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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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心を奪われる

 血…朔日の胸からぽたぽたと落ち、下の雪を赤く染める。息も荒くなってきている、そろそろ限界なのか?

「けっ……やるな少年…、ちょっと見くびってたわ…けほっ…」

「無駄なことは喋らなくていいです、美良さんを元に戻してください」

 すでに虫の息の朔日に向かい、俺は慈悲のない言葉を浴びせる。可哀想とは思わない、ざまあみろとも思わない、ただ早く美良さんを戻せと…それだけを考えている。

「そいつはできない相談だな……少年よ、人を殺した事があるか」

 その言葉が何を意味していたのかはわからない、俺はあるぜ…、とでも言いたかったのだろうか。なんにしろ質問に答える必要無し、俺は黙って目で訴える。

 次にこいつが関係ない事を言えば、腕の骨でも折ってやろうか、それとも足か?ははっ、悪役のセリフだなこれ。

「何も言わないか……ゲホッゲホッ…、まぁ少年はまだ若いし…そんな事はないだろうな」

 1人で質問して1人で解決している、確かに俺は人の命を奪った事はない。多分…うん、多分ない、というか知りたくない。

 さっさと美良さんを戻してもらおう、これ以上は時間の無駄だ。

「何が言いたいんです、無駄口は叩かなくていいですから…早くしてください」

「なぁ少年、人間ってのはよ…最低な生き物なんだよ。分かるか?虫を見ては気持ち悪いと殺し、口に合わない物をまずいと捨てる…人間は、無意識に殺意を溜め込んでいる。だったら何故、人間は他人を殺す事を躊躇う。違う、躊躇っているんじゃぁない、自分の気持ちと行動を無意識にセーブしているんだ。殺人はやってはいけない、周りの環境がそうさせているんだ。だがそのストッパーが外れた時、人は殺人鬼へと変貌する。そして、それが当然となった環境は、それを異常と思わない。そんな世界があるって事を覚えとけ、そして、今からお前がする事を覚えておけ。さっきも言ったが俺だって人間だ、目的があり、俺なりの希望がある。今から死ぬ運命に……俺は抗う」

「……えっ…?」

 朔日の長いセリフが終わると同時に、俺は後ろから攻撃を受けた。何の予兆もなかった、渦の禍々しささえ感じられなかった。

 当たったのは美良さんの魔弾、しかし痛くはなかった。美良さんの能力を受けたのだ。


 くそっ…目が見えない、あれっ…⁉︎俺は今、喋っているはず…聞こえない、自分の声が聞こえない。心で考えているのか?そんなわけがない、だって口は動いている。うおっ⁉︎…何だ風か、やけに強く感じられるな。あー、目と耳と触覚か…


 美良さんの能力に完全に侵された、美良さんの能力は『五感を奪う、強化する』能力…不安定な感覚器官サイコシーフに今の俺は視覚と聴覚を奪われ、触覚を強化された状態だ。

 これがまた厄介…もとい強すぎる。美良さんの能力は一長一短だが、長の部分…視力と聴力と嗅覚を強化すれば、どれだけ離れていても視認でき、音と匂いで探知する事が可能な超強化人間の誕生となる。

 短の部分…例えば、触覚を強化すれば風の流れで相手の動きを察知できる、しかし、攻撃が当たれば異常なまでに痛みを感じる。それはもうデコピンで気絶できるほどに。

 俺はその能力で弱体化された状態となっている、奴が何故触覚を強化したのかは知らないが、何にしろ目と耳が使えないのはまずい。


 くっそ、俺は訓練とかされてないから風の動きで探知とか無理だぞ。何する気だ一体…何にしろ、俺を痛みで苦しませて殺すのには十分すぎる。逆転の策…重力を弄るか、…⁉︎いない⁉︎渦の中に逃れたか。こんなのどうしようもないじゃないか!


 突然、何かがぶつかる感覚があった、しかし痛くない。これは美良さんの魔弾だ、それにより視覚と聴覚が戻った。

「捕まえたぞ、少年…」

 しかし、渦から出てきた朔日に俺は頭を掴まれた、触れられているだけなのにすごく痛い。触覚は強化されたままのようだ。

「なぜ視覚と聴覚を戻したんです?俺を殺したいのなら奪ったままで十分なはず。あと痛いです、離してください」

 俺は飛びそうな意識の中で、自分の身体に起きている異常に気付きながらもそう言った。

「へっ…だったら自分から離れればいいじゃないか、どうしたよ、え?」

 血を流しながら言うこいつには狂気が感じられる、まるでこれから連続殺人でも起こすかのような、そんな感じが伝わってくる。

「まぁネタバレすると俺の能力だ、お前は『渦で飲み込んだ物を出し入れできる』とか何とか考えてたんだろうがよ、それは違う。この渦はただの移動手段、それの応用だ。本当の能力は今、少年と嬢ちゃんが体験している…」

「『脳に直接命令できる』ですかね」

「その通り、数多の手足マインドマインまぁ触れた状態じゃなきゃ命令できないが、1度命令すれば手を離しても洗脳できたままだ。しかも触れている時は特別じゃない限り、喋る以外何もできないおまけ付きだ」

 何てことだ、だいたい予想はついていたが美良さんは『能力』で洗脳されていたのか。こいつが渦ばかり使うから錯覚していた。

「で、何するんですか、俺を洗脳してそこにいるゆりさんと瑠璃さんも洗脳して仲間にするとでも?」

「何言ってんだ少年、そいつらなら視覚と聴覚を奪った時に渦で適当な場所に送ったよ。少年もなかなかやるが…もう仲間はいらねえな、だからこうするんだ…」

 見てみるとゆりさん達がいない、一体どこへ……

 ここで俺の思考は止まった。

 脳に朔日からの命令が送られてくる、だが自分の意識は生きている、今の俺は操り人形のような状態だ。

 そして俺はこいつの命令に従う。


 送られてきた命令……「潰せ」

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