砂の水晶
「長いわよ…」
「そうか?かなり省いたんだけどな、本当ならあと2倍の長さがあるからな」
長いわよ!昔話って普通は短いものじゃないの?それに普通はいい感じに終わるはず。いやそれよりも…
「35歳って子供なの?私からすればおじさんなんだけど…」
「あぁそうか、そういえばさっきの娘も言ってたよ。その世界の住民は成長が遅くて、寿命が長いんだ。35歳は君たちの7歳と思ってくれ、ちなみに今のわたしは95だから君たちの言うところの19歳だ」
嘘っ⁉︎95歳…95年生きて私たちの19歳、あと何年生きるのよこの人…
「ま、まあいいわ。で、それがなんだっていうの?確かにひどい話ではあるけど…ただの昔話でしょ?」
「……君は気がつかないのか?わたしの読んでいた25年前の頃の渡界者が書かれた本、死体の無くなったつづみ様、わたしとその世界の生命は同じ長さ、そしてその話の25年後が今だとしたら…」
まさか…いやでもそんな事、そんな奇跡…というより偶然があるっていうの?とても信じられた話じゃないけど、多分…いや確実に…!
「わたしはあの本につづみ様の名前を見つけた、そして情報を得た。25年前、不思議な色の鎖に拘束され、その上に水晶で固められた謎の物体がこの砂丘に降ってきたと、そしてそれをあの子供の一族が埋めた事を。皮肉な話だがその封印を解くには生贄を必要とする、人を大切に思うつづみ様がこんな事をするわたしを許してくれるとは思っていない。だがそんな事は今のわたしにはどうでもいい。つづみ様に謝りたい、説教は一度に受けるよ…」
生贄…シオンが…?…まずい!今すぐに止めないと…‼︎
「もう遅いよ…、わたしの最良の日々は過ぎ去った、それを取り戻す」
毒で気を失い、横になっているシオンの周りに魔法陣が現れる、それは暴力男…ルカの蝶と同じように怪しい紫の光を放つ。
茶色の砂丘が、一瞬だけ紫に染まる………
眩しい…でも少しずつ視力が回復してきた、今わたしの眼の前に何があるのか、それを早く…
「………つづみ様……」
薄い紫色の馬鹿みたいに大きい水晶、出てきたものはそれだった。色の所為で中はよく見えないけど、本当だ…確かに鎖と人のような影が見える。
この人が綿茂 つづみ…顔はよく見えないけど、案外若いのね。
「つづみ様…今、その水晶と鎖を…」
視力が完全に回復した、中もはっきり見える、四肢を鎖で繋がれているようだ。つづみ様であろう人は力を入れる事が出来ないのだろう。だらーんとしている。
「…っ!シオンが…」
シオンが水晶に吸い込まれていく…と言うよりはシオンの体が魔力になって、水晶全体に行き渡るみたいだわ…。綺麗な紫が青色に変わっていく。
…ヒビだ、水晶全体にヒビが入っていってる。バキバキと音を立てて、欠片が少しずつ落ちてきた。それは空中で砂になっていく、この砂丘は水晶でできたものなのかしら…こんな所で技の練習してたキアレが怖いわ。
「復活だ…!つづみ様の復活だ‼︎」
水晶がバラバラに砕け散る、鎖も外れた。
「浮いてる…」
すってん落ちると思ってたけど…ふわふわと降りてきている。さっきのシオンの時ようにルカが蝶で支えているわけじゃない、つづみさんが自分で制御しているんだわ。
ふわふわと、それこそ蝶のようにふわふわと降りてくるその人は、さっきの昔話の通りにとても美しい。神々しさというか、ここら辺りの雰囲気がただの砂丘から神様のいる砂丘に格上げされるようだ。
「……ここ…は…」
「つづみ様…‼︎わたしが…わたしがわかりますか?」
「…流……果?」
「…‼︎つづみ様…!」
感動の再会…なのかしら、本当ならこれでいいのでしょうけど…人の命を奪った外界人をカナンにいさせるわけにはいかない、はぁ…仕方ないわね。
「っ!君、何をしようというんだ…?」
「決まってるじゃない、人を傷つけ、人の命を奪った外界人をカナンにいさせるわけにはいかない(らしいのよねぇ…)」
この人の能力と私の能力の相性は最悪、近接は完全に不利、鉄に変えた紙を投げても分解される。そもそもカビっていうのが難点なのよね、何にでも繁殖するから…
「流果…」
「つづみ様、下がってください。ここはわたしが…⁉︎」
「えっ…」
なんで…私の目がおかしいのかしら、いいえ違う、私の目は正常、だったらなんでルカの口から血が出ているの…。なんでつづみさんがルカの首を絞めているの…
「つづみ…様…」
ルカが力なく倒れる、おそらく気を失ったのね。なんかまずい事になってきたわね…この人まともじゃない…
「神は…」
何かしら…神?
「神の意志…貴女は死ななくてはならない…それが神の意志。神は私にそう言っているの、何人もの生命を奪った貴女は…」
ちょっ…ちょっと待ってよ、確かに私は…うん…沢山の命を奪ったけど…それは仕方なくなのに!私だってできるのならそんな事したくないわよ。
「あ、あはは…冗談ですよ…ね?そもそもが初対面の人に死ねなんて…そんな事を神様が言うわけ…」
「『神の声を信じますか』我が声は神の声と心得よ!貴女は命を軽く見ている」
見てないわよ…あなたこそ私の本当の心を見てよ。はぁ…私に神様はいないのかしら…




