あの時の人達
草花を出てすぐ、そこでいつも薬草を摘んでいる。珍しい物じゃない限り、ここで全てまかなえる。
やはり医者いらずの森に店を置くという胡桃さんのアイデアは素晴らしかった。言わば、家を出てすぐにコンビニがあるようなものだ。
「あーほらそこ、そこにかゆみ止めの薬草。ん?足元だよ、踏みそう踏みそう。気をつけて、数はいくらあっても困らないんだから」
「ごめんごめん、シオン手際良くなったね、もう職人の域じゃない? 何ヶ月もやってるみたい」
まぁ実際は1ヶ月ほど美良さんより多くやってるだけなんだけど、多少は上手くなってるはずだよ。というか上手くなってなきゃいけない。
「………ふふふっ」
「どうしたの? また笑って、胡桃さんに怒られたのを思い出した?」
「だから違うってば。いやね、こうやってシオンとお話するのもなんか久しぶりだなぁ、って。不思議だよね、ずっと一緒なのに」
「あ、あぁ…………うん…」
「…? どうかしたの? やっぱりシオンなんか変だよ、喋り方だって変わってるし…」
薬草を摘む手が止まる、その代わりに鼓動は早くなる一方だ。別に美良さんと2人だからではない、問い詰められる犯人、という表現が最適だ。
言えないよなぁ…自分でも分かってるよ、嘘をついてるって。……そんな目で見ないでよ、罪悪感が増すから…。
言った方が…
「言った方がいいの……かな…?」
「何を? なにか隠してる事でもあるの?シオンが私に隠し事なんて10年早いわよ、ほら、言ったら楽になるわよ」
取り調べを受けている気分だ、気持ちのいいものじゃないな。それに言っても美良さんに良い事はないし、言ったところで理解できるか…
「ねぇ…?」
美良さんとの距離が近くなる。1週間経って慣れたとはいえ、こんなに近くで見るのは久しぶりだ。その吸い込まれるような瞳に口を開きかける。
「…じ」
「おーーーい!!!」
うわっ⁉︎ うるさい‼︎ なんだいきなり、急ではあるが耳をふさぐ。若干ではあるけど耳が痛い、この声以前どこかで…どこだっけ、確かものすごい間近で聞いたような…
「おーーーい!!!!」
だからうるさいって! さっきよりも声が大きい、近づいているのか?
「ねえシオン…なんなのこの声…」
美良さんも耳をふさいでいる、そりゃそうだ。こんなにうるさいんだから。
「知らないよ…でもどっかで聞いた事があるような気が…」
声はどんどん近くなる、人影が見えてきた。えっと…2人、2人だ。
「おーーーい!!!!!」
「うるさい、隣にいるわたしはあいつら以上にうるさいんだぞ、早く能力を抑えて」
「いたいっ!!!!!!」
………あ、うん。しばかれた、最後の「いたいっ」がものすごい響いた。というか誰?あの2人。
「ねえシオン、あの2人誰? シオンの知り合い?」
「いや、知らない。見た事ないんだけど…どこかで会ったような気がするような、しないような」
どんどん近づいてくる、完全に目視できる距離になった。やっぱりあの2人知らない、本当に誰だ? 道を聞きたいだけとか?
なんとなく、本当になんとなくだけど、変な事に巻き込まれる気がする。ん? 尻尾? 大声を出していた1人の体に隠れて、後ろでフリフリしているものが見える。
「ちーっす!」
「えっ…と、ち、ちーっす?」
軽いな…だから本当に誰なんだよ、それに後ろ、本当に尻尾だ。犬? 狼? どちらにしろもふもふだ、本物なのかな…
「…………ほら、言いたい事あるんでしょ?」
「うん……だけどさ、こういう事は今言うもんじゃ…」
いや、その前にあんたら誰なんだよ。とりあえず名乗ってもらわないと、名乗られても分からないけど。
黒髪セミロングの何か言いたい事があるらしい少女、こっちには尻尾がない。薬の文句か? そんなものは聞かない、というか言ったら1発殴っても…
「えっと…人違いじゃないの? おれたち君らの事知らないんだけど」
「あっ、そっか。あの時は変身してたもんね、ずっきー、能力使ってよ」
能力者か…本当にこの世界は多いな、それともうちの世界が少なすぎた? どうでもいいか、とりあえずこの黒髪少女は変身能力の持ち主なのかな。
「この姿なら見覚えがあると思うよ。『嘘つき遊び』」
おーすげー光ってる、……って言っても願いを叶えるってのがインパクト強すぎて若干見劣りするな。
光がおさまってきた、って…あっ! この人達!
「あの時の蹴られてた娘と大きな声の娘!」
「やっと分かったのね、変身する必要もないから能力解くよ。でだ、言いたい事っていうのはね、わたしと戦え、って事だ。いきなり言うもんじゃないとはわたし自身思ってるけどね」
じゃあやめてよ…なんで戦わなきゃいけないんだよ。理由がないよ理由が。
「悔しかったんだよねー」
「うるさい、なっちゃんは黙ってて。ともかくだ、あの時わたしは助けられなくても大丈夫だった。あんなやつ、わたしにかかればイチコロだったんだ。で、……あんたに助けられてちょっと悔しかった…だから戦え、わたしの方が強いと証明するために!」
「やだよ面倒くさい、過ぎた事は気にするなよ、ずっきー」
「ずっきーと呼ぶな! わたしの名前は鬼灯だ!」
知らないよそんなもの、なんて呼べばいいかわからないんだから「ずっきー」しかないじゃんか。
というか美良さんどこいった、見当たらないけど…あっ、いた。木に隠れてる、相変わらずそういうところは変わってないんだな。
「はぁ…どうしてもたたかわなきゃだめなの?」
「ん……まぁ…できれば…」
どっちなんだよ、はっきりしないなぁ。
「まぁまぁ、戦ってあげてよ、ね?」
なっちゃ……尻尾の娘、なんでこうなるかな…面倒くさい。
「わかったよ、でもすぐ終わらせるよ。ちゃっちゃか終わらせないとお昼ご飯に間に合わないからね」




