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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第5章 『変わったね』と言われたくて
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細い路地で蝶は舞う

「何で私のお母さんが…」

 いけない、予想外というかいきなりすぎて頭が混乱している。確かに霜月しもつき 由藍ゆらんというのはモエミから聞いた私のお母さんの名だ。でもどうして、お母さんは世界守だったはず、でも私はこんな物書いてないし…ああもう!よくわかんない!

「おいキアレ、このシリーズの他の本ってどこだ」

「う、うん…今持ってくる」

 1分も経たずにキアレが別の本を持ってきた。内容はさっきと同じで名前しか書いていなかった。しかしそれらは同じ年のものは無く、書かれた年の長さもまちまち。書いている人の名前にも共通点は無い、ある1つの事を除けば…

「どういう事なの…書いた人の半分以上が『霜月』、一体これは何を書き表した物なの…」

 この歴史書(と言うよりは名簿のようにも見える)の書かれた意味、私の家は世界守以外にも何かしていたの?

「ねえ真知さん、この本の事本当に何もわからないの?」

「ええ、何を意図して書かれたのか、何の意味があって書かれたのかさえ。それと名前しか書かれていない理由、右と左の関係とたまに右が抜けている事、そして1番分からないのが何の記録なのかという事…」

「でも、でも何か1つくらい…」

「落ち着けハク、お前最初の目的を見失ってるぞ」

 マリが変な世界に行っている私を元に戻そうとする、そんな事言われても…こんな事があれば誰だって…

 いや、やめておこう。私がどうかしていた、親の事なんてどうでもいいって思ってたのに…まだ、まだどこかで想っているのかしら…

「ごめんなさい、私どうかしてたわ。うんもう大丈夫、ありがとうマリ」

 本当は知りたい、でも今は控えなければならない。そういう状況であるし、知らない事を聞かれても真知さんを困らせるだけだ。モエミなら知っているかしら…

「とにかくだ、話を戻すとこの本を歴史さんが熱心に読んでいた事は確かなはず。問題は何の為に読んでいたか…」

「やめて‼︎‼︎‼︎」

「何をだよ?」

「違う私じゃない、外から聞こえてきた…」

 何だもう、今日は厄日なのか?はっきり聞こえたし、私が外から聞こえたと言った以上無視のしようがない、というかマリはもうやる気満々だ。

「やめてって事は…私にとって助けてって事だ。ほら行くぞ!」

「はぁ…キアレ、代わりに…ごめん何でもない。そうよね分かった、行けばいいんでしょう」

 キアレの攻撃内容は狭い場所に向かないし、危険だからなぁ。それにシオンみたいに露骨に嫌われたら私の心が削られる。

 いつもの仕事の体力と精神の消費が4:6だとすれば、今日は1:9だ。肩と足取りが重い。




「なにをするんだ、痛いじゃないか」

 さっきまで壁に張り付いていた男が落ち着いた声で言う。明らかに能力者であろうその人は、さっきまでの少女を痛めつける人に見えないくらい落ち着いているから驚きだ。

「そう?その割にはピンピンしてるじゃんか。それに、おれにはこの娘の方が痛そうに思えるけどね。ほら、早くここから離れなよ」

 おれは2人に言う、だが冷静に考えれば傷ついた体で逃げる事が出来るだろうか。まずは手当が必要か…

「離れる?それは無理だね、もうそいつは動けない」

 その言葉を聞き、後ろを見ると蹴られていた少女の周りにはさっきの蝶がいる。ひらひらと舞っているものもいれば、少女にとまっているものもいる。

 いつの間に現れたんだ、おれはずっとこの男から目を離さなかった。ある程度の範囲なら出現させる事が出来るのか、それよりも蝶の効果が分からない。

「ここで戦う意味も無し、君に恨みはないけど…まぁ許せ、すぐに動けるようになるからさ」

 再び男の周りに紫色の蝶が現れる、本体を攻撃すれば消えるんだろうけど…もう手遅れか。

「それは…ずるいでしょ…」

 力が抜けて前にバタンと倒れる。男が自分の周りに出した蝶はフェイク、さっきまで少女に集っていた奴らに後ろからやられてしまったようだ。

 攻撃を受けてわかった事がある、おれはこいつらの鱗粉に何か効果があると思っていた。それは違う、僅かだが噛まれた感覚があった、おれはこいつらに噛まれたのだ。

「さて…動けない子供を始末するなんて赤子の手をひねるよりも楽な作業…だが最後に聞く、あの人はどこだ…」

 あの人…さっきも聞いていたな、この2人は泥棒じゃなくて誘拐犯か?体は動かないが脳は動く、とりあえず話から推理するんだ。

「………」

「もう口も動かないか、仕方がない。じゃあ…」

「おいみんなこっちだ!さっきの声はここから聞こえてきだんだ!」

 どこかで聞いた事のある声、確かこの声は鞠さんか?さっきの馬鹿でかい声が図書館まで届いたのか。

「チッ、」

 男は舌打ちをして逃げていく、ほとんど何も言わなかったから推理もできなかった。

 なんにせよ助かった、少しだが体に力も入るようになった。やっぱり出しゃばるんじゃなかったかな…


「大丈夫なの?ボロボロじゃない」

「………」

 おれが手当をする隣で白花さんが少女を心配している。だが寡黙な少女…というわけではないんだろうが一向に喋ろうとしない。

「よしできた、もういいよ。歩ける?家まで送ろうか?」

「………」

「ありがとうございます、もう大丈夫だって…」

 手当した少女とは別の娘が言う、そういえばいたなこの人。

「そう、大丈夫ならいいけど。ところで白花さん、その糸は何なの?」

 さっきから気になっていた、凧揚げのタコ糸のように空に向かって伸びるそれはキラキラと光っている。

「あぁこれ?マリがさっきの逃げたやつを追ってるから、後からついて来れるようにだって」

 なるほど鞠さんが、あの人は行動が早いな。じゃあ大丈夫らしいし、おれも追いかけますかね。

「じゃあ気をつけて帰るんだよ」

 そう言っておれと白花さんは空へと向かう。


「なんだよあいつ…」

「なんだろうね」

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