久しぶりの事件
暑い…すぐ夏も終わるって言うのに、なんで暑さなの。残暑お見舞い申し上げなきゃいけないかしら。
しかしまぁ、この夏は平和だった。変な事件も無し、あったのはコソ泥くらいかしら?そのくらいなら、私が出る幕でもないけど。
こういうのを『嵐の前の静けさ』とでもいうのかな、……縁起でもない、やめとこ。
「はぁ…暑い…」
「だったら熱いお茶なんて出すなよ、何か冷たい物ないのか?」
私の出したお茶にマリが文句を言う。せっかく熱い中、お湯を沸かして淹れてあげたのに、こいつときたら…真知さんに礼儀を教わったんじゃないの?
「あのね、暑いからって冷たい物ばかり食べたり飲んだりしちゃダメなの、胃が疲れちゃうんだから。それとマリ、真知さんに教えてもらった事は…」
「あぁいいのいいの、私とハクは親友だろ?な!」
私の肩に腕を回してマリが言う、言い訳のようにも聞こえるが、私にとっては嬉しい言葉だ。親友…友達か、私って本当に友達少ないな…
まぁ、いたらいたで困る。だって私はこんな仕事をしている、巻き込んじゃ悪いものね。
「あんたはまったく…分かった、ゼリーで良ければあげるわよ」
「おお、さすがハク!そうこなくっちゃな!」
まったく調子いいんだから、と思いつつ、私は冷蔵庫にあるゼリーを取り出す。
「何味があるんだ?」
「抹茶」
最近の私のお気に入り、抹茶ゼリー。少し砂糖を入れただけ、マリの言う『シンプル』というやつだ。
「ごめん…やっぱりいらない。お茶があるからいい」
下を向いてため息をついている、
「そう?美味しいのに」
「それじゃあ私がいただこうかしら?」
どこからともなく聞こえてきた声、この流れは恐らく…いや、絶対にあいつだ。
「何しに来たのよ、最近来てないから静かで良かったのに…」
案の定モエミである、まったくこいつは…どうせまた事件を持ってきたんだろう。
「お久しぶり、最近は平和だったでしょ?いい知らせがあるわよ。運動不足解消にぴったりなんだけど、聞きたい?」
モエミは勿体をつけてそう言う、私が運動不足なのは平和の証拠、別に悪い事じゃない。
「はぁ…聞きたい?って、聞かなかったら私は何もしなくていいの?だったら聞きたくないわ」
私はため息をつき、嫌味を全面的に押し出す。遠回しに「いいから早く言いなさい」という意味を混ぜて。
それに気付いたからか、元々話すつもりだったのか、モエミはコホン、と咳払いをして、私とマリに話をする。
「ざっくりと言えば事件なんだけど…これを事件と言っていいのかしら、まぁそこはあなた達で判断してちょうだい。実は最近町で変な人がうろうろしてるらしいのよ」
へ?それだけ?えっと…どうしよう、何て言えばいいのかしら。
「なるほど、そいつは泥棒か何かか?」
私が言葉に困っていると、マリがそう言ってくれた。
「うーん、分からないわね。それでその人がよく出入りしている場所なんだけど…」
モエミがまた勿体振る、そんなに言いにくい場所なのだろうか。
「どこなの?場所によっては私も何とかするしかないから」
早く言ってほしくて私は嘘をつく、当然だけど今回も働くつもりは更々ない。
「あら?嬉しい言葉ね。それが真知ちゃんの図書館なのよ、何を企んでいるのか、何をしているのかは分からないけど…」
「何言ってんのよ、図書館って言ったら勉強か調べ物でしょう?それでなんで怪しいって言えるのよ。その人は勉強したいだけ、はいもうこの話は終わり」
私はそう言ってモエミを追い返そうとする、だがこの考えは本心からだ、別に面倒くさいからとかそんなんじゃない。
図書館で勉強したいだけの人を怪しむのは止めなさい、という念をモエミに飛ばす。だが、余計なやつがいたのを忘れていた。
「なんで怪しいと思ったんだ?モエミの事だから何かあるんだろ?」
マリのやつ…せっかく話が終わりそうだったのに、余計な事言って…はぁ、もういいや。どうせ今回もマリにやってもらうつもりだから、別に私には関係ない。
「えぇそうね、その人が町の人にこう聞いたんですって。『歴史に詳しいやつはいないか?』とか、『昔に流れて来た人を知らないか?』とか、ちょっと怪しくないかしら?」
またそれだけで…モエミは物事を悪い方向に考えすぎだ、ただ歴史を勉強したいとは考えられないのか。
そういえばマリはさっきモエミを呼び捨てしていた、もう諦めているのだろうか?
「歴史か…歴史と言えば知ってるか?カナンの不思議な力みたいな物は、何年か周期で強くなったり弱くなったりするらしいぞ。それから霜月家の歴史もすごかった、なんでも…」
へー知らなかった、そんな周期があるんだ。いやいや違う、こいつ私の嫌いな話を…
「どうでもいい事言わないの、その話は私が1番嫌いなんだから、私の前で言わないで」
私はマリの言葉を横から邪魔する、なんでマリがうちの歴史を知っているんだ、まぁ有名な家だから…詳しい人が町に沢山いるけど…
でもちょっと強く言いすぎたかしら、マリもまずい事を言った、みたいな顔をしている。はぁ…ちょっと意地悪だったわね。
「ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ。ほら、抹茶ゼリー食べる?」
「うん、貰おうかな。お茶とお茶だし合うよな、イメージで決めるのは良くないな」
それを食べたマリは微妙な顔をした、砂糖を控えめにしすぎたかしら?
「で、調べてくれるの?」
そんな中、モエミが空気を読まずにそう訊いてきた。なんか…断れる状況じゃない気がする。
「分かった、分かりました調べればいいんでしょ?」
「そう、良かったわ」
私が諦めてそう言った時、今度はマリが横から首を突っ込んできた。
「でもさ、モエミって良く事件を持ってくるけども…どこからそんな情報仕入れてくるんだ?」
そういえばそうだ、いつもいつも事件ばっかり…もしかしたらこいつが事件を作っているんじゃないか?
「あーえっと…まぁその辺は気にしないで。ほらほら、早く行ってらっしゃい、まずは情報を集めてね」
うまく…いや、適当に誤魔化された。まぁ放っておこう、私はいつになってもこいつを理解できそうにないと思った。




