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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第5章 『変わったね』と言われたくて
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久しぶりの事件

 暑い…すぐ夏も終わるって言うのに、なんで暑さなの。残暑お見舞い申し上げなきゃいけないかしら。

 しかしまぁ、この夏は平和だった。変な事件も無し、あったのはコソ泥くらいかしら?そのくらいなら、私が出る幕でもないけど。

 こういうのを『嵐の前の静けさ』とでもいうのかな、……縁起でもない、やめとこ。

「はぁ…暑い…」

「だったら熱いお茶なんて出すなよ、何か冷たい物ないのか?」

 私の出したお茶にマリが文句を言う。せっかく熱い中、お湯を沸かして淹れてあげたのに、こいつときたら…真知さんに礼儀を教わったんじゃないの?

「あのね、暑いからって冷たい物ばかり食べたり飲んだりしちゃダメなの、胃が疲れちゃうんだから。それとマリ、真知さんに教えてもらった事は…」

「あぁいいのいいの、私とハクは親友だろ?な!」

 私の肩に腕を回してマリが言う、言い訳のようにも聞こえるが、私にとっては嬉しい言葉だ。親友…友達か、私って本当に友達少ないな…

 まぁ、いたらいたで困る。だって私はこんな仕事をしている、巻き込んじゃ悪いものね。

「あんたはまったく…分かった、ゼリーで良ければあげるわよ」

「おお、さすがハク!そうこなくっちゃな!」

 まったく調子いいんだから、と思いつつ、私は冷蔵庫にあるゼリーを取り出す。

「何味があるんだ?」

「抹茶」

 最近の私のお気に入り、抹茶ゼリー。少し砂糖を入れただけ、マリの言う『シンプル』というやつだ。

「ごめん…やっぱりいらない。お茶があるからいい」

 下を向いてため息をついている、

「そう?美味しいのに」


「それじゃあ私がいただこうかしら?」


 どこからともなく聞こえてきた声、この流れは恐らく…いや、絶対にあいつだ。

「何しに来たのよ、最近来てないから静かで良かったのに…」

 案の定モエミである、まったくこいつは…どうせまた事件を持ってきたんだろう。

「お久しぶり、最近は平和だったでしょ?いい知らせがあるわよ。運動不足解消にぴったりなんだけど、聞きたい?」

 モエミは勿体をつけてそう言う、私が運動不足なのは平和の証拠、別に悪い事じゃない。

「はぁ…聞きたい?って、聞かなかったら私は何もしなくていいの?だったら聞きたくないわ」

 私はため息をつき、嫌味を全面的に押し出す。遠回しに「いいから早く言いなさい」という意味を混ぜて。

 それに気付いたからか、元々話すつもりだったのか、モエミはコホン、と咳払いをして、私とマリに話をする。

「ざっくりと言えば事件なんだけど…これを事件と言っていいのかしら、まぁそこはあなた達で判断してちょうだい。実は最近町で変な人がうろうろしてるらしいのよ」

 へ?それだけ?えっと…どうしよう、何て言えばいいのかしら。

「なるほど、そいつは泥棒か何かか?」

 私が言葉に困っていると、マリがそう言ってくれた。

「うーん、分からないわね。それでその人がよく出入りしている場所なんだけど…」

 モエミがまた勿体振る、そんなに言いにくい場所なのだろうか。

「どこなの?場所によっては私も何とかするしかないから」

 早く言ってほしくて私は嘘をつく、当然だけど今回も働くつもりは更々ない。

「あら?嬉しい言葉ね。それが真知ちゃんの図書館なのよ、何を企んでいるのか、何をしているのかは分からないけど…」

「何言ってんのよ、図書館って言ったら勉強か調べ物でしょう?それでなんで怪しいって言えるのよ。その人は勉強したいだけ、はいもうこの話は終わり」

 私はそう言ってモエミを追い返そうとする、だがこの考えは本心からだ、別に面倒くさいからとかそんなんじゃない。

 図書館で勉強したいだけの人を怪しむのは止めなさい、という念をモエミに飛ばす。だが、余計なやつがいたのを忘れていた。

「なんで怪しいと思ったんだ?モエミの事だから何かあるんだろ?」

 マリのやつ…せっかく話が終わりそうだったのに、余計な事言って…はぁ、もういいや。どうせ今回もマリにやってもらうつもりだから、別に私には関係ない。

「えぇそうね、その人が町の人にこう聞いたんですって。『歴史に詳しいやつはいないか?』とか、『昔に流れて来た人を知らないか?』とか、ちょっと怪しくないかしら?」

 またそれだけで…モエミは物事を悪い方向に考えすぎだ、ただ歴史を勉強したいとは考えられないのか。

 そういえばマリはさっきモエミを呼び捨てしていた、もう諦めているのだろうか?

「歴史か…歴史と言えば知ってるか?カナンの不思議な力みたいな物は、何年か周期で強くなったり弱くなったりするらしいぞ。それから霜月家の歴史もすごかった、なんでも…」

 へー知らなかった、そんな周期があるんだ。いやいや違う、こいつ私の嫌いな話を…

「どうでもいい事言わないの、その話は私が1番嫌いなんだから、私の前で言わないで」

 私はマリの言葉を横から邪魔する、なんでマリがうちの歴史を知っているんだ、まぁ有名な家だから…詳しい人が町に沢山いるけど…

 でもちょっと強く言いすぎたかしら、マリもまずい事を言った、みたいな顔をしている。はぁ…ちょっと意地悪だったわね。

「ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ。ほら、抹茶ゼリー食べる?」

「うん、貰おうかな。お茶とお茶だし合うよな、イメージで決めるのは良くないな」

 それを食べたマリは微妙な顔をした、砂糖を控えめにしすぎたかしら?

「で、調べてくれるの?」

 そんな中、モエミが空気を読まずにそう訊いてきた。なんか…断れる状況じゃない気がする。

「分かった、分かりました調べればいいんでしょ?」

「そう、良かったわ」

 私が諦めてそう言った時、今度はマリが横から首を突っ込んできた。

「でもさ、モエミって良く事件を持ってくるけども…どこからそんな情報仕入れてくるんだ?」

 そういえばそうだ、いつもいつも事件ばっかり…もしかしたらこいつが事件を作っているんじゃないか?

「あーえっと…まぁその辺は気にしないで。ほらほら、早く行ってらっしゃい、まずは情報を集めてね」

 うまく…いや、適当に誤魔化された。まぁ放っておこう、私はいつになってもこいつを理解できそうにないと思った。

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