違和感がすごい
「お久しぶり、元気してた?シオン」
「あぁ白花さん、鞠さんも…何ヶ月ぶりかな」
「えっ…えぇ多分2、3ヶ月ぶりだと思うけど…」
あれ?何かおかしい…気のせいかな。
「そうか、もうそんなになるのか」
やっぱりおかしい、久しぶりだからかな…雰囲気がガラッと変わった気がする。特に口調、いつもの憎らしい丁寧さがなくなっている、何かあったのか?
それに目、なんか目が曇っていると言うか、光が入ってないと言うか、まるで自分には未来が無い、って考えているように見える。
「今日は読書?それとも何か調べ物でも?」
「え、えっとね…真知さんに聞きたい事があったん…です…」
いけない、調子が狂って私の方が丁寧になってしまっている。そんなに親しくないはずなのに、どうしても心配してしまう、それほど私の中では「憎らしい丁寧キャラ」が定着していたのだ。
「あらあら、今日はお客様が多いわね。お薬と…話があるのね」
奥から真知さんが出てきた、この人はいつも通りだ、早速能力で私とマリの要件を読んでいる。
「白花さん、先いいかな?すぐに終わるからさ」
「うん、別にいいけど…」
ありがと、とシオンが言い、てきぱきと薬の補充と使用した分の料金の請求をする。こいつが仕事をしているのは初めて見た、意外と真面目にやっているんだ。
「はい…それではまた何週間後に、ありがとうございました。ごめんね、もう終わったから」
「いいんだよ、こいつは今回もやる気ないから。それとなんかお前変だぞ、何か悪いものでも食べたのか?」
あぁ、聞くんだそれ。なんとなく聞いちゃいけないと思ってたのに、まあ私も気になってたから、よければ教えてほしい。
「そうかな…凪さんにも言われたけど別に何もないよ。むしろいつも通りだと思うんだけど…おれそんなに変?」
「いいや、お前が変じゃないって言ってんだから変じゃないんだろ」
いや、思い切り変だと思う。
「そうですか…じゃあおれはこれで、まだ仕事が残ってるから」
シオンは図書館を後にした、私も薬売りだったら危険な目に遭わずに済んだのかな?しかし私も往生際が悪いわね、そろそろ諦めたらいいのに…もちろん諦める気はないけど。
「悪いわね待たせちゃって、早速で悪いけど私は知らないわ」
あららそんなあっさり、せっかく2、3分待ったのに、返事が早すぎるんじゃない?
「ごめんなさい、でも知らないのよ」
「あっ…ごめんなさいそんなつもりじゃ…」
私としたことが忘れてた、心読まれてるんだった。どうしよう…何考えたらいいんだろう、晩ご飯のおかずでも…
「あらあら美味しそうね。うーん…でも歴史書ねぇ、アレサ知ってる?」
「いいえ、見た事ありません」
アレサも見た事ないんだ。はぁ…また町で聞き込みか。
「歴史書の人でしょ?それなら僕見た事あるよ」
後ろから聞こえてきた声に反応して、私とマリは振り向く。
「おおキアレ、それ本当なのか?じゃあなんで早く教えてくれなかったんだよ」
「だって、あいつがいたんだもん」
シオン…あいつ本当にキアレに嫌われているわね、私はあの時の被害者だけど、正直ここまできらうかな。姿も見られたくないって…ご愁傷様。
でも歴史さんを知っているというのは大きい、これで勉強家か怪しい人か判断できる。できれば…いや、勉強家であってくださいお願いします。
「歴史書の人でしょ、このシリーズの本を熱心に読んでたよ。特にこれをね」
キアレが1冊の本をマリに渡す、ちらっと見えたタイトル…『私がとった記録』だ、変なタイトル。
「なんだこれ…人の名前がページの右と左に分けて書いてあるだけじゃん。あっ、でも幾つか右が抜けてるな、こんな物が歴史書か?」
「うん、ほらここ…この数字が年を表しているんだ。正直僕も真知さんも、何の記録かは分からないんだけどね」
勝手に話が盛り上がっている、私も混ぜてもらおう。人の名前と年号だけの本、私にも見せてほしい。
「ふーん、2027年から2036年までの記録、随分と短いのね。今が2056年だから20年前か。マリ、書いた人は誰なの?」
「ちょっと待てよ………あったあった、えっと、霜月 由藍さん……。お、おいこれって…」
「嘘…でしょ?」
どういう事なの。どうしてその名前が…同名の人?いやでも年代もあってるし…けど私には信じられない。
「私の…私のお母さんの名前だわ…」
場は一斉に静まり返る、図書館である事を含めても異様なほどに静かだった。
「うーん…何が変わったのかなー、確かに強く生きようとは思ったけども。凪さんは性格変わったとか言うけど、変に明るくしようともしてないし、別にいつも通りなんだけどな」
おれは独り言を言いながら、次のお客様の元へ向かっていた。
美良さんがいない事はまだ慣れない、いや、慣れる時は絶対に来ないだろう。おれにとって美良さんは生活の一部だった。…変態みたいだな。
次で最後だし、終わったら三葉さんの所でも行こうかな。どうせ暇だし、占いの列も見えていたから、今日はやっているんだろう。
「おい、しらばっくれんじゃない!知っているだろう、あの人はどこだ!」
変わり者が住む町はずれと、一般人が住む町のちょうど境目あたり、そこを過ぎようとした時だ。普通ではない怒鳴り声が路地から聞こえてきた。
おれはそれをそっと覗く、おれより多分年上の男が1人、おれより多分年下の女の子が2人いた。
「知らない…知らないってば、やめてよ…!」
「……あぁ………あ………」
2人うちの1人は男に蹴りつけられ、1人は怯えてそれを見ている。すでに女の子はボロボロだ。
「………ほっとこ」
少し見ていたが…おれには関係ない、関わろうとするから大事なものを失うんだ、だったら関わらなければいい。ただそれだけの事なんだ。
あの2人はきっと何か悪い事をしたんだ、泥棒とか泥棒とか泥棒とか…、だったら仕方ない。さっさと次のお客様の所へ行こう。
「チッ…言わないのなら仕方ない、お前の親に聞くさ。だからお前はいらない、ゆっくり苦しんで死ね」
男が閻魔のような顔になる、その周りに現れた綺麗な紫色の蝶が、路地という暗い場所を幻想的な雰囲気に作り変える。
「やめて‼︎‼︎‼︎」
怯えていた娘が無意識に叫ぶ、凄まじい音量だった。近くで聞いてしまったおれは耳がキーンとしている。遠くから気がつかれないようにすれば良かったと、今更ながら思う。
「なんで関わっちゃうかな…」
おれは突風を起こして男を吹き飛ばす、家の壁に叩きつけられると紫の蝶は消えた、とりあえず言わなければならないのは、家の中の人ごめんなさいだ。多分びっくりしただろう。
「あなた誰?」
いきなり薬箱を持ち、路地に入ってきたおれを見て女の子が言う。
「通りすがりの薬売りだけど」




