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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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嘘つきと正直

「騙すのが好きなんですよ…俺は」

 刀から放たれた自動追尾ホーミング弾は朔日向かって飛んでいく、美良さんはやつを守る事ができる状況ではない、確実に当たる。

「ふっ…お話にならんな」

 奴の前にいつものが現れる、黒い渦だ。自動追尾ホーミング弾は黒い渦に吸い込まれる…というより、その弾の軌道に黒い渦を発生させる形だった。

 吸い込むと同時に黒い渦は消える、弾はどこに行ったんだ?

「少年、お前今『弾はどこに行ったんだ?』とか考えてんじゃねぇか?」

 なんと…正解だ、久々に心を読まれた、真知さんと会った以来だろうか、なかなか心を読む奴とは会わない。というか優しい真知さん以外会いたくない。


「教えてやるよ、下だ」


 下?俺は恐る恐る下を見る、嫌な予感がしたため朔日にかけていた能力じゅうりょくを解き、自分にかかる重力を小さくする。

 案の定あったのは黒い渦、そしてその中から出てきた俺の放った弾、奴のこの渦の中はどうなっているんだ。

 そんな事はどうでもいい、俺は必死で避ける。しかしさすが俺の自動追尾ホーミング、凄い性能だ。

 ただ標的が俺に変わっている、自分を軽くしていてよかった、少し動きが遅れていたら腕くらい飛んでいっただろう。

「ははは、馬鹿だなぁ」

 朔日のその言葉を合図に美良さんが、自滅しかけている俺に追い打ちをかける。今度は俺に教えてくれた遠距離弾、しかし明らかに威力とスピードが違う、避けられるかこんなもん。

「じゃあこれです!」

 最終手段、強い重力を1つ1つの弾にかける、もちろん上下左右360度、全てからだ。最初は自分の自動追尾弾、次に避けられそうにない美良さんの弾、避けながらこれをこなす為、かなりの集中力が削られる。

 そんな最中、俺はある事を思いつく。

「…‼︎そうだ、美良さんを止めればいいじゃないですか」

 集中力をすり減らしながら考えついた最高の策、これなら邪魔される事も、美良さんを傷つける事もなく朔日を攻撃できる。

 逆になぜこれを思いつかなかったんだ、ピンチに弱すぎるぞ。対抗策が浮かび少し浮かれている、早速実行だ。

 弾と同じように全方位から重力をかける、潰してはいけない為力は抑え目だ。

「……⁉︎チッ…」

 やったぜ成功だ、腕をほんの少し強めに抑えている為、指が下を向いている今は攻撃が出来ないはずだ。

「さて、ようやくあなたの番ですよ」

 俺はゆっくりと朔日に迫る、遠距離はさっきの渦に飲み込まれるだけだ、今度は直接切る。

「覚悟‼︎」

 思い切り地を蹴る、自分の重力は軽くしたまま、その為スピードは異常だ。奴との距離約10メートル、奴の胴に狙いを定める。

「…へへっ、気ぃつけとけよ?」

 こいつは笑ってそう言った、体を真っ二つにされそうなのになぜ…俺は一瞬、ほんの一瞬だけ戸惑った。

 そして幸か不幸か、その戸惑いが俺を助ける事になった。

 俺が刀を振る少し前、奴の隣に渦が現れる、そこから出てきたのは人の腰の辺りだ。とっさに刀を止め、距離をとる。

 嫌な予感がして美良さんを見る、そこで俺の予想が当たっていた事が分かった。人に必ずあるはずの胴がないのだ、ちょうど胸の下の辺りとおへその少し下に黒い渦がある。

 その光景はハンマーで叩いた直後のだるま落としを見ているようだった。奴の能力くろいうず、これは『渦で飲み込んだ物を出し入れできる』能力だろうか、そう仮定しておく、そうとしか考えようがない。

「あーあ、あとちょっとで本当に嬢ちゃんの体が真っ二つだったのに、仕方ねぇか、俺優しいから教えちまったもんな…」

 ちっ…こいつふざけた事を、こんな事は優しい奴がする事じゃない。もっと世間に役立つ事をしてから言え、例えば薬売りとか。

 そんな俺の怒りも気にせず、朔日は続ける。

「まあなんだ、ついでだから教えとくけどよ、俺は人を騙すってのが大嫌いなんだ。そういう奴を見るとムカムカしてくる、つまりお前の事だ。人を騙すのが大好き?俺はそういう奴にはこう言ってるよ、地獄に堕ちろってな」

 朔日はそう言って強く拳を握る、マントから少しだけ見える目には怒りが含まれていた。

 なんだこいつ、勘違いしてるんじゃないか?俺の言っている『騙す』は人を驚かせる『騙す』だ、嘘もつくけど他人が不幸になる嘘はつかない。

 まぁあいつも一人の人間、嫌な事くらいあるだろう。でもそれと同時に俺も一人の人間だ、俺もこの際はっきり言わせてもらおう。

「あぁそうですか、俺も嫌いなやついますよ。知ってますか?あなたが嫌いと思っている人は、その人もあなたの事嫌いなんですよ。つまりそういう事です」

 皮肉を込めてそう言う、はっきり言うと俺はこいつが嫌いだ。そして許せない。

「ふっ…ふははは!おもしろいじゃないか、いいよやってやるよ、お前を地獄に堕としてやるよ…‼︎嬢ちゃんを自由にしてやれ、そうしたら戦ってやる」

「その言葉、偽りはないですね」

 俺は語尾を上げる事なく言った、理由は分からないが、こいつが言った事を信じているからだ。

「もちろん、俺が動くなと言えば嬢ちゃんは動かないし嘘は嫌いだ」

 美良さんにかけていた重力を解く、すると美良さんはそそくさと朔日のもとへ戻った。その行動が俺の決意と覚悟を固くする、美良さんが俺の元へ…胡桃さん達の元へ帰ってくるようにする為に。

 絶対に勝つ、例え無理でも…必死にくらいつけばいつか…



「瑠璃、どうなってる?」

「ええ、ようやくまともな戦いが始まりそうです。そちらはどうでしたか?」

「そうね、さっきの爆音でもしかしたらと思ったけど…大丈夫。あの人は蓋を破壊すれば封印は解けると思っているようだけど、正しい方法じゃなかったから助かったわ」

「そうですか、ですがもし…もしあいつが勘違いしてアレを飲んだら・・・・

「大変な事になるわね。私達も戻りましょう、そうならないように」



 ゆりさん達がどこかから出てきた、おそらく屋敷からだろう。まぁ出てきても今からは一騎打ち、見学だけになるだろう、かっこ悪い姿は見せられませんね。

 刀を構えて、俺はそう考えた。

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