暴走って怖い
「何よそれ、つづみさんであってつづみさんじゃないってこと?シオンってそんな抽象的な事言う人だったかしら?」
「いや、だから、説明が難しいな…あっ、ほら始まった」
始まったって何がよ……うわっ、なによこれ…
つづみさんの目、口、傷から紫色の煙が出てきている、モクモクと昇る怪しげな狼煙のような煙は、弱まる事なくつづみさんから抜けていく。
いやいやこれ大丈夫なの?人間から煙…しかも紫色って、毒物としか考えられないのだけれど。うわうわうわ…怖い怖い、特に目から出てるのが怖い。
「おーすごい、気持ち悪いほど出るねー」
「ね、ねぇシオン、これは……大丈夫なの?」
「ん?あぁ大丈夫大丈夫、身体に悪い物は全部出さないと」
身体に悪いって…見てるこっちが気分悪くなるわよ。あっそうか、目を瞑って見なけりゃいいのよ、これはいい考えだわ。
「よっし、治まった。どぉれ、傷は治ってるかなっと…おお治ってる、よくわかんないけどよかった」
なんだ、目を瞑ったらすぐに終わっちゃった、もっと早く気付いていればよかったのに…まあそんな事はいいのよ、とりあえず説明をちょうだい。
「ねぇシオン、いい加減教えなさいよ、どういう意味なの?つづみさんであってつづみさんじゃないって」
「うーんと…俺がばらばらになってクリスタルに吸い込まれたでしょ?その時になんとなく感じたんだよ、あのクリスタルが普通じゃないって。あれはおそらく負の魔力でできている、その中に閉じ込められちゃったらさ…そりゃああなるよ」
へー…クリスタルって何?
いやまあ、信じられた話ではないわね。そもそもシオンが不死になった、ってのが信じられないんだもの。うーん…まあ要するにさっきの煙は負の魔力って事よね。
うーん…わたしも長い間『世界守』をしてたけど、こんな奇妙な事は今まで体験した事ないわ。そうよ、よく考えてみればシオンが来てから奇妙な事件がよく起こるようになったのよ。もしかしてモエミが事件を持ってきてるんじゃなくてシオンが…
…あれっ?シオンどこに行ったの?あっいた、ルカの所だ。
「えっと…ああいたいた、この人もなんか可哀想な人のようだし、今回だけはグーパンで許そうかね」
えっ…そんな気絶してる人に……うわっ!やった…本当にシオン変わったわね…でも殴ったら薬使うんだ、何がしたいのか私には分からないわ。
「とりあえず砂丘は暑いからさ、場所変えようよ」
「あっはい、分かりました」
なんとなく敬語になってしまった…
砂丘の近くの森に来て30分くらい経ったかしら、まだ2人は目を覚まさない。少し…いや、正直に言うとかなり不安だ。1人は蹴りを入れられてから刺され、もう1人は首を絞められ気絶した後に殴られている。というかシオン酷すぎでしょ…
「ね、ねぇ…」
「ん?なに?」
「本当に2人とも大丈夫なの?胡桃さんの薬を疑ってるわけじゃないんだけどね、ずっと気絶してるから…」
「大丈夫だって、多分…」
あーもうやめてよ!そういうの1番怖いんだから…いやでも、そうだ刺したのも殴ったのもシオンだわ。だったら私は関係ないんじゃないかしら…そうよそうに違いないわ。
「うっ、ううん…」
あっ、ルカが起きた。本当に大丈夫だったんだ、シオンが喉の薬とか言って無理やり飲ませてたけど…本当にそれで喋れるようになるのかしら?絶対に喉を潰されてるわよ。
「…あれ、ここは…」
おぉ…さすが胡桃さん、やっぱり憧れるわ。
「…!つづみ様、つづみ様は!」
「大丈夫、ほら、ここにいるから」
「つづみ様!つづみ様!」
この人…首を絞められたのに嫌ったりしないのかしら。いいえ、嫌う事なんて出来ないのよね、この感情は尊敬とか感謝とかいうよりも『愛』の方が正解なのかしらね。
でもよかったわ、ルカが首絞められたの覚えてて、「あんたらつづみ様に何をした!」とか言われたら洒落にならないものね。
「うーん…流果……?流果なの?」
「はい…そうです、わたしは流果です。本当によかった…ご無事で何よりです…」
「………本当に流果なの?ずいぶん大きくなったような…」
あーなるほど、25年ぶりに会うものね。それに水晶の中で時間が流れてたのかしら…それを考えると不思議すぎるわ。
「まあまあ、その辺の話は後でいくらでもできるでしょう。これで一件落着って事でいいじゃんか」
「全くあんたは…いいこと?これは2人にとっては重要な問題…」
「待って」
説教をつづみさんに遮られる、何かしら?
「貴方達2人、奇妙な未来が見える。10日…そう10日後、貴方達の運命を変える出来事が起こる。そう聞こえたわ」
あれ?これが神の声?さっきのつづみさんよりも精度が落ちている気がする。さっきは正確に当ててたけど今回は若干抽象的だわ。ま、まぁそれはいいとして…
「運命を変える?どういう意味ですか?」
「分からない、分からないけど神様はそう言った。きっと何かがあるのよ、それがいい方向か、悪い方向かも私には分からない。でも気をつけて、取り返しのつかない事になる可能性もある…」
そんな、急に言われても困るわよ。運命、か…もしかしてこの残念な世界から抜け出せたりするのかしら、だったらいいんですけど…
「ふーん、10日後か。まぁ楽しみにしてるよ、ありがとね。じゃあ俺はここで、まだ一軒仕事してない所があるので」
そういえばそうだったわね、仕事中に巻き込まれた…というより自分から巻き込まれに行ったのね。10日後…楽しみなような、不安なような。
「でもつづみさんすごいわね、読心術に瞬間移動まで…」
「えっ?そんな事出来ないわよ?」
「えっ?」




