私にとって、紙は無限の可能性
…私にどうしろっていうのよ、網で捕まえて一方的に斬りつけてやろうと思ったのに、こんな化け物…もとい神様にどう太刀打ちしろと?
攻撃を予見できる神様『モイラ』、作戦を練ってもすぐに読みとられる『全知全能』の能力、さらにはアテーナーとかいう神様の楯『女神の楯』とルーとかいう神さまの槍『ルーの槍』ですって?
ふふふ…私に地獄に堕ちろって言いたいのね。いや、つづみさんはそう言ってたわ。あーもう私の人生お先真っ暗、それともここで詰みなのかしら。
どっちにしろ悪い方向しかない、『死ぬか殺されるか』って感じだわ…
「貴女…神に許しを請いないのね、それなら死を選ぶ…そう考えているのね。」
「また勝手に人の心を…神様なら何しても許されるって思わないで。もともと私はこんな世界に未練なんてないの、今、私が死ぬ運命にあるのなら、喜んで死んであげる。でも私は今、ここで死ぬ気はない。理由は簡単よ、あなたにちょっとだけむかついてるのよ」
「………愚かな……愚か過ぎる。いいでしょう、アテーナー様の女神の楯で防ぎ、ルー様の槍で貴女を貫いてあげます。私に力をお貸しください…」
まーたお祈り風味な事を…それにしても楯に槍、少し違うけどなんかあの話を思い出すわね。攻略の糸口はそこにあるかしら?どっちが強いかはわからないけど…
「……‼︎今度は盗みまで…貴女はいくつ罪を重ねれば…」
「きゃーきゃーやかましいわねえ、あなたそのうち蚊を殺しただけで死刑とか言い出すんじゃないの?ばっかみたい、そんなに神様が大事ならずっと祈らせてあげるわよ」
数をかなり消費しちゃうけど…仕方ないわね、変えられるならの真の恐ろしさを見せてあげるわ。
「さぁ飛ぶわよ!」
空へ向かう、おそらくつづみさんも飛べるのでしょうけど、飛ばせなければいい。孫子の兵法に「高きによって低きを視るは勢いすでに破竹の如し」っていうのがある、これでいきましょう。
「変えられるなら、こんな紙は好きかしら?」
紙をチラシのごとくばら撒く、自由に落ちる紙が風に乗る事はない、風に流されない程度の重さをもたせたからだ。
「………はい、そうですね。あの者を見る限り、紙が無くなれば自ずと私達の勝ちです。モイラ様、避ける道はありますでしょうか………はい、そんな事が…はい、ありがとうございます」
まるで電話をしているかのようなその人に紙は降り注ぐ。神は味方しても紙は味方しない、スッと何枚かが砂に落ちる。
つづみさんは私が紙を何に変えたかを知っているのだろう。ルーの槍で払ったり走って避けている、狙い通りと言えばそうなんだけど…やっぱり見抜かれてる。
私は紙を落とす時、最初と後で落とす種類を変えた。後に落とした物は爆破物、最初に落としたのはそれを爆発させる為の起爆装置だ。それぞれは魔力で繋がって装置を踏んだら爆発…だったんだけど…
「残念ね、軽く浮けば踏む事はないのよ」
足も動かさずにスーッと移動するつづみさん、なんだか滑稽だ。決め台詞を言いながらスーッ…ふふっ、笑っちゃ悪いわね。それに笑ってる場合でもないし。
「どんどん落とさないと、このままじゃ…」
「泥棒もできない?」
爆弾を落としている私に大声で話しかけてくる。
「泥棒とは失礼ね、ちょっと借りたいだけよ」
「というわけで…貸してね?」
「なっ…‼︎なぜ後ろに…」
もう遅いわよ、私は槍を掴む。
「ちぃっ!」
あっ!…もう、せっかく掴んだのに…消されちゃった。
「嘘…じゃあ今も空を飛んでいる彼女は…!いない!紙が落ちてきてる…まさか貴女⁉︎」
「さあね、おかげで半分以上の紙が無くなったわよ。あなたが避けている間に少しは回収できたけどね」
「ぐっ……」
悔しがってるわね、全知全能でもつづみさん自体は神ではない、自分の未来は分からないようね。それに偽物の心だけでこっそり近づく私の心は読めなかった、おそらく目で見ないと分からないようね。
紙分身は成功したけど…奪うまでには至らなかったか。
「さて…と、紙も補給できたし…ん?えっと…ちょっと待って…」
えっ、あの人紙の心も読んだの⁉︎神様凄すぎでしょ…
「ま、まぁいいわ。でも分身はいい作戦だったわね、もっとも、同じ手が通用する相手とは思わないけど」
「………」
「ん?どうしたの?」
「……許さない」
ん?変ね、何か様子が…
「絶対に許さない!いくら神を冒涜すれば気がすむの、お前には死よりもむごい罰を与えなければ神様は気が済まない!2度と生まれ変われないようにこの世界、この世の概念から消し去ってやる!これは神の意思だ、神の命令だ、お前の運命だ、運命に逆らうことは許されない!!!」
うわぁ…暴走してるよこの人…さっきまでも普通じゃなかったけど、今はもっと普通じゃないわ。ルカが見たら泣くわよ。
「はぁ…鬱陶しい、でもこんな狂気に満ちた人をほっとくわけにもいかないわよね…、嫌だけど仕方ないかしらね」
人の命を軽く見ている…ね、今の私は確かにそうかも。目の前の人を軽く見ているもの。でもこの人を倒したらルカも……いいえ、一緒に楽にしてあげれば…
そのためにもあのなんちゃらって言う槍を奪わなきゃ、あの楯を貫けるのは同じ神の武器だけでしょうに。
神様はこんな私を悪魔とでもいうのかしら、残酷で愚かな人間とでもいうのかしら。なんにせよ、今のこの人は神様でもなんでもない、本当の化け物よ。
罪悪感は多少あるけど…世界守の使命としてこの人を倒す。




