
「……白花さん…なんか悪い事しちゃってるな、俺たち…」
「ただいまぁ……今日はいないのね」
なによ、人がせっかくいると思って言ってあげたのに、これじゃあ言い損じゃないの。いつもなら勝手にお茶飲んで、くつろいで、たまには晩御飯の1つや2つ作ってくれたらいいのに。
もういいわ、あんなやつほっときましょう、さて晩ご飯作り…と。えーっと今日はの献立は何にしようかしら。………はぁ、
「……2人分作っておきましょう」
結局その日から1週間、モエミは1度もうちに来る事はなかった。探知機にも異常なし、世界の終わる運命の日…かもしれない日を迎える事になった。
(はく……ん…、はく…ゃん…、白花ちゃん!)
あれ…ここはどこかしら…、それにさっきから私の名前を呼ぶのは誰?
(白花ちゃん…なんで守ってくれないの? この世界は私の大好きな世界なのに…)
なによ…この洗脳が目的みたいな内容と喋り口調は…それにこの声、聞いた事ない声だ、誰だろう…
(そうよね、白花ちゃんは自分が良ければそれでいいのよね、私が間違っていたのかもしれない、あの時あなたに……を……した……が……)
声が…声が聞き取りづらくなってきた、なによ…あの時がなんだって言うのよ…、最後まで教えなさいよ…
「よし…紙はこれだけあれば十分かしらね」
結局今朝の夢はなんだったのだろう、不思議な夢だったわ。現実味があるというかほぼ現実と同じ様な感覚があったし、声だって普段生活している中で聞いているのと同じだ。
やっぱりこれも気にしたって仕方ないのよね、準備も万端だし、裂け目に向うのみ。
あとは気持ちを持っていくだけなんだけど……やっぱりいざとなるとやだなぁ、戦いたくないなぁ。いっその事このまま家で最後を迎えるのもいいかも、一瞬でみんな消えるわけだし、誰も私が悪いなんて分からないわよ。
「こら、まだ行ってなかったの?」
「きゃっ‼︎ ……なんだモエミじゃないのよ、びっくりさせないでよ驚くから」
「そうじゃないでしょう、どうせまたこんな世界なんていいや、とか思ってたんでしょう」
ぐっ、さすがモエミ詳しいわね。分かってるのなら放っておいてほしいのだけれど、そうはいかないからモエミも言ってるのよね。
「そうよその通り、裂け目探しに一生懸命になっていたのが嘘みたいにね。それよりこの1週間どこにいたのよ、たまには顔見せなさいよね」
「あらら? ちょっと前まではなんで来たの、とか言ってたのに…」
「…! うるさいわね! 身勝手なあんたの保護者として心配してあげたのよ。……分かったわよやりますやればいいんでしょ!」
あーもう恥ずかしい、マリがいなかったのが唯一の救いだわ、いつもなら喧嘩してる時でもいるから。
恥ずかしい勢いで言っちゃったけど、ここまで来たんだし仕方ないわよね。
「よろしい。心配しないで、お母さんがついてるから」
「やめてよ知らない母親の話なんて、それとも今のは自分を指してるの?」
「両方よ、私だってあなたのお母さんにはお世話になったの、その人を差し置いて母はやれないわ。…気をつけて行きなさい、いざとなったら私も何か手伝うから」
なによ…恥ずかしい事言っちゃって…、だったら最初から手伝ってくれてもいいのに、モエミのこういうところ本当に分からないわよ。




