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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第5章 『変わったね』と言われたくて
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『死なない』んじゃない

今回より第5章が開始します、第4章での出来事を引きずるシオンですが、救いの手は必ずあります。辛い事があれば必ず良い事がある、『塞翁が馬』というやつです。予測が出来ないところがカナンの良い所だと、私は考えています。


追記

6章までスランプ状態でした。書き方がダメダメだと思われます。いつか絶対に書き直します…

 俺は今、閉め切った自室の濡れた畳の上で横になっている。手には包丁を握り、腹にはそれで何回も繰り返し刺した傷痕、そう…自分で刺したのだ。

 畳は俺を中心にどんどん濡れていく、襖にも点々と赤色の模様が浮かんでいた。力が入らなくなる、もう1度自分の腹を刺す力が。

 なぜこんな状況になったか、それは30分前の出来事。




「というわけで…俺が美良さんを…」

 胡桃さんに「おかえり」と言われた約5分後、俺はウラであった出来事を胡桃さん達に報告する。涙はもう出てこなかった、他人はこれを非情というのだろうか。

「そう、辛かったのね。でもシオンは悪くない、気にする事はないわ」

「違います、俺の所為です。俺が美良さんを殺したんです、俺が殺ったんだ…この手であの人の命を奪ったんだ」

 俺の罪を否定する胡桃さんの言葉は俺に響いてこない、その全てが逆の意味にさえ聞こえてくるのだ。

「じゃあどうするっていうの?」

「俺も死にます」

「何馬鹿なことを言ってるの、あなたは私の薬で不死になったの、死ぬ事なんて出来ない。断言するわ、それと元に戻す薬なんて作れませんからね」

 胡桃さんは再び俺を否定する、別にそんな事はわかっている。いや、わかっているつもりだった。俺は少しだけ胡桃さんの薬に希望を抱いていた、もしかしたらと思っていた。

 が、この結果。当たり前だが、現実はなんでもうまくいく物語の世界とは違うようだ。

「いいえ、美良さんを殺したんです、俺も死なないと気がすまない」

「馬鹿ね、勝手になさい」




 ということがあった、そして今に至る。

 ちょうど力が入らなくなり、俺は息絶える。これで何度目だろうか、もう20回以上は繰り返した。20回以上血を流し、20回以上血が体に戻ってきた。

 濡れていた畳が綺麗な畳へと戻る、襖に飛び散った点々も同時に戻り、部屋は何もなかったかのような表情になる。

「なんで死ねないんだ…」

 俺は色々な方法を試してみた、

 さっきのように包丁で腹を刺したり、水に溺れてみたり、天井から吊るしたロープで首を吊る。

 目を刺し、耳を落とし、足を切る事もした。だが全て無意味、そこから死ねば全てが戻る。目も耳も足も、全て俺の体に内蔵される。

 試さなかった方法もある、いや…正しくは試せなかった、だろうか。

 1つは胡桃さんの薬の大量摂取、恩人の薬が死因なんて絶対に嫌だし、美良さんも反対だろう。

 もう1つは美良さんを殺した俺の能力、美良さんと同じように潰れて死ぬ事。重力が使えなくなっていたのだ、美良さんが潰れる前に朔日が「もらうよ」と言っていた、能力を奪われたのだろうか。

 それは俺にとって大打撃になった。戦えないからじゃない、俺には具現化能力だってある。美良さんと同じように死ねない、あの人と同じ痛みを感じることが出来ない、これが1番辛い。

「なんで…なんで死ねないんだ…」

 俺は俺を恨んだ、俺をこんな体にした胡桃さんを恨んだ。いや、胡桃さんを恨むのはお門違いだ。だって胡桃さんは言っていた、「この薬を飲めば永遠に辛い人生を送る」と。

 それがこれなのか、いや違う。今まで考えもしなかったが不死って辛すぎる。

 友達が死んでも俺は生きる、誰も知り合いのいない世の中で孤独に生きるんだ。例え友達ができたとしても、その人達もいずれ死んでいく。

 もっと言えば俺は不死だ、不老不死じゃない。永遠に生きる爺さんなんて…周りからすれば化け物でしかない。

 仙人になって生きるんじゃない、仙人とでしか生きられないのだ。

「なんでこんな事…」

 俺は俺を恨む、弱い自分を恨む。その度に美良さんを殺した感覚がリアルに蘇ってくる、思い出したくもない。

 最初は死なない体に感動していた、馬鹿みたいに、子供みたいに。でも違う、


 俺は「死なない」んじゃない、「死ねない」んだ。


「なんで…」

 俺の内側にある物が爆発しそうになる、怒りでも恨みでもない、別の何かがこみ上げてくる。

 もう何回も爆発しそうになっていた、でも…それが爆発したら諦めた事になる、自分が死ぬ事を諦めた事になる。

「なんで……」

 必死に我慢してきた、だが俺の精神はそれに耐える力を残していなかった。抑えていた蓋が爆発により吹き飛ぶ。

「なんで死ねないんだ!俺が、俺が悪いのに、なぜ死なせてくれないんだ!俺がやったんだ、俺の所為なんだ!だったらなんで…なんで死なせてくれないんだよ…」

 爆発したのは俺の弱さ、こみ上げたものは涙だ。そもそもこんな弱い人間が不死になる事が間違っていた、あの時死んでいれば、こんな事にならずに済んだのでは。

 いや、俺は逃げているだけだ。現実から逃げているだけなんだ、死んで辛い事を…美良さんを手に掛けた事を忘れようとしているだけだ。

 なんで俺はこんなにも馬鹿なんだ、なんでこんなにも愚かなんだ、関係ない人を恨んで…自分の罪から逃れようとして、その為に死のうとするなんて…今俺が死のうとしているのは、美良さんを忘れようとしているからだ…

 もういっそのこと、誰にも会わない山奥にでも行こうか。そこで本当に仙人にでもなってやろうか、心の弱さを鍛えなおそうか。

 そうしよう。でも最後に…最後にもう一回だけ。

 俺は包丁を手に取る、さっきは腹だったが…今度は首にしよう。包丁を逆手に持ち、思い切り首を…

「やめなよ」

 意外な人の声に、俺は驚いて手を止めてしまった。

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