どこかで見た顔
この世界での情報収集といえば町、これがお約束だ。今回は人に聞くよりも図書館で裂け目について調べるのが得策だろう。変に住民に不安を与えてはいけない。
というわけで、おれは偽物について人から聞く、3人は裂け目について調べ物、実際に探す班の2つに分けられた。
三葉さんの『裂け目の場所が知りたい!』は不発だった、どうやら力に見合っていないらしい。そう楽にはいかないよね。
さて、裂け目の方は3人に任せておれは偽物を探すとするか。幸い今はカナンの全状況がわかる、裂け目はエネルギーみたいな物だから分からないけど……人なら絶対にわかるはずだ。
しかし美良さんも沙奈さんもすっかり商売人だ、おれが「偽物に好き勝手させたら薬屋の信頼が損なわれる」って言ったら「早く行け、悪者にはお灸を据えろ」だとさ。さっきまで寝てろって言ってたのに、手のひらクルンだ。
ま、おれも商売人には間違いない、……はっ! もしかしたら別の薬屋の嫌がらせ⁉︎ ……ないない、カナンに草花以外の薬屋はないからな。
うーん、だとしたら一体誰がなんのために、その人が裂け目と一緒に消えたっていうのが気にかかる。世界を終わらせたいのなら消す必要はない、何か理由があるはずだ。
でもそれがわからないんだよな、もっといろんな観点から物を見よう。
そいつは先週、白花さんの前におれとして現れたらしい。おれの真似をする、という事は少なくともおれを知っているはずだ。かなり人数がしぼれる……わけではないか、別におれが知らなくても相手は知ってる可能性もある。
そして1番気になっているのは1.01倍になったカナンの重力、これと裂け目は関係しているとしか思えない。おそらくストレスってのは重力だ、重力が裂け目を作り出しているんだ。
そしてそれをいい機会だと利用している……でもそれじゃあさっきの考えと矛盾するな、裂け目を消せるのならまた出現させることだって可能なはず、利用している説は弱い。
あーもうごちゃごちゃしてきた、頭がもんじゃ焼き状態だ。少し落ち着こう、あそこの茶店で落ち着こう、お金持ってきててよかった。
「お姉さん、お団子とお茶もらえるかな? そうだな……よもぎにしようかな」
看板娘さんであろうお姉さんに注文する、今日は他に誰もお客さんがいないみたいだ。お店には悪いけど静かでいい。店の椅子に腰掛けてお茶とお団子を待つ。
さてさて、考え事の続き続き。えっとどこまでいったかな……確か矛盾しているってところまでのような気が…
「すみません」
女の人に突然話しかけられた、お店の人ではなさそうだ、服が違う。おれと同じくらいの身長、おれと同じくらいの歳だろう。顔を見てみる、あれ……この人の顔どこかで……だめだ思い出せない。
「あ、なにか?」
いけない、思い出すのに夢中で返事するの忘れてた。あ、とか言っちゃったけど怒ってるわけじゃないから、気を悪くしないで。
「あの…ご一緒していいですか? 私1人に慣れていなくて、でも迷惑でしたら…」
「別にいいけど……うん、じゃあ一緒に…でもお金は自分のしかないから、そこんところよろしく」
変わった人、誰もいないから座りたい放題なのに1人は慣れてない、だって。だったら最初から誰かと来ればよかったのに。
ま、いっか。この人静かそうだし、世間話くらいならおれでもできる。
「お待たせしました、よもぎ団子と…お茶……です……」
お店の人に顔をジロジロと見られる、なんだ? 顔に何かついてるのかな…でもさっきは見られなかったし…あっ、なるほどこの人か。いきなり人が増えたから驚いてるんだ。
「すみません急に、私もこの人と同じものをいただけますか」
「あっ…は、はい。かしこまりました……」
どうもおかしいなぁ、珍しいものでも見るような目をしてた、おれが女の人と一緒にいるから? でもお店の人にそんな事を心配される筋合いは無いし、この人とは無関係だ。……気にしても仕方ないか。
「えっと、先に食べてていいかな? お茶冷めちゃうし」
「もちろん、待つ必要はないですよ」
あぁどうも、なんかこういうのって待ったほうがいいのかな、とか思ったけど、さっき会っただけの関係だし、気にすることなかったかな。
考え事……するのはさすがに失礼かな、ある程度時間はあるし、図書館へ行ってからでも遅くはないだろう。
さてさていただきますか、2本で200円お茶付き、リーズナブルで味もなかなか良い、おれ的にヒット。少しして彼女にも団子がきた、やはり変な顔で見られる。
「あの…」
先に口を開いたのは彼女だ、それほど気まずくはなかったのだが、1人に慣れていないと言った手前、黙っているわけにもいかないのだろう。
「あの……私実はカナンの人間じゃないんです、ちょっと前にここに来たばかりでまだ慣れてないんです」
いきなり…ってこの人も外の世界の人間か。
「そうなんだ、おれも君……あなた…? まぁいっか、おれも同じ外の人間だよ。もっとも何ヶ月か前に来たばかりの新米だけど」
「えっ、そうなんですか? この世界…好きですか?」
グイグイ来るなこの人、この世界が好きか? そんなの決まってる。
「そりゃまぁ、おれは好きかな。こんな言葉似合わないけどさ、家族のようにこの世界を愛している……ってね。あー似合わない、なんかごめんねいきなり」
「いいえ、素敵だと思います。私その言葉好きです、あっ…そろそろ行かなきゃ、ごめんなさい、お先に失礼しますね」
あれ、いつの間に団子食べたんだろう、おれなんてまだ1本残ってるのに。おれが話してる時かな、まあいいや。
「あぁはい、さようなら」
「ええ、さようなら」
さて、おれもさっさと食べて図書館に行こうかな。……美味しい、このよもぎの風味が…
「次に会うときは、協力していただけることを願っています…」
「⁉︎ ゲホッゲホッ!」
団子が喉に……お茶、………はぁはぁ、助かった。
「ではまた」
彼女は笑顔を見せ、ゆっくりと店を出て行った。
なんだ……背筋が凍るかと思った。去り際に耳元で囁かれただけなのに、不気味だ…恐怖とは違ったものがあった。
誘惑とかそんな感じじゃない、協力だって……よく分からないけど、危ない感じがする。けど……なぜか安心する雰囲気の持ち主だ、優しい雰囲気の持ち主だ。
と、とにかく団子を食べきろう、今は偽物探しに集中しなきゃ。




