いつ以来かしらね
(まず…っ!)
こんなの避けられない、なら…!
「変えられるなら!変われ服!」
とっさに服を衝撃吸収材に変える。鉄に変えなかったのは、我ながらいい判断だわ。もしも鉄だったら弾がどこかへ跳ね返るかもしれないからね。
少しの攻撃はくらってしまったけど、まともにくらうよりマシだ。水の中の豆腐のように衝撃はあまり問題ではなかった。
「あっ、できた。へーこうやって撃つんだ」
えっ…今なんて?まさかこいつ初めてで10発を同時に…そんなことできるの。これは早くカタをつけないと、負けるかもしれない。こいつはある程度の戦闘センスを持っている。
「よし、ここからが本番ですよ!」
彼は怒っているようではあるが、依然丁寧な口調はぶれない。その口調が、私を小馬鹿にしているように感じ、さらにイライラしてくる。
「次は20発くらい!」
彼はどんどん弾を撃ってくる。
「もうっ…こうなったら広い空に逃げるしか………くそっ、どんどん撃ってくる…」
空を飛んでもこいつは正確に狙ってくる、それに体も重いし、くそっまた避けられない…だったら…!
「変えられるなら、紙を鉄に、盾になれ!」
大きめの紙を鉄の盾に変えて防ぐ、けど…何発か掠ったわね、血が出てる。
空を飛ぶ私と地上で私を狙うシオン、その様はまるで鳥を狙う猟師と、逃げ惑う狩猟対象のようだ。
(私も攻撃しなきゃ…でも…)
「いくら投げても無駄ですよ!」
縦横5センチの紙を鉄に変えて投げる、でもそれは最初に投げた時のように重力で簡単に落とされてしまう。
いけない、完全に形成逆転されてる。私の攻撃は届かないし、体ももう限界に近い。何か策を練らなきゃ…
(そうだ…これだ!)
逆転の鍵が私の目に映った。いや、この森に入った時からすでに見えていた。これだ!チャンスは一度、失敗すればやられる。
「やるしかない!」
必死になっていた私は無意識に言う、これがダメなら諦める。
「何をするのか知りませんけど無駄です。胡桃さんを侮辱した罪を償ってもらいます!」
彼は薬草の上に立ち、魔力の弾を撃ち続ける。そうだ、そのまま、そのままずっと撃ち続けてなさい。
体は未だに重たいままだ、でもそんな事は問題じゃない。体に最後の力を入れ彼に向かい超低空で飛ぶ。
「…⁉︎近づいてくるのなら当たりやすくていいですよ!」
より激しくなった攻撃を避ながら彼に近づく。やった、第1段階成功。
「変えられるなら!」
彼の左側をかすめるように横切る、瞬間に私は彼の足下の薬草を滑りやすい素材に、彼の背後の花を鉄に変える。
第2段階成功、このまま…
「すぐ後ろにいるのなら当てるのは簡単…⁉︎」
「ごめんなさい、もうあなたには無理」
さっきまで使っていた剣の先を粘着質に変える、それをこいつの背中にくっつけて引っ張る。反動がついているから引っ張る力は少なくて済んだ。
「あぶな…うわっ⁉︎滑っ…⁉︎」
第3段階と共に作戦は成功、引っ張られた彼は踏ん張った。その所為で足を滑らせ後ろに倒れそうになる。よし!後ろには、剣山のように変化した花や蕾が待っている、倒れれば背中は悲惨なことになるわ。
「転びなさい!」
「がはっ…‼︎」
鉄に変えた花に血が降りかかる…事はなかった。
「なんで…なんでそんなに飛ぶのよ…!」
彼は近くの大木に打ち付けられている。転んでいるのは私だ、反動がついていたとはいえ…軽すぎだ。
「いてて…いけない、元に戻すの忘れてた…」
で、でも予定とは違ったけど、ある程度手応えはあったようね。
待って、元に戻す…
なるほど、私とは逆に自分にかかる重力を小さくしていたのね。ははは、なんだそれだけだったのね…
「ははは…もうだめ、疲れた…」
私は全身の力が抜けていくのを感じる。ずっと2倍以上はあろう重力の中で動き回っていたのよ、丸一日働いたってこんなに疲れないわよ。
「はぁ…こんなはずじゃ…」
情けなくて涙が出てきた。最初の威勢はどこに行ったんだろう、この外道を倒すと言ったあの威勢は。
立つのさえ苦しくなり、膝から落ちる。
「はぁ…はぁ…ちょっと時間かかっちゃったけど、とりあえずよかった。さて、とりあえず気絶してから連れて行きますか。」
この外道に慈悲はないのか。いや、私もこいつに散々ひどいことを言ったんだった、それじゃあ仕方ないわね。
足音が近づいてくる、あぁ私、死ぬのかな。もうそれでいいかも、この世界から逃げられるのなら、それで。
さっさっ…ガサッ…音だけが聞こえてくる、顔を上げるのも辛い。
何の音かしら…いや、そんなものどうでもいいわね、はぁ…私の人生、短くて最悪で何の充実感も無かったわ…でも…
でもここで諦めたら、マリや町のみんなを裏切ることになってしまう。最後の抵抗くらいやってやるわ、やらなければ気が済まないもの。
ポケットの中から一枚の紙を取り出す、使いすぎた所為でこれが最後の1枚だ。
これを…あいつに…!
「あらあら、心配になってきてみれば。大丈夫、白花ちゃん?」
いつぶりかしら、こんなに安心したのは。いつぶりかしら、この人に感謝するのは。
「モエミ…それ、どうしたの…?」
目に映るえぐい光景、光の槍のようなものに体を貫かれて倒れているシオンと、それをやったであろうモエミの姿。
でもそんな事はどうでもよかった、私にはどうしている、という疑問より違う感情が湧いた、この人に護られていた頃の感情だ。
「…⁉︎」
まずい、泣いてるところ見られた。途端に恥ずかしくなり、私は無理に立ち上がる。
「何しに来たのよ!余計なことしないで!」
いつも通りモエミに強く当たる。でも、いつもの嫌味は出なかった。今私はモエミに感謝している。
「何しにって、気になってちょっと覗きに来たら、白花ちゃんが拉致されようとしてたんだもの。母親代わりとして見過ごせないわ」
ちょっと気になったから、ってこんなところにまで来るには時間がかかるのに。モエミの能力があってこそだろう。
「よくここが分かったわね…こんな広い森で…」
「もちろん『すぐに行くから』で来たわよ。瞬間移動は便利よね」
「はぁ…本当に便利だったら私も送ってよ」
「だって私にしか使えないんですもの。さあさあ、休んでる暇はないわよ。日が昇る前に、相手の本陣に乗り込まなきゃ!」
他人事だと思って無茶を言うなぁまったく、でも今だけは文句を言えない。
「わかってるわよ。ほらさっさと行くわよ」
「え?私はもう帰るわよ。」
「あーもうわかったわかった、じゃあね」
私は敵の本陣に向かう。振り返るとモエミは笑顔で私を見ていた。
「ありがとう、モエミ」
「さて、この子…ちょっとまずいわね」