この蝶、凶暴につき
「言い訳は聞かない、桃太郎みたいに倒してから洗いざらい話してもらうから」
「桃太郎ってそんな話か?まあいいさ、わたしには勝てない。本気で能力を使ったら…すぐに死ぬよ」
ふーん、あの蝶を…ね。動けなくなるってのは分かってる、噛まれなければ何の問題もないな。
重力も使えないし、まあ使えたところで相手の動きを止めてとどめなんて卑怯な真似はしないけども。
「お前も遠距離とみた、武器も何も持ってないからな。あの時の風、何か変わった能力だろうね」
そういえばそうだった…今日は薬配りだけだったから刀持ってきてないや…どうしよ、出そうと思えば出せるけど…疲れるしなー。
いやでもさ、変わってるっていうけど、
「あんたの能力の方が変わってるよ、噛む蝶なんてさ…まあいいか、はじめようや」
まずは能力を見極めないと、刀は出す。蝶に噛まれる事で何か効果を付与する…のは分かってる。でもあいつが言った「ゆっくり苦しんで死ね」、体が動かないだけの効果ではそんな事言えないよな…
「『この蝶、凶暴につき』闇雲は死だ」
男の周りに蝶が現れる、噛まれないように距離をとろう、とりあえず空だ。
「こっちだぞー、よってきなよ」
「そうだな…その程度なら」
…!目の前に蝶が…⁉︎嘘だろ、10メートルは離れてるぞ…と、とりあえず下がらなきゃ…
「ふむ…ちょっと足りなかったか、射程がばれたかな」
なるほど…おそらく射程は10メートル前後か、危なかった。あと少し近くだったら瞬殺されてた、こんなんじゃあの2人に格好がつかないよ。
しゃあない、さっさと出すもの出しますか。
「必要に応じて!」
「…⁉︎そんな能力を持っていたのか…」
右手に刀を具現化させる、うぅ…結構消費したな、これがあるからあんまり使いたくないんだよなー。
まぁそんな事言ってる場合じゃないよな、やった事はないけどうまくいくかわかんないけど、やんないとはじまらないか。
「例え刀を出せたとしても、動けなければ意味がないし、人を手にかけるのに力はいらないよ」
樅さんみたいなこと言うなぁこの人、できれば黙っててほしいよ、集中したいんだから。
でも蝶をどうしようか、選択肢は切るか…燃やすか…焦がすか、手っ取り早く燃やすか。初めてだけどうまくいくかな…?
「そうですかそうですか、10メートル程度ならスピードでなんとかなる。突撃あるのみ!」
たかが蝶に何ができる、噛むくらいだろう。お間抜けな本体は無防備、切れば勝てる。
「刀に炎を纏わせて切れば燃える、うまくいけよ!」
刀に魔力を送る、送った魔力をエネルギーに変換、炎に変わる。
「よし、成功!くらえ!」
「ほぅ…だが、小細工とは見苦しいな…」
蝶がひらひらと男に集まる、まるで盾のような形に集合した。
蝶を盾にしたところで守れるはずがない、男もろとも切り捨ててやる!
刀を振り下ろす、ちょうど刀の真ん中から先にかけて蝶の盾が触れた。そんな事は気にしない、炎で蝶を燃やしながら刀を下ろしきる。
「えっ…」
下ろしきった刀が不意に目に入った、なんで…なんでこんな事に…⁉︎
「無い!刀の半分から先が無い!」
どうして…あの蝶の盾が当たったところが無い。蝶は燃えて消えた、男の周りには蝶はもういない、一体何を…
「刀を腐らせた、今、分解されてそこらの空気と一緒になって飛んでるよ。この蝶は言わば毒物、カビでもウイルスでもなんでも作り出すことのできる化け物だ。さっきのはカビで鉄をばらばらに分解させた。そして…お前が燃やしたのは…」
「燃やしたのは…?………⁉︎」
あれっ…嘘だ、体が動かない。噛まれた時と同じだ、でも今回は噛まれてないのになんで…
「毒ガス、燃えた蝶の灰が毒の霧になった…それを吸い込んだらそうなるよ、どうだ?すごいだろ?」
すごすぎるわ!でもちょっと待てよ…動かないって事は⁉︎
(落ちる…!)
飛べない、頭から落ちていく。下は砂だけど…この高さから落ちて無事でいられるのか?嫌だ、もう死なないって決めたんだ。動け!
そんな気持ちとは違い体は正直だ、毒が神経を蝕んでいる。能力でクッションを…無理だ、作れない!
あっ、地面が目の前に………
「あーあ、あっけなかった。そこの君、君はかかってこないのか?」
「私は………私には関係無いもの。その人の付き添いよ」
シオンが頭から真っ逆さまに落ちたから頭が砂に埋もれると思ったのに…なんであいつ蝶で衝撃を和らげたのよ。せっかく面白いものが見られるとおもったのに。
それにしてもシオンのやつ、なんで重力を使わなかったのかしら。それに刀なんか出して…私の時はそんな事しなかったのに。
そんな事はいい、今、私が戦っても勝てる見込みがない。ちゃんと勝てる道を探してから戦わないと。落ち着いて、今は怒ってる暇はない。シオンには申し訳ないけど…ちょっと我慢しててね。
「よし、それなら見てなよ。すごいものが見られるからさ」
すごいもの?何するのかしら、ちょっとワクワク。
「そうだ…お前たちはわたしのしてた事を調べてたんだろ?だったら昔話でも教えてやるよ」
「…!そう、なら教えてもらおうかしら」
これは予想外、私もあれについては知りたい。それにマリが泣いていた理由、これも知りたかった。聞かない理由はない。
「そうか、じゃあ教えてやる。お前たちも読んだであろうあの本、あの本は外界から来た奴の名前が記録されている」




